「謝罪請求」(2)
〝一番ってなんだ? 傷ばっか増えて
被害/加害で裁いても無駄さ
可笑しいのは社会、お前の法だろ?
許してやらないから早く謝れよ〟
この町はもう終わりだ。身内の集まりや近所の飲食店で、大人達が笑いながらそう口にするのを幼い頃から幾度と無く見てきた。僕は数ヶ月後に十八歳になるけれど、この町よりも先に寿命を終えた大人も多く存在した。死にゆく町を嘲笑いながら、その町の中で一生を終える。そんなのは御免だ。
眼鏡を掛けた男性教師が、数列について独り言のような小声で話している。無駄に細い長方形のレンズの向こうにある瞳は更に細められていて、数列よりもそっちの面積比の方が気になってしまった。
神経質で根暗、という見た目通りの評価に加えて、この頃は女子生徒をいやらしい目で見ているロリコンだ、などという噂まで出て来た。根も葉も無い噂なのか、それとも根くらいはあるのか、はたまた花まで咲いているのか。真偽はわからないし興味も無いけれど、噂が立った時点で終わりは見えているし、残念ながら生徒側には終わりをつくることさえ出来る。
法律に守られている上に愚かで残酷で容赦が無い、僕達はいつだって最悪になれる。
有沢さんから届いたメールは相変わらず意味不明で、詩的だとしても行き過ぎていて、そういうおかしな所が可愛いなぁと思った。可哀想だと馬鹿にしながら 笑うなんて、この町を笑う大人と大差無いかもしれないな。けれど、僕は有沢さんの胸に抱かれて死にたいとは思わないから、今日も喪服のような制服を着て授業を受けている。
斜め前の席では、両腕を枕にしてうつ伏せになった羊岡さんがすやすやと寝息を立てている。それを注意すべきかとチラチラ見ている男性教師が少しだけ不憫に思えてきた。ロリコン説、また広まるだろうなぁ。
元チームメイトに決まり事のように声を掛けて、家路に就く。門を抜けてすぐにイヤホンを差した。昨日初めて聴いて、すっかりハマってしまったメリーホルダー。有沢さんは素敵なセンスを持っているね。来月にはメジャーデビューアルバムが発売されるらしいから、それまではこのインディーズ盤を繰り返し聞くことになりそうだ。
そういえば、と思い出す。うつ伏せで眠っていた羊岡さんは有沢さんの唯一無二の友達だ、と有沢さんが言っていた。けれど、有沢さんが教室に来なくなっても彼女はいつも通りで、他のクラスメイトと笑い合ったり慰めあったりしている。
有沢さんのこと、死んでいく町のこと、大人達のこと、子供達のこと、僕のこと。どれについて誰が謝るべきなのかわからなくて、それでも鼓膜を伝って謝罪を求める音楽は鳴り響いていた。
〝間違ってるんだ 気違ってるんだ
互い違いに気遣ってるんだ
可笑しいのは世界、お前の方だろ?
許してやらないからもっと誤れよ〟