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金成太志、種族の選択から思わぬ情報を得る。

 フトシです。

 ゲームを始める前から耐性スキルを二つも得たラッキーマンとは俺のことじゃなかろうかと思うこの頃です。

 フトシです。

 それでも若狭さんの恐怖の折檻にパニックを起こさなくなっただけで、痛みを伴うあんなことこんなことには相変わらず弱かったとです。

 痛覚耐性も得て、一石三鳥とは問屋が卸してくれなかったとです。


「坊ちゃま」

「はい。エセ物真似はこの辺にして先を進めましょう。サー」


 ☆


 さて、ようやく種族の選択だ。

 まず、タッチパネル画面からずらりとたくさんの種族名が現れた。

 若狭さんの説明によると、画面の一番上の左端が一番人気の種族で、その横列の右へと移動するにつれ、順位が落ちるそうだ。

 ちなみに、このゲームが開始されて以来、不動の一位を突っ走るのは、ヒト族だった。


 ヒト族とは、そのまんま人間の姿をしている。

 ロールプレイにより肌や髪の色に違いはあるだろうがそれだけで、それだけだからこそ第二の人生を演じやすい。

 また、ゲームプレイ的にも色々な恩恵を受けている。

 その最たるものが、装備品の多さだろう。

 頭部をはじめ、首、胴体、右腕、左腕、右手、左手、ベルト、右脚、左脚の合計十ヶ所に色々なアクセサリーを身に付けることができる。

 これにより、レベル初期の段階から破格の防御力や体力を得ることが可能になり、ゲーム初心者はよほどのことがない限りは初期エリアでは死に難く、プレイのしやすさを助長している。

 もっとも、ゲームに慣れた頃にはその優位性を捨ててまでして別の選択肢をつかむ者も現れるのだが。


 さて、ヒト族の説明はこれぐらいにしておこう。

 今回の目的は、俺がオークになることなのだから。


 オークは『モンスター』カテゴリーに存在していた。

 『モンスター』の方へとページを移動するや、運営から警告を受けた。

 運営からの警告は分かりやすく言えば、『初めてのプレイにモンスターとか、上級者過ぎんだろ。考え直させるような野暮なことはしないが、ゲームプレイがうまくいかないからって、責任をこっちに向けんなよ』である。

 大丈夫だ、それはない。


 迷わず『オーク』のボタンを押すと、どちらのタイプになるのかを聞かれた。

 ひとつは、身体が緑色のハゲ頭で下唇から牙が突き出た鬼タイプの外見。

 もうひとつは、野生の猪が二足歩行をしたような獣人タイプの外見である。


「へぇ。オークにも二種類できたのか」

「はい。数年前から種族ひとつにつき二種類の外見のうちのひとつを選べるようになりました」

「若狭さんの場合は?」

「キャッピキャッピした姿の半人半狐か、ヒトの言葉がしゃべられる狐の姿のどれかですね」

「で、どっちを選択したの?」

「坊ちゃま、私は高レベルになってから”人化の法”を会得したのですよ。当然、狐の姿一択です」

「ハードだな」

「いいえ、旦那様に比べれば、そうでもありませんわ」

「まぁ、確かに親父の場合、ストーンゴーレムだったもんな」


 納得しつつ、視線をモンスター枠に移す。


「ん?」


 目をこすり、改めてモンスター枠の一覧を見直す。

 間違いない。

 ストーンゴーレムの項目が入っていない。


「若狭さん、どういうことだ?」

「旦那様は、冒険の途中に勇者メンバーに襲われまして、生き恥を受けたのです。高レベルの魔物がうろつくエリアにて、身ぐるみをはがされて、所持アイテムを全部奪われ、ある植物の姿へと変貌させられました」

「詳しいね、若狭さん」

「当時、私は旦那様のパーティーでお仕えしていましたので」

「親父、母上、若狭さんの?」

「いえ、旦那様と二人きりでしたわ」


 そこで若狭さん、頬を赤らめてモジモジし始めた。

 んー。気にならないと言えば嘘になるが、親父と若狭さんの関係云々に口を挟むのも野暮だ。

 話を進めよう。


「何でまた、親父は勇者に襲われたんだ?」

「それは、旦那様が勇者だったからです」

「は?」


 固まる俺をよそに、若狭さんは語り始めた。


「当時、旦那様は勇者でした。種族を越えた民草の悩みに耳を傾け、心を砕き、難問を解決していました。じゃがいものような見た目でしたが、人気は非常に高かったです。一方で、もう一人の勇者様がいました。ヒト族の王の住む国を度々襲っていたドラゴンたちを蹴散らし、ドラゴンスレイヤーの称号を得た方でしたが、見目麗しい容姿に反し、報償金にがめつく、地位や名誉を重んじ、気分次第で村ひとつを平気で滅ぼす方でした」


 大衆代表と特権階級代表の勇者二人って感じだな。


「ある時、魔王が現れて、勇者にしか所持できない武器でないと魔王は倒せないという噂が広まりました。

 旦那様は魔王討伐に乗り気ではなく、辞退を申し出ました。

 元々、旦那様は所持能力をやりくりしながらゲーム世界の旅をするのが目的でしたから、討伐関連のクエストは一切受けたことがないのです。それまでの難問解決も、話し合いや技術提供といったソフトパワーで乗り越えてきました。だから、旦那様らしくて、私は誇りに思いました。

 ある時、旦那様はヒト族の王達が列席する前でそう宣言し、勇者の地位を失う儀式に参加しました。旦那様の言葉を信じず、儀式によって完全に称号を剥奪したいともう一人の勇者が意見し、それが通った形で儀式は行われたそうです。ですが、神託がそれを許さず、逆に様々な種族の主たちの命を奪い尽くした、ヒト族の王たちにとっての勇者がその地位を剥奪されるという事態が起こりました」


 なるほど。親父が襲われた理由、これっぽいな。


「坊ちゃまの想像通りでございます。旦那様は旅の途中で勇者一行に襲われ、所持品を剥ぎ取られ、自身の姿を勇者の紡いだ呪いの言葉によりジャガイモへと変貌させられました」


 んー。話がストーンゴーレムから離れていったな。


「旦那様はジャガイモ姿になりましたが、意思疏通に問題はありませんでした。そこで私の頭の上に乗っかる形で冒険を続けられました。この頃は、簒奪勇者の凶行の犠牲になったヒト族以外の民草で溢れ、旦那様はその身を用いてジャガイモを作り続け、大勢の命を救いました。

 その功績を豊穣神さまから称えられ、ストーンゴーレムとなりました。

 本当は、【国津神】という称号も得たのですけれど、簒奪勇者の件もあり、ステータス表記されないよう隠蔽し、奥さまと出会い、ご自身の旅を終えられたのです」

「ん? 母上との出会いが旅の終わりだったのか?」

「いいえ、まだ続きはありますが、続きは旦那様か奥さまにでも聞いてくださいませ」


 親父は絶対しゃべろうとしないだろう。

 お袋は、何故か布団を敷いてそばで添い寝してきて、流し目を送ってくる未来しか浮かばない。


 まぁ、今回は、ひと味違ったアナザーストーリーが聞けて良かったね、ということにしておこう。

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