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メリーホルダーは聴こえない  作者: 堀井ほうり
20/22

「無回答」

〝空欄のまま提出します

 空欄のまま提出します、が

 空欄のまま提出した意味を

 わかってくれますか?

 無理ですか そうですか〟


 夏を越えて秋を越えて、冬がかすかに匂い始めた頃、俺はまだ何者でもないままだった。

 自称音楽家、不二咲ヌガー。

「くだらねぇ」

 昔組んでいた連中と夢を見る素振りで、実際は埃っぽい過去の輝きについて語り合い、慰め合うだけの生活。

「くだらねぇなぁ、ほんとに」

 ヌーディストピーチが空中分解してから、いや、そのずっと前から俺は知っていた。俺には輝きは似合わない。幸福は似合わない。スポットライトを浴びて好きな歌詞を唄う人間に、俺はなれない。思い込みなのかもしれないが、そう思い込んでしまうことがそもそもの俺の敗因だ。誰に敗けたって? 知るかよ。


 安い居酒屋からの帰り、歩きながら思い出すのは決まってあの夜のことだ。

 ミラーボールの下、田舎者感丸出しで手を繋いでいた二人。何者でもなく、未来を夢見ているわけでもなく、ただステージを見つめて、睨みつけて、駆けるように去っていった。

 あいつらはいつかの俺だったし、今の俺だった。諦めの底にきらきらした何かを求めて、けれど何も知らない振りを続けている。

 その二人をわざわざ捜して、どうでもいい話をしていい気になる自称音楽家。あいつらの目に俺はどう映っていたのか。安っぽい詐欺師、それならばいい。あのステージの景色なんて忘れちまえ。夢を見るなよ。憧れるなよ。たまたま上手くいった人間を見て「いつか自分も」なんて思うなよ。

 

〝空欄のまま提出します

 空欄のまま提出します、が

 空欄の上、名前だけは書くよ

 許してくれますか?

 笑うなよ 笑うなよ〟


 冬が始まり、ミラーボールよりも幾分派手なイルミネーションが街を輝かせる夜に、メリーホルダーは解散を発表した。

 その夜、珍しく俺はシラフで、それなのに朝が来るまで独りめそめそと泣き続けた。部屋の角に立てかけていたギターが街灯の明かりに照らされて、少しだけ美しかった。


 「ラブソングだろ、」

 朝日に誘われて窓を開けると、刺すような冷気が頬を撫でた。

「安っぽくていいから、くだらなくていいからよ……」

 自分なりのハッピーエンドを目指して、俺は部屋を出る。

 

〝空欄のまま提出します

 空欄のまま提出します、が

 空欄の上、名前だけは書くよ

 花丸を待ってるよ〟

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