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金成太志、オークを選択する。 後編

 さて、今度こそオークに関する様々な選択は終了したはずだ。

 カスタマイズで豚面を選択し、家畜用豚のスキンを選択。

 豚面型オークの特性である【自己再生レベル3】はきちんと備わっているし、何よりも種族選択前に【誘惑耐性レベル4】と【恐怖耐性レベル4】という2つの耐性を得るというラッキーに遭遇した。

 これからのゲーム世界でたびたび見かけるであろう汎用豚面オークと比べると、精神系の状態異常に強くなったことは大きいだろう。何も知らない冒険者が無駄弾を打って慌てる様子が目に浮かぶわ。


「グフフ」

「太志さま、笑顔が気持ち悪いですよ」


 いや、モンスター側だし、普通じゃないかな、それ。

 むしろ、イケメンな笑顔のモンスターのほうが気持ち悪くないかな。

 試しにオーガで想像してごらんよ、若狭さん。

 ああ、その辺で吐こうとしない、耐えろ、若狭さん。

 よし、まぁ、そんなことはともかく種族決定のボタンを押そう。ポチッとな。


 ボタンを押した瞬間、ブワッと直視できない光が部屋中に満ち溢れた。

 いよいよ、冒険のスタートか。心高鳴るな!


  ☆


 光は収束したが、未だ、ログハウス内だった。

 状況の読めていない俺に対し、宙に浮くタッチパネルが答えを示してくれた。

 次のページをめくるように催促している。

 嫌な予感を肌で感じつつも、ページをめくった。

 ページをめくると同時に、ゲーム世界で動かす予定の俺の姿がホログラフィーに投影されて、そこにいた。

 粗末な皮の鎧とこん棒を所持していた。


「若狭さん、これ、何が言いたいのかな?」

「太志さまがこの姿でよければ、このままの状態でプレイスタートします、ということですね。不満がある場合は、有料ですけれど、課金装備をお買い上げいただいた姿を反映します、ということです」

「鎧なんぞ要らぬ。男なら裸一貫。マッパ一筋ィ!」

「太志さま、流石にマッパは無理です。モザイクがかかります」

「ふむ。モザイクと来たか。何らやましいことはしていないがモザイクが常時かかりっぱなしというのはみっともないな。仕方ない。フンドシ姿で許容しよう」


 ゲーム初心者の俺の操作に代わり、若狭さんが慣れた手つきでパネル操作をする。

 みずぼらしい皮装備が一瞬で消え、代わりに金成家男子が用いる純白の褌をしっかり締めたオークが威風堂々とばかりに腕を組んでいる。

 うむ。なかなかによくわかっている。


「太志さま、武器はこん棒でよろしいのですか?」

「いや、長年、苦楽を共にした銃でいい」

「太志さま、銃は課金装備の一覧にも存在していません」

「何だと! というか、何故だ」

「太志さま、このゲーム世界は『剣と魔法』の世界です。なので、銃が活躍する機会はないのです」

「ふぅむ? しかし、魔法銃というのは存在してなかったか?」

「ええ、魔法スキルと鍛造スキルの複合型という形でなら、かつて存在しました。ですが、数年前のバージョンアップ時に存在を消されましたね。あまりにもマイナーすぎて、誰も取得する動きがなかったからだそうです」


 何ということだ。

 俺が宇宙へと飛び立つときは”将来実装されるであろうと噂されていた浪漫武器”が、まさか帰還数年前に消去されていたとは……。

 悔しい。宇宙に居なかったら絶対、モノにしていただろうに。


「だが、嘆くな、金成太志ッ! 伊達に宇宙に20年も居ただけのことを示せばいいのだ」

「太志さま?」


 自分で自分を鼓舞する姿に若狭さんがポカーンとしていたが、説明するのも惜しい。

 俺は集中すると、何もない空間から亀裂を生じさせ、そこに手を伸ばし、ホルスターを取り出した。

 風呂場にて脱衣した、あのホルスターだ。

 そして、せっかく若狭さんが呼び出した純白の褌を脱衣すると、ホルスターの紐を腰に結んだ。

 これが俺の正装、『マッパ☆ガンナー』である。

 おおっと、サングラスと黒革の手袋と赤いマフラーを忘れるところだった。空間の穴が完全に塞がる前にこの三点も脱衣場の棚の中から取り出しておいた。

 改めてそれらの装備品を身に付けて、体操選手がやるような構えのポーズをとる。

 うむ。本日もポロリの部分が見えそうで見えない。相棒であるホルスターやマフラーたちの仕事ぶりは確かだ。


「太志さま……」


 あっ、成り行きとはいえ、うっかり人前で力を使ってしまった。

 不味かっただろうか。いや、相手は使用人の鑑の若狭さんだ。黙ってくれるのは得意のはずだ。

 できれば墓場まで持っていってもらいたいし、リアルな話、墓場に最も距離が近い。


「凄いです。現代を生きる人間で魔法が使えるなんて、私、感激しました!」

「いや、ここ、ゲームの世界だろ。魔法が使えてもおかしくないだろ?」


 若狭さんの言い方に引っ掛かりを感じたが、仮想空間にてこの魔法モドキの使用で若狭さんの視線が急に有名人を発見した時の興奮に似ていた。


「どうどう。若狭さん、どうどう。この力は宇宙で手に入れたの。それもこの相棒を呼び出すだけの力しかないの。そこまで感激するほどではないぞ」

「太志さまのほうこそ勘違いをしています。確かにこの空間はゲーム世界から産み出された代物ですけれど、チュートリアル・モードは、まだ現実側での行動が反映される仕組みになっています。ということは、私の前で召喚魔法を行使した太志さまはリアルでもそれが行えるということです。わぁぁ、スゴいです。憧れますぅ」


 目の前の若い女の子がうっとりしているが、中身のリアルは年齢不詳の婆さんである。

 気をしっかり保て、金成太志ッ!


「もうこれはアレかなぁ。他の人に唾つけられるのも嫌だしぃ。ノーリ、ここで太志さまにチューセイ誓っちゃいまーす!」


 若狭さんがノリノリのJKみたいな動きで手を高くあげて宣誓した。

 ピッと何らかの機械音が発したかと思うと、若狭さんが自分の懐から取り出したカードを確認してニンマリしていた。

 気にならないと言えば嘘になるが、何となーくだが、聞いたら怖い結果が待ち受けていそうなので、スルーしておくことにした。

 まぁ、チューセイとか軽いノリだが、要は忠誠の何かなのだろう。

 もともと俺と若狭さんは若旦那と使用人みたいな立場だから、普段通りでいいだろう。

 どうでもいいが、若狭さんのアバター名はノーリなのな。意外とナウだ。

 ノリコじゃ、オレオレ詐欺に引っ掛かりそうだもんな。


 ☆


「これで本当の最後です。太志さまが創られたアバターに命名してください」

「フトシ」

「わかりました。入力いたします」


 名前を吹き込まれたキャラクターが一瞬だけ光に包まれた。

 幽霊のようだった身体が質感を伴い、ブヒブヒ鼻を鳴らす生身のオークが雄叫びをあげた。

 それは生まれたての赤子の産声のようだった。

 声が収まると同時に、いつの間にか俺はアバターの体内に場所移動していた。

 オークの身体は、リアルの俺の肉の身体と遜色ないほどに馴染んでいた。


「アレ? オークの身長って2メートルとか言ってなかったか?」


 目線の高さがいつもと一緒なので、疑問を若狭さんにぶつけてみた。


「一般的にはそうですよ。初心者モードならゲーム内の様々な補助プログラムがユーザーの希望に沿う形で生まれ変わった新しい姿をサポートしてくれますが、進んでモンスターの姿を望むハードモードではプログラムサポートを受けられません。ですから、始めたばかりは自分の身体を通してゲーム世界の感覚に慣れて、それから新しい身体を入手していくのが望ましいと思います」

「新しい身体を入手?」

「私がレベルと条件を整えて狐の姿からヒトガタへと変身できるようになるように、ゲーム世界では様々な機会を通して姿を変えられるチャンスがあります。よくあるパターンとしては、オーガでプレイされていた方が新しい力に目覚めて悪魔の姿へとチェンジするーーとかですね」

「なるほどなー」


 だが、俺の希望は嫁探しだ。

 なるべくならありのままの姿を受け入れてもらいたいから、別のかたちへと変身するのはナシだろう。

 何のためにリスクを負ってまでオークを選択したのかわからなくなる。


「もちろん、チャンスの使い方は個人の裁量に委ねられています。どう使うのも太志さま次第です」


 なるほど。それはそのときに考えよう。

 有名になるかどうかも怪しいのにひたすらサインの練習をするかのように、巡り合うかどうかもわからんチャンスに対していろいろ考えても仕方がないからな。


 最終決定ボタンを押すと、ガチャッと鍵の外れる音がした。

 その方向を振り向くと、今までドアのなかったログハウスに木の扉が現れた。


「そのドアを潜るとゲームスタートになります。お覚悟はよろしいですか、太志さま」

「望むところだ。いざ、行かん」


 俺はドアのノブを勢いよく捻り、その向こう側へと突き進んだ。

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