「スカートの中に降る雨」(2)
〝あなたは悪くない あなたは悪くない
あなたは悪くない あなたは悪くない
恥ずかしいから泣いてるんだよ
少しも悲しくなんかない〟
ヌーディストピーチ、という名のダサいバンドだった。俺がボーカルとギターで、曲も全部作っていた。そして、売れる気配のないまま空中分解した。
メリホ、メリーホルダーとはその頃に何度か対バンしていて、正直キラキラしているあいつらは鬱陶しかった。今思うとただの妬みでしかない。
居酒屋から安いホテルを経由して、明け方の路地を独りで歩いている。名前を知らないままの女はまだすやすやと寝息を立てているだろうか。
ホテルのゴミ箱にはクシャクシャに丸めたメリホのチラシを眠らせておいた。居酒屋であいつらについて饒舌に語る女のお陰でだいぶ不愉快になれた。チラシを箸でつつきながら笑う女は「ヌガーくんも好きだよ」とついでのように俺の名を呼んだ。
メリホがメジャーになって初のツアー、か。チラシに書かれていた日付を思い出しながら、次第に明るくなっていく空を見上げる。
あーあ、俺は何をやっているんだろうな。
自称ミュージシャン、不二咲ヌガー。この名前を捨てられないまま、俺は今日も都会の隅をふらふらとしている。
〝あたしが悪いよね 明かりを暗くして
独りは怖いから あたしを悪くして
スカートの中 降りしきる雨
誰にも誰にも言わないで〟