「dis・二ーランド」(2)
〝探り当てた窪みで すべてを許せるの?
汚れたら洗って 忘れれば幸せ?
どっちから背中向けても あの神様のフェアリーランド
二度と誤ったりはしないから
殺めてあげる〟
「羊岡、さん?」
「んー?」
「僕たちはどこへ向かっているんですか?」
「んー」
半ば引きずられるように、ひったくられた鞄のようにメリーホルダーから離れていく。容疑者は羊岡さんで、被害者は僕だ。羊岡さんは巧妙なトリックを自慢げに披露する犯人のような爛々とした瞳を出口に向けて、一切の迷いなく歩みを進めている。僕の言葉や意志は完全に無視だ。
「ああ、いつも通りだ」
自分の中に逆らいたい気持ちが無いことに気付いて、僕も自分の足を羊岡さんの速度に合わせた。この曲はちゃんと聴きたかったけど、まあ、いいや。
最初から後ろの方で観ていたから、出口にはすぐにたどり着いた。特に誰かに止められたり見咎められたりすることはなかった。ただ、出口のそばに居た古臭いバンドマンみたいな風貌の男の人がひとり、不思議なものを見るような目で僕たちを眺めていた。
僕たちはドア一枚を隔てて、しんとした受付フロアの乾燥した風を浴びることになった。
出て来た壁の向こうからは楽器の音やボーカルの歌声が聴こえているけれど、そこにさっきまで自分がいたという実感は無い。遠い遠い世界だった。
「高橋、くん」
名前を呼ばれて、ふたりきり手を繋いだまま立ち尽くしていたことに気づく。羊岡さんの顔は紅潮していて、けれど少しも健康そうには見えなかった。無理矢理走り込みをさせられたランナーのような苦しそうな表情をしていた。
「高橋くん」
「うん。どうしたの? 羊岡さん」
僕が名前を呼び返すと、彼女は小さく息を吸って、そして僕に訊ねた。
「わたしは、どこへいけばいいんだろうね?」
「……はは、ははっ」
フロアの空調と同じような乾いた笑い声が自分の喉から漏れた。
「笑いごとじゃないんだよ……」
手痛い失恋をした女の子のような声音で、羊岡さんはうなだれた。そうだね、じゃあ……。
「来る途中に喫茶店、あったよね? そこ行こうか」
我ながら安いナンパみたいだなぁと思った。それでもどうやら正解だったらしく、羊岡さんは微笑んでくれた。
よく知らない都会の行ったことの無い喫茶店に僕たちは向かう。手は繋いだままだった。
〝造り上げたボクらを 見下し笑ってる
壊れてもそのまま 神様は自由だ
願い事取り下げますよ この広大なディス二ーランド
二度と逢わないからね、本当にね
さみしくなるね〟