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 遠い……。

 遠すぎる…………。

 都内某所にある明智探偵事務所、つまり俺の家から電車で一時間バスで三十分。こんなとこ誰が住むんだよ……あ、だから引っ越されたくないのかな。

 さらに歩くこと十分、ようやくついた。


「すみませーん! 明智ですけどー!」

 

 聞こえてないと思いつつドアをノックする。


「あ、はーい!」


 聞こえてたのかよ。防音性は低いみたいだな。


「お待たせしました。えっと、先にお茶でも飲みますか?」

「いえ、先に現場を見せてください」

「仕事熱心なんですね」


 柳田さんは微笑みながら外に出てくる。その際ドアフックで完全にドアが閉まらないようにしている。


「オートロックなんですか?」

「え?」

「鍵ですよ。そうやって閉まらないようにしてるから」

「そ、それは……あ、誰か来たみたいですね」


 彼女は話をそらすように俺の後ろを指さした。

 つられて振り返ると、熱い中スーツを着込んだ二人組がやってくるのが見える。

 パッと見、刑事ってとこかな。現物を見たことがあまりないから何とも言えないけど。


「柳田さん、少々お話よろしいですか?」


 太った方の人が俺を押しのけて話しかけた。おい失礼だな。


「えっと……いま取り込みちゅ――」

「今日は犯人が見つかったのでご報告をと思いましてね」


 小太り刑事(命名、俺)は人の話を聞いてない風に続けた。しかももったいぶってるからすごくむかつく。


「本当ですか?」


 うさん臭さを漂わせる彼の言葉に柳田さんも懐疑的な様子だ。


「ふふふ……今回はややこしい事件だったので少してこずりましたよ」


 いや前置きはいいから早く教えてよ。本当にあってたらこっちは早く仕事を探さなきゃならないんだからさ。

 俺の突っ込みなど聞こえるはずもなく、小太り刑事は更に勿体つけて答える。


「はい、犯人はずばり――」


 すごく間があった。ドラマならCMが入りそうな間だ。


「あなたです! 柳田さん!」


 な、なんだってー(棒)

 ビシィィィッ! って効果音が似合いそうなほど自信たっぷりに指さした。しかし『な、なんだってー(驚愕)』とリアクションを取るノリのいい人はこの場にいない。

 しいて言えば柳田さんがびっくりして肩を跳ねさせたくらいだが、これはとばっちりを受けたせいだと断言できる。


「な、何で私を犯人にするんですか? 根拠はあるんですよね⁉」

「はい、あるんですよ。そ・れ・は――――」


 前置きはいらないって。


「あなたが各部屋の合い鍵を持っているから、です! 現場は密室で部屋の鍵は被害者がしっかりと握っていた。つまり――」


 そんな間はいらないって。カメラ回ってないんだから目線はいらないし。


「合い鍵を持っているあなたしかこの状況を作れないん、です!」


 なんだその三流推理小説のようなオチは。

 

「馬鹿かあんた」

「何だね、キミは。僕のパーフェクトな推理のいったいどこが間違っているというのだい?」


 気付いてなかったのか、おい。

 つかどこがパーフェクトなんだよ。


「あ、申し遅れました。ワタクシこういう者です」

 

 ズボンのポケットから名刺を取り出して小太り刑事に渡す。


「なに……探偵、明智小五郎あけちこごろう? ふざけてるのかね? 公務執行妨害で逮捕するぞ」

「しょうごろうだっ! ちゃんとルビ振ってあんだろ⁉」

「で、いったい何の用だい?」

「あんたのパーーフェクトな推理(笑)は根本的に間違っているところがある」

「ほう?」

「――――動機、それが説明できない」

「……は?」

 

 小太り刑事がきょとんとした顔になる。


「そうですよ! 私が犯人だっていうなら説明してくださいよ!」

「柳田さんの言う通り。いくら犯行方法をでっち上げたとしても理由が欠如していれば冤罪となりうる、てわけで教えてくださいよ」

「それは……騒音だよ! 被害者の安藤絵理あんどうえりさんは夜中に騒音を出していたという証言があるんだよ。ほら、立派な動機だ」

「だったら殺す必要がないでしょ? 注意するなり立ち退かせるなり、最悪の手段でも現場をここにする必要はない」

「うっ……確かに…………じゃぁ君にはわかっているとでもいうのかね?」


 いやいや俺はどこの毒舌執事だ。話だけで分かるかよ。


「詳細が分からないので何とも言えませんよ」

「なら教えてあげるから解いてみたまえ!」

「……一般人に捜査情報を教えてはいけないのでは……?」

 

 存在感のなかったひょろっとした刑事が口を開くもあっさり無視された。


「事件が起きたのは先週の金曜日の夜中。被害者は音大生の安藤絵理さん21歳、死因はナイフに塗られたアコニチンという毒物――」


 トリカブトに含まれる毒か。


「死亡推定時刻は午後11時から午前2時ごろ。被害者は背中から刺されたため顔見知りの犯行と思われる。どうだ? わかるかね?」

「もっと情報寄越せ」

「よろしい! 現場に残されていたダイイングメッセージはひらがなで『のむら』とあった。そこで我々は彼女の恋人であった野村という男性を調べたのだが……これといったアリバイもなければ犯人である確固たる証拠もなし。動機は十分なんだがね……あと他には隣人の坂本が怪しいかな、うん」

「坂本ってのはどんな奴だ?」

「重度のネットゲーム廃人だ。お金と時間をゲームに注ぎ込み、親の脛かじって生きているろくでもない人間だよ。ただ彼にはアリバイが存在してな、ちょうど午後11時から午後3時までゲームをプレイしていたそうで、協力プレイをしていたというから調べてみたところその通りだというわけだ。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「30分間だけ席を外していたようでね。しかしその短時間で犯行に及ぶのは不可能、というわけだよ」


 いや、そうでもなさそうだ。

 アコニチンの効果と、場所さえあればできる。俺の推理が正しければね。


「なんとなくわかってきたんですが」

「な、なんだって?」

「確認しておきたいことがあるので現場を見せてください」
















 十分な現場検証がなされたらしく、もう部屋は完全にきれいになっている。

 中央にはピアノが置いてある。


「これが現場の写真だ」


 小太り刑事から写真を受け取り部屋と照らし合わせてみる。

 被害者は玄関付近で靴を履いた状態で殺害される。

 犯行に使われたのは何の変哲もない包丁風のナイフ。

 が、一番引っかかるのは……。


「どうして三か所も傷があるんだ……? 死因はナイフに塗られた毒のはずだ」

「ん? ああそのことか。確かに死因は毒物だが致命傷は胸の刺し傷だそうだ」


 先に言ってくれよ。

 俺は本棚に残されていた大学ノートを手に取る。日記のようだ。失礼ながら中身を拝見する。

 ……うん、これで動機の面もクリアできるから、概ね大丈夫……だな。


「どうしたんだい、さっきの威勢どこに行ったのかな? もしや、本当は解けてなかったんじゃないのかね?」


 煽るなうっとうしい。


「確認したいんだけど、隣の坂本さんの部屋ってどんな感じなんだ?」

「え、えっと……たしかゲームが山積みで、人を隠せるようなスペースはありませんでしたよ?」


 柳田さんが律儀に答えてくれた。


「……そうでもない、一人分寝るスペースがある。だから隠せないことはない……」


 ひょろ刑事(命名、俺)が補足してくれる。

 影薄いのにちゃんと役立ってくれてる。小太り刑事の五百倍は有能だ。


「うん、これでいいな。おそらくこの理論ロジックなら犯行は行える」

 

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