金成家の人々(3) 筆頭使用人:若狭のり子
2016/6/9 シナリオの行き詰まりにより書き直し。シリアスは苦手です。
鉄は熱いうちに打て! とでも言わんばかりに、早速ゲームプレイすることになった。
夕食までの間に、長いこと使われなくなっていた俺の部屋の片付け等を済ませておきたいらしく、正直に言えば、俺がそこにいても手持ち無沙汰なため、ゲームでもしてこい! ということだ。
確か、記憶にある一般家庭の場合、ゲームするぐらいなら勉強しろ! だったはずだが、まぁ、俺も勉強するぐらいなら、最新バージョンになったばかりのさっきのゲームで、表現力がどれだけ進化したかに触れた方が楽しいに決まっているので、特に異論はなかった。
「こちらが最新式のゲーム機器になります」
筆頭使用人の若狭さんに案内された一室には、コールドスリープに使用されるような円柱型の金属の容器が置いてあった。
その隣には安楽椅子があり、先程使用したヘルメットとキーボードが置いてあった。
どう考えてもあの物騒な容れ物の方に俺が入るんだろうな。
「坊ちゃまはあちらのマシンのなかにお入りください。私は少し準備がありますゆえ、遅れます。先にログインを済ませてください」
思った通りだった。
安楽椅子に腰掛け、ヘルメットをかぶり始める若狹さんをよそに、覚悟を決めて容器のなかに入ると、ヒトガタの窪みがまず目についた。
おそらく寝転がれば良いのだろうとアタリをつけ、横たわると、何かしらの稼働音が作動し、眠気を誘うメロディが流れてきた。室内も音楽に合わせるかのように照明が薄暗くなりーーーースッと意識が落ちた。
☆
次に目覚めたときは、ログハウスの中にいた。
「坊ちゃま、ゲーム内の感覚は如何ですか?」
「その前に」
「急に身体を動かすのはいけません。まずは手をにぎり、はなすことを繰り返してください」
なぜログハウス内に? という疑問を口にする前に若狭さんから注意を受けた。
経験上、若狭さんの物言いが柔らかいときに素直に従っておく。
グー・パー、グー・パーを若狭さんからのストップがかかるまで続けておいた。
その次に全身ストレッチを行うよう指示され、従っておく。
「坊ちゃまのゲーム動作へのテストを行ったところ、”問題なし”でした。おめでとうございます」
「それは、ありがとうと答えるべきか?」
「はい。まれにゲーム内動作にてエラーの起こる方が居まして、その場合、運営の方からお断りのお知らせが届くそうです」
「せっかくの最先端ゲームなのに、勿体ないな、それ」
「そうですね。しかし、安全面を考慮しますとやむを得ないかと」
「安全面?」
「はい。坊ちゃまのことだからモンスター側でプレイされますよね」
「そうだな。リアルの見た目を反映するがウリなら、モンスターなら違和感無いからな」
「ならば、少しご説明します」
このVRゲームこと『ニューワールド』は、プレイ前に種族を選ばなくてはならない。
種族は大まかに『ヒト』『亜人』『モンスター』に分類される。
そして、『ビギナー』『ノーマル』『ハード』という難易度が設定されている。
つまり、ゲームに慣れていない超初心者は『ヒト』を選択した方がプレイしやすいですよ。
ある程度、VRゲームに慣れているなら『亜人』は如何ですか?
おお、あなたは有名な○○さん、当運営の誇るハードコア難易度の『モンスター』をお試しください。
……といった案配である。
とはいえ、この仕様が絶対というわけではない。
亜人プレイはしたいがゲームプレイはヌルゲーがイイとか、ヒト以外の種族に魅力を感じなくて、かつ『モンスター』並みの難易度を求めるプレイヤーもいる。
この辺の仕組みは後述しよう。
まずは、手頃な見本の紹介から入ろう。
ずばり、金成家の筆頭使用人・若狭のり子さん(??)である。
「若狭さんは……モンスターを選択か」
「はい。私が選びましたのは妖狐ですね。平たく言えば狐の魔物です」
「でも、今、ヒトの姿をしているよね?」
「ええ。高レベルになりますと”人化の法”というスキルを得ますので、それでこの姿になっています」
と金成家仕様のメイド服姿で、このゲームの世界では若返った若狭さんがお茶目にもくるっとターンをして、片足を後ろに少し上げるポーズを決めた。
「如何ですか? 坊ちゃま」
若狭さんの本当の姿を知っている身としては、なかなかに返答に困った。かといって、年齢を引き合いにして「はしたない」などと言えるはずもなく、とりあえず、親指を上げて微笑んでおいた。
「欲情しましたか?」
と若狭さん、若返ったからか、人前でモジモジしたかと思うと、上目遣いでわざわざ尋ねてくるとか何か妙に色気を出しはじめた。それと桃色のオーラのようなものが見えた。
ん? オーラだと。
オーラとかまさにゲーム的な表現である。
「坊ちゃまなら特別に、私のはじめてを……」
なかなか魅力的な提案だが、現実世界での若狭さんを思い出して、若狭さんから離れた。
それだけでは足りないらしく、自分の意思とは裏腹に必要以上に魅力的に映る若狭さんに対し、未練がましい視線を送る自分にカツを入れるべく、拳を固く握りしめると自分の頬をぶん殴った。
床に血が飛び散り、歯が抜けた。
若狭さんを見て、なおも呆ける自分がいたのでまた殴った。
ピコーンピコーンとどこからともなくやばそうな音が鳴っている。
多分、ゲーム的感覚から考えて、瀕死状態を知らせるアラートだろう。
まだ、種族を決める前から瀕死とか、一体、何をやっているのだろうか。
それはともかく、今の状態で若狭さんを見ても、どうとも思わなくなった。というより、若狭さんはいつものように律儀に控えていて、衣服の乱れや上気した表情さえ、ない。
「坊ちゃまはご自身で耐性を得ました。おめでとうございます」
自分が混乱していることに対し、若狭さんはそう答えた。
若狭さんの案内に従い、ステータスウィンドウを開いてみると、【誘惑耐性レベル4】とあった。
「これはスゴいのか?」
「そうですね。すごいと思います。このようなレベル表記の最大レベルは5までですから、坊ちゃまはこれから先、あらゆる誘惑の類いに対する耐性がつきました。それともうひとつ、ここだけの話ですが、種族選択決定の開始前に身に付けたスキルは先見性スキルとして扱われますので、種族確定時によるハンデの例外になるのです」
「つまり?」
「種族によっては本来身につかないスキルがあるのです。例えますなら、吸血鬼が普通に身に付けている”暗視”スキルは、ヒトには会得できません。それとは逆に、吸血鬼は太陽に対する耐性を得られません。ですが、今回のようにゲーム開始前に自力で開眼したスキルに関しては種族特性を無視できるのです」
「チートではないんだな」
「運営のセキュリティに引っ掛からない以上、そう判断できます」
なるほど。
明らかに不自然な能力を盛った場合は、運営のセキュリティに引っ掛かるわけか。
「さすが、若狭さん。年の功」
「坊ちゃま、これから先、年齢に関する例えや引き合いは遠慮してくださいまし」
うっかり、口を滑らせたため、このあと、恐怖の折檻がありましたよ、と。
まぁ、種族をオークに決める前に【恐怖耐性レベル4】がおまけに入手できたと考えれば、儲けモノ?
<ちょこっとプロフィール>
◇若狭のり子。年齢不詳。
金成家に仕える使用人にして、筆頭使用人。
割烹着を着用すれば、ぽた◯た焼をあぶる姿がよく似合う。
なのに、ゲームのなかでは十代後半のメイドさんやってます。反則です。