「右往左往の作法」(1)
〝右を見て左見て真っ直ぐに行くはずが
気がつけば夕暮れで白骨化しそうです〟
大学の下見。そんな適当な理由で東京に行くことを許された。信じる親が馬鹿なのか、僕が真面目に生きてきた成果なのか。どちらにしても笑えない、けれどありがたい。
メリーホルダーがメジャーデビューして初のツアー「ふ・愉快な抱擁」はライブハウスを巡るものとのことだった。今までこんなにも音楽にのめり込んだことは無かったし、アーティストのライブを観に行くのも初めてだ。もちろん、地元にライブハウスや音楽ホールが無いというのも大きな理由ではあったけれど。
東京。ライブのチケットを手に入れてから公演場所を確認したけれど、現在地からの距離を表す地図アプリの数字に溜息が出た。交通費……。地図アプリを閉じて、なるべく金を掛けずにたどり着く手段を検索する。高速バスが良さそうだったので、今度はそれを予約する。
ライブに行くことはクラスメイトにも言っていない。教師には大学の下見ではなく法事だと告げた。疑われることはなく、また自分のことが少し嫌いになった。
有沢さんには誘いのメールを送ったのだけれど、特に生演奏を聴きたくはないと断られてしまった。学校にはまったく姿を現さなくなった彼女だけれど、一日中家にこもって何をしているんだろう。
ライブは約一ヶ月後の金曜日。平日に学校をサボって遊びに行くなんて、古臭いテレビドラマみたいだ。耳の中で鳴っているメリーホルダーが、ふらふらするなと叱責する大人達に牙を剥いていた。
〝ふらふらしています ふらふらしたいから
ふらふらしています ふらふら駄目ですか?
右を見た淫らな娘 あっさりと踏み出して
追いかける僕はもう全力は出せません〟