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メリーホルダーは聴こえない  作者: 堀井ほうり
21/22

「裸眼百景」

〝君だけを見てたよ 何も見えてなかったよ

 コンタクトレンズのような 薄っぺらい愛の言葉

 剥がして ぼやけて 滲んだ景色

 使い捨てだから 早く忘れてね〟


 幼稚な子供なんです。愚かな子供なんです。

 なーんて、自分を卑下することによって「解ってるわたし」を演じているだけだよね。

 そんな会話ばかりしているわたし達だった。その会話がそのまま「解ってるわたし」だったし、そのことにはちゃんと気付いていたので「解ってるわたしを解ってるわたし」だったし……のループでゲシュタルト崩壊しそうだった。あ、今のはただ「ゲシュタルト崩壊」って言いたかっただけだね。


 ロックバンドは音楽性の違いで解散する、っていうのがカッコいい理由、というか解り難くてカッコよく聞こえる理由だけれど、わたし達は……。

「別れましょう」

「了解」

 建前も理由もなく、記念日でもなんでもない、ただの真冬の夜に解散した。

 ラストライブも打ち上げもないまま、つまらないタレントになる素質もなく、十年後くらいにCMで使われれば御の字かな、というレベルの恋だった。恋、だった。


 わたし達が解散した夜、ラジオ番組ではメリーホルダーのラストシングルが初オンエアされていたらしい。

 相変わらずひねくれた恋を唄っていて素敵だった、とアーリーはメールの中ではしゃいでいた。



 解散から数日が経って、わたしはどこへ向かっているのかわからないまま、ベッドの上で自室の天井を仰いだり、うつ伏せになったりしていた。   

 アーリー。有沢ヒカリ。学校に来なくなってからも生きている彼女。わたしはどこかで彼女を見下していて、憧れていて、大好きだった。

 きっと物語のヒロインはアーリーで、わたしは彼女と少し会話をする程度のサブキャラクター「少女D」。それでいい。わたしにスポットライトは似合わないし、ハッピーエンドも似合わない。

「ハッピーエンドを目指せよ」

 どこかで聞いた声が耳元で鳴った気がした。

 トーンの低い、少し嗄れた声。

 不二咲ヌガー。手を付けられなかったコーヒーの湯気。高橋くんの手。メリーホルダー。

「あーあ」

 溜息が言葉になって漏れた。

 それから目を閉じて、少しだけ、未来のことを考えた。



〝剥がして ぼやけて 滲んだ景色

 使い捨てなのに 替えが利かなくて〟



 進学先を変えた理由を、親には話さなかった。適当にでっち上げたもっともらしい理由で納得してもらって、わたしは卒業と同時に東京に行く。

 あの夜のことは、美しい秘められた記憶として、わたしの脳に刻まれていればそれでいい。

 地元に留まって安定した絶望の中を生きることよりも、上京して死の宣告を受けることをわたしは望んだ。何者かになれる可能性を求めて、わたしはわたしを傷付けに行く。


「旅に出ます。捜さないでください」

 旅立ちの前夜、高橋くんと短いメールのやり取りをした。 

「了解。僕はたぶん、ずっとこの町にいます」

「町と心中するの? さようなら、だね」

「さようならだよ。生きていたら、いつか、またね」

「元気でね」

「了解」


〝君だけを見てるよ あたしだけを見ててよ

 乾いたらさよならなんて 使い捨ての夜は終わり

 剥がして 破いて 裸眼のままで

 生きていけるけど ずっと憶えてて〟

  

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