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金成太志、さっそく厄介事に巻き込まれる。

 てっきり、ドアの向こう側は森の中かと思っていたのだが。

 ウサギ相手に命のやり取りをして、皮を剥いだり、魔石を採ったり、レベルアップによるステータスアップの上昇具合にニンマリしたり、とかな。


「冗談を、太志(ふとし)さま。ハードモードですよ、そんなに甘くないです!」


 そうなのだ。

 まさか、堅牢な石造りの城のような建物の中に出現するとは思わなかった。

 そして、その室内には所狭しとご同類がいっぱいいた。


「……ゴールドオーク族か。空いてるスペースに入れてもらうか、立ち見するか好きな方を選べ」


 なんか、向こう側の壁で、ホワイトボードでいろいろ説明しているオークが偉そうにそう発言している。ヤツは何者か? いや、その前に。


「ノーリ、ゴールドオークとは何か。説明を」

「……はぁん」


 こちらが期待していたのとは違う反応が来た。

 若狭さんの方へと振り向くと、ぶりっこ(死語)ポーズでうっとりしていた。

 その眼差し、まるで恋する乙女である。

 残念ながら、中身は年齢不詳の婆さんなのでトキメキは起こらない。

 過ちは起こらない。……多分。


「あの~、ノーリさん。説明をプリーズ」

「あ、ハイ。ゴールドオーク族はですね、人間社会に溶け込むうちにお金の魅力に取り憑かれた種族という設定です。この種族は基本的にお金持ちが多いです。そして、人間の衣服を着用することに抵抗がない種族です」

「んー、それはつまり、俺は豚の皮をかぶった人族みたいだな」

「いえいえ。本質はオークですよ。どんなに紳士な格好をしても、かわいい女の子を見たらもれなく襲いかかる等、基本はさほど変わらないのです。ですから、ハイ、ウェルカムで~す」


 若狭さんがさっきからノリノリである。というか、ことあるごとに俺を誘っている。

 くどいようだが、リアルの彼女は年齢不詳の婆さんである。

 ゲームの世界の外見がなまじ美少女風の狐娘だからと言って、狼にはなれない。

 何てったって、俺は豚だからな。


「あ、それ、面白くないですー」


 若狭さん、人の心を読んだ上で、『ゴートゥーヘル』のジェスチャーとか、鬼すか。


「おい、お嬢さん。そこの雇い主はお前さんじゃ立たないようだぜ。そんなに欲求不満なら、オレが相手してやっても良いんだぜ」


 出入り口で、いつまでも夫婦漫才をしていたら『これぞ、まごうことなきオーク!』とも言うべき巨漢オークが臭い息を吹きかけながらこっちにやって来た。そして、こっちが身動きひとつしないのを完全にビビっていると思い、耳打ちするように近づいてきた。


「何だったら、お前の好きなゴールドで手を売っても構わないぜ。1ゴールド出してやる」


 巨漢オーク流のジョークのつもりなのだろうか。

 立ち上がり、威張り腐るようにしてふんぞり返りつつ笑いの止まらない巨漢オーク。

 ちっとも面白くないこっちは股間のホルスターに手を伸ばし、そのままマグナムを引っ張り出すと、狙いやすい頭に2発ぶちこんだ。

 小さな脳みそがマグナムの衝撃にやられて霧散するような勢いで後方に飛び散った。そして、立て続けに巨漢がぐらりと力なく倒れ、倒れた先のどこかのオークが押し潰されるという二次災害が発生。

 で、潰されたオークがまた何かしらのビッグネーム持ちだったらしく、その取り巻きが恨みのこもった眼差しと共に使い慣れた武器を片手に喧嘩を売ってきたので、発砲。

 死体が増えるごとに、恐怖が伝播したのか他のオークどもが恐怖に飲まれて集会の輪から離脱。

 一人が逃げると立て続けに出入り口に殺到。

 そして、その出入り口には俺たちがいて、しかも武器を構えたままなので、その威力を目の当たりにしたばかりなこともあって、多数の気絶者を生み出した。そのなかには不幸にして本当に死んだものもいたそうだが、そこまでは面倒みきれない。


「そこのゴールドオーク、この騒動、どう落とし前をつける気だ」


 ホワイトボードを片手で粉砕した、この集会のリーダーっぽいオークがそう質問してきた。

 頭を使うオークは鬼面という先入観があったので、同じ豚面だとは思わなかったのは、内緒だ。ただ、そのリーダーオークは眼鏡をしていた。この集団のなかではそれなりに賢いに違いない。


「まぁ、まずはどういう集会を開いていたかによるな」


 謝るわけでもなく、意見をしてきたことに目を見開く、リーダーオーク。だが、眼鏡を片手でスチャッとスマートにズレを補正するついでに冷静さを取り戻したらしく、説明が行われた。


「今から三日前、パトロール中のオークが脱輪して立ち往生している人間(女)の奴隷たちを見つけた。彼らは何も考えずにそれらを連れ帰り、我らがオークの神のために宴を開き、騒いだ。

 宴もたけなわになり、奴隷たちをどのオークの部族にあてがうかという話になったときに、勇者からの襲撃を受けた。大勢の同胞がやつらの魔法と剣の前に倒れた。が、我々はオークだ。

 数の利を最大限に活かし、やつらの魔法力とスタミナをガス欠寸前にまで追い込み、なんとか退却させることに成功した。

 先程の集会は、その騒動の生き残りの部族だけで次回の勇者襲来をどうするのか、という話をしているところだった。ところで、ゴールドオーク族の……名は何という?」

「フトシだ」

「ふん。人間かぶれの種族らしい名前だな。まぁ、いい。お前は何故、この会議に遅刻した? 何故、勇者の襲来があんなにも手際が良いのだ?」

「何だ? ハッキリ言えば良いじゃないか。お前はスパイか? と」

「そうなのか?」

「おいおいおい。出自がヘンテコなゴールドオークといえども、カワイコちゃんを見ると見境なく襲うオークの血には逆らえないちゅーのに、美人や幼女を引き連れた勇者軍団とどうやって友情を築くんだ?」

「そこの狐娘には手を出していないではないか。あんなにも露骨にアピールされて平気なのはどういうことだ」

「ゴールドオークはな、お前らみたいに誘われてもホイホイとその辺で致さないの。安全が確認取れるところでない限り、オークの血は騒がないの。まぁ、確かに外は解放感があるから気持ちいいのは理解できるけどな。だから本能のまま行動に及ぼうとして勇者の魔法にやられたんだろう?」

「むぅ」


 リーダーオークの顔が苦虫を潰したような表情になる。図星だったか。


「お前がスパイでないのなら、お前はこの惨状をどう穴埋めするのだ。お前のやったことは、突撃隊長(巨漢オーク)と有能な魔術師(もらい事故で潰れた奴)とその数人の弟子(オークにしては珍しい魔法剣士)の殺害だ。今や数少ない攻撃の要になる奴等だったのだぞ!」


 リーダーオークは同族殺しに対しては怒っている風ではなく、単純に戦力の喪失を憂いていた。


「今、残っている戦力はどのぐらいだ」

「5年以上生きているベテランオークが十数人と、1年未満の新兵が300ほどだ」


 ふむぅ。

 まぁ、まずは情報収集からだろう。

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