「クルマレ」(1)
〝くるまったシーツ 吐き出したチーズ
軋んでも 軋んでも 迎えは来ないよ
薬指の小細工 噛み千切って それも全部
くるんで くるんで 明日が来るまで〟
わたしが参戦した最初で最後のライブだった。今ではそのライブの記憶は曖昧で、けれどそのあとのカズヤとの出来事は懐かしく思っている。
ラジオのボリュームを少し落として、忘れられないあの夜のことを、わたしは思い出す。
〝苦しんで死んで 訪れるピース
軋んでも 軋んでも 迎えは来ないよ
薬箱の中身を 噛み砕いて それで全部
忘れて 忘れて 明日は雨かな?〟
五感をメリーホルダーに支配されて、死んでしまいそうだった。
幸せな幻の中で死んでしまいたいなんて、そんなロマンティストなキャラクターではないと自覚していた。けれど、そんな夢を見てしまう程度にはわたしは馬鹿で、純粋で、幼かった。
メリーホルダーが歌っている。わたしのために歌っている。もっと支配してほしい。わたしの脳を、五感をすべて。
「あー。そうか、わかった」
右隣から聞こえた声。音楽と歓声の間をすり抜けるように、その声はわたしの耳に届いた。届いてしまった。
ほんの一瞬、我に返って、それだけでわたしは駄目になっていた。それまでの、メリーホルダーを愛していたわたしはいなくなってしまった。
天井から吊り下げられたミラーボールは綺麗なのにどこか安っぽくて。人間の熱気で会場は噎せ返るくらいになっていて。
メリーホルダーはステージで音楽を鳴らしているのに、わたしは今、ここに来て何をしているんだろう? 音楽を聴きに来た? 違う。彼らを生で見てみたかった? うん、それが近い。わたしはメリーホルダーという名前の神様に会いに来たんだ。そして、彼らが生身の人間だということに、やっと気づいた。わたしがあまり好きじゃない、生身の人間だ。
わたしは右隣に視線を移す。夢を醒まさせた犯人は、教室にいるときと同じ笑顔でステージを眺めていた。だから、わたしはそいつの左手を握った。わたしの手のひらは汗をかいていて、酷く汚かった。
〝くるまったシーツ 吐き出したチーズ
軋ませろ 軋ませろ 迎えは要らない
薬指の小細工 噛み千切って 骨も全部
くるんで くるんで 明日はゴミの日〟