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メリーホルダーは聴こえない  作者: 堀井ほうり
18/22

「透ケルトン」(2)

〝勇気を出して歩く歩く 暗い夜も

 泣いてばかり 迷ってばかり 眠れなくて

 塞がれた道を関係無いモードで迂回

 出来ていたなら僕ら 上手くいってたの?〟


「コーヒー」

 店員に人差し指を立てて、その人は言った。ベルを鳴らして扉から入ってきたその人は、真っ直ぐにわたしたちの席に近付いてきて、まるで待ち合わせをしていたかのように高橋くんの隣に腰掛けた。ボックス席、横長のソファが少し軋む。その音がどこかメリーホルダーのボーカルの叫び声に似ていて、少しだけ不愉快な気持ちになった。

「自称音楽家、不二咲ヌガー、ってんだけどよォ」

 唐突に放たれたその台詞がその人の自己紹介であることに、だいぶ時間が経ってから気付いた。



「あいつらは正しさの権化だ。でもよ、正しさって何なんだろうな」

 その人はわたしたちにメリーホルダーの話をしてくれた。

「浮かれることもなく、地道に、真面目にやってきた奴らだ。最高につまらない優等生だ」

 素敵な話。

「実力を見せつけて、蹴落として、輝いていた。あいつらのせいで何人のミュージシャンが死んだと思う?」

 楽しい話。

「殺したいかって? 当たり前だろ。でも好きだ。最高だ」

 悲しい話。


「結局、音楽なんてものは嗜好品だ。求める客次第で何もかもが変わる。世界が変わることもあれば、蟻一匹さえ動かないこともあるさ」

 ハッピーエンドを目指せよ、少年少女。

 一方的に話し続けた後、結局店員が持って来たコーヒーには口をつけないまま、その人はわたしたちの前から去った。

「苦いよ、やっぱり」

 不二咲さんが置いていったコーヒーを飲む高橋くんの喉仏をわたしは見ていた。それから微笑んで、高橋くんに訊ねた。

「今からホテルにでも行こうか?」

「残念ながら、僕は義務も果たしていない未成年なので賛同できかねるよ」

 即答された。

「そういうところが人気の理由なんだと思うけど……まぁいいや。じゃあどうする? お互い受験生っていう、理由になっていない理由で男女交際を始めてみる?」

「やぶさかでは、ないかな」

 カップをそっと置いて、高橋くんはわたしの手に触れた。

「あったかくて、気持ち悪いね」

 高橋くんはそう言って笑った。わたしも笑った。


〝勇気を捨てた右手ばかり 見つめたって

 何も無いよ 何も無いよ 皺だらけさ

 閉ざされたケージ 安定されて不安定で

 どうかしていた僕ら 同化したくて〟

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