第十六話 機内に刃物を持ち込んではいけません?
国際線、国内線を問わず、飛行機の機内にいかなる刃物も持ち込んではいけないことは、ほとんどの方がご存じだと思います。
でも、私は過去に、機内で刃渡り20cm以上ある大型ナイフが、"ビュッ"と振り回されたのを見たことがあります。
1991年、私が大学の研修旅行に参加して、中国のシルクロードを旅した時のことです。
上海から西安経由で烏魯木斉へ移動する国内線の中で、機内食が出ました。(ランチボックス)
なぜかその機内食には、ガチガチに真空パックされた"鉄砲漬"(胡瓜や白瓜の真ん中の種部分をくり抜いて、紫蘇や唐辛子などを詰めてたまり醬油に漬け込んだ食品)が入っていました。
包装にちょっぴり怪しい日本語が書かれていましたので、たぶん、日本向け輸出品の残りを中国国内向けに転用したのだと思います。
日本製と違って、袋にきちんと切れ目がないので、旅行に参加しているメンバーは全員、真空パックを開けるのに四苦八苦していました。
と、その様子を見かねたのか、隣の席に座っていたウイグル族のおじさん(民族帽をかぶっていたので、すぐにウイグル人だと分かりました)が、我々に対して、ジェスチャー混じりに、
「その漬物の袋を、こちらにかしてみなさい。私が開けてあげましょう。」
と言ってくれました。
有り難くお礼を言って、我々が漬物の袋を手渡すと、そのウイグル族のおじさんは、民族服の腰にぶら下げていた刃渡り20cm以上ある大型ナイフを鞘から抜き、
"シュパッ!!!!"
"シュパッ!!!!"
"シュパッ!!!!"
と、すごーく良い音をさせて、真空パックの上部を連続で斬り飛ばしました。
「うわっ、すごい切れ味だ~、これって、人の首くらい簡単に切れるよね?…何だかヤバくね?」
「袋を開けてもらっておいて悪いけど、このおじさん、テロリストじゃないよねぇ?」
「そもそも、なんで機内にこんな刃物が持ち込めるの?…中国っておかしくな~い?」
「もうこれくらい長さがあると、ナイフじゃなくて、カタナだよね。」
我々はウイグル族のおじさんが日本語が分からないのをいいことに、かなり失礼なことを口にしつつ、もそもそと塩っぱい鉄砲漬けをかじったのでした。
そして、おじさんは、あくまでもニコニコしながら、いつまでもそんな我々を見守っていたのでした。