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金成太志、オークを選択する。 前編

 さて、いい加減、オーク選択のボタンを押さなくては。

 押さなくては。

 …………。


「如何されましたか、太志さま?」

「なぁ、このオーク、イケメン過ぎないか。俺がイメージしているような豚面には出来ないのか?」

「太志さまのイメージが私にはわかりかねますね」


 割と真顔で困っている若狭さんを前に、俺は昔読んだ小説の話をした。

 とはいえ俺も昔読んだきりだから詳しくは覚えていないが、そのイメージのオークの姿は、ボロボロの衣服を着て、あかまみれ、口臭はひどく、肌こそ黄色だったり緑だったり茶色だったりだが、総じて豚面。そして、たるみきったボテ腹。手持ちの武器は手入れもまともにしていないこん棒……という、だらしない格好だったのは確かだ。


「却下です、太志さま」

「何で?」

「太志さまの目的は何でしたか?」

「きれいなお嫁さんのゲット」

「そんな太志さまのイメージ通りのオークで彼女が出来ると考えてますか?」

「若狭さん、今まで俺は『お金持ちのブサイク』を頑張って演じてきたよ。だが、結果は?」

「…………」

「みんな金ばかりに執心で、俺のことなんか気にかけちゃくれなかったよな」

「…………」

「沈黙は肯定と同義と言うよな。だったら、如何にも金を持っていなそうな臭そうなオークから始めてみて、やれるところやってみようや」

「太志さまがお望みであれば」


 ちょっと小言が過ぎたようだ。目の前の狐娘が気落ちしているようにも見える。

 少し反省しよう。

 だが、若狭さんの同意も得られたことだし、続行する。


「で、若狭さん、カスタマイズはどうやるんだ?」

「太志さま、まずはどちらかのタイプを選ばなくては先に進めません」

「猪面か鬼のどちらかは絶対なのか」

「はい」


 仕方ない。豚面のためである。迷わず、猪面を選択した。

 画面が切り替わり、アバターの詳細設定が行えるようになった。

 面倒くさがり屋さん用にだろう、プリセットという、あらかじめ、そこそこの見た目が整ったタイプの種類も存在した。

 完全ランダムというのもあった。試しに数回ほど実験してみたが、どれも変顔しかできなかった。きっと手軽に作れる変顔仕様の機能なのだろう。

 需要? 見返りブスやブサイクを作るのにはうってつけかもしれない。


 俺は迷わず猪面を外し、豚面をセットした。

 肌の色で悩んでいると、若狭さんから「待った」がかかった。

 彼女は一般的な家畜用の豚の肌色にするよう勧めてきた。


「何で?」

「太志さまの今後の活躍次第ですが、もしかしたら身分の高貴な方だけが集まる場所へと呼ばれることがあるかもしれません。そんなとき、一番洋服が似合うのが家畜用の豚の肌色です」


 容姿に関することは正直なところ得意ではない。

 若狭さんがそういうのならそれがベターなのだろう。

 ならば、通常は、ボディペイントで切り抜けよう。なければ泥を被るのもいい。

 なーに、豚は泥を全身で被るのが好きな生き物だ。案外、様になっているものさ。


「身長はいかがされますか、太志さま」

「ふーむ。オークの平均身長ってどのくらいだ?」

「ニューワールド基準では2メートルですね。ゴブリンが1メートル。オーガが3メートルです」

「2メートルか。割と大きいな」

「敵として出てくるこのゲームのオークは、冒険者の昼御飯ですからね。パーティー分の食欲を満たすためにも、そのくらいの体躯を求められるのではないでしょうか」

「へぇ、このゲームのオークは料理の材料か」

「はい。オークの強さに合わせて肉質が変化し、より美味しくいただけるようになっています」

「それだと別に食べずとも冒険者ギルド等に売れば高値がつくーーといった仕様っぽいな」

「ご明察でございます」

「ふむ。なかなかハードではないか、オーク道」

「獣顔オーク道ですね」


 ちなみに、同じオークでも鬼タイプのオークは食材には適さないようだ。だが、敵として登場する際の彼らタイプの有効利用方法は奴隷人材らしい。

 ヒトと同じ体格を有し、才能もある。とはいえ大半のオークは体力自慢が多いため、鉱山奴隷として消費される。まれに知的な鬼オークも存在し、そんな彼らは引き取られた先の何かしらのギルド内で定められた役割の職に就き、生涯を過ごすそうだ。

 どちらの人生もまともな扱いを得られないのか。

 さすが、オーク道である。わざわざオークを選択するプレイヤーが皆無なのも納得である。


 さてさて、そんなデメリットだらけのオーク道であるが、唯一のメリットがある。

 自己再生能力だ。

 自己再生とは、このゲームで言えば、どんな大ケガをしても時間経過で完全治癒することだ。

 それも【自己再生レベル3】である。

 と言われても凄さが伝わらないだろうから、簡単にまとめると、こうだ。


 レベル1:切り傷、擦り傷レベルの怪我なら連続的に負っても、瞬時に治る。

 レベル2:人体切断レベルの大ケガでも切断された部位をくっ付けて、1分耐えれば完治する。

 レベル3:腕一本の切断レベルなら、斬られた時点で自己再生が始まり、即完治する。また、肌のほとんどを火傷したり、切断技で輪切りにされても完治する。その場合、3分かかる。

 レベル4:レベル2程度の怪我レベルの攻撃ならそのダメージエネルギーを吸収し、各身体能力のアップへと変換される。または、あらゆる状況の瀕死レベル級の大ケガを負っても5分耐えれば完治する。

 レベル5:即死以外の物理攻撃を吸収し、エネルギーとして蓄えることができる。蓄えたエネルギーをどう使うかはプレイヤーに委ねられる。


 チート?

 果たしてそうだろうか。

 よくよく想像を働かせていただきたい。

 冒険者が豚面オークを見かけたら、なんの遠慮もなく攻撃を仕掛けるはずだ。

 大抵の冒険者がパーティーを組んでいるはずだから、その攻撃が1回で終わることはあり得ず、複数回の蓄積ダメージがオークの身体に刻まれる。

 ここでオークが持ち前の体力で耐えきれれば、自己再生能力が自動で発動し、オークにも勝ち目があるだろう。だが、大抵のオークはいろいろな弱点を抱えており、冒険者は容赦なく弱点を狙い、自己再生を発動させることなく仕留めてしまう。

 一見チートに見えるこの能力も、大抵のオークなら持ち腐れなのだ。

 数少ない上位オークとは、自前の身体能力に優れていたからこそランクが上がったのである。

 もう一度問おう。

 これは、チートであろうか?

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