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グレイ、金成家を堪能する。

「太志、キミの家の庭にはボクの宇宙船が停泊できるかな?」


 ある日、ボクは数年前の調査データをもとにちょっとしたジョークを披露してみた。

 日本人の家の庭は狭いのが殆どだと云うことを知っているからこそのジョークだった。

 太志は、少し考える素振りを示したあと、こう答えてきた。


「出来るよ。事前に許可を取らないと、対空砲で撃ち落とされるかもしれない」

「はぁ? 君の住んでいるところって日本だろ」

「オヤジが言っていたんだが『敵が多くなるといろいろな準備が必要』らしい」


 このとき、ボクは太志のことを変人だと思っていたけれど、今は違う。

 太志の家は、日本に居を構える異世界だったんだ。


 ☆★☆★


 どこから語ろうか。

 ああ、まずは太志の両親のことからにしよう。


 太志のお父さんは、岩の置物が着物を着ているかのような重量感のある人だ。

 一方で、お母さんは(太志から聞いた実年齢にしては)妙に若い見た目をしていた。なんでも、太志がアレとかアレとかアレのことしか考えていなかった青春時代の頃から若妻として存在していたとのこと。

 地球での調査データによると、もし、太志のお父さんが海外出張の多いエリートなんちゃらだった場合、アレな出来事が遅かれ早かれあったかもしれない。

 実際には、太志のお父さんは家で仕事を済まし、夜、お母さんと仲良くおねんねするデキる愛妻家なので、太志がアーレーする機会はほとんど無いだろうね。

 まぁ、太志の一番多感な時代をボクがかっ攫っちゃったのが機会喪失の原因かな。


「太志は、20年間、どんなことをして過ごしていたのですか?」

「太志の目的がお嫁さん探しだと知ったので、ボクたちの目的と太志の願いが両方叶うような星に降り立ってました。この20年間、ボクたちの目的だけはあらかた済んで、太志はあの通りです」

「どの星の女の子も見た目で決めちゃうのかしら?」

「アフロディーテの欠片が刺さったままの場合は、そうですね。欠片を抜いて回収後は、その星の独特の価値観でつがいは結ばれます。しかし、どの星もその価値観が邪魔をして、太志は恵まれませんでした」

「よくSFの世界では地球に似た星があって、そこの住人は人間そっくりだと云うけれど、その辺はどうなのかしら?」

「そうですね。概ね、その通りです。爪が長い、肌が硬いとかそういうところはあります」

「貴女も?」


 ボクはその時、思わず身じろぎしてしまった。


「その宇宙人スーツ、脱げないのかしら?」

「これは、ボクたちが生まれた瞬間から着用するようになっていまして……」

「何か理由があるの?」

「ボクたちの星の住人は身体が柔らかすぎるのです。ボクたちの祖先が外から来た人から変身スーツを作ってもらうまでは、ボクたちの祖先は沼地で死ぬまで寝転んでいました。このスーツがあるからこそ、ボクたちは文明を手にし、船を手に入れ、外の世界を見回れるのです」

「なるほど。でも、お母さんのセンス的にその格好じゃあ、太志ちゃん、欲情しないわね」

「はぁ」

「貴女さえよければ、生まれ変わらないかしら?」


 その方法は、ボクの調べた地球のデータにはない、異次元のやり方だった。

 この方法だとボクは生まれ変われるのか? ってなぐらいには、怪しさが先立った。

 そう急かす話でもないから、と太志のお母さんはここで話を切り上げた。


 ☆★☆★


 次に、太志の妹のマーラちゃんをお母さんから紹介された。

 お母さんはマーラちゃんに金成家の案内を頼み、どこぞへと席を立った。


「お母さん、兄が帰ってきたから準備で忙しいんです。急に居なくなってすみません」

「グレイです。よろしくお願いします」

「日本語、お上手ですね」

「祖先が残してくれた調査データをもとに勉強しましたから」

「へええ、その調査データ、気になりますね。他にどんなことを調査されているのですか」


 と、こんな話から入って、金成家のいろんな施設を案内して貰った。

 その中で、ボクが一番気に入った施設は大浴場だった。


「金成家の祖先は温泉の源泉を大切にして、成長したってお父さんが言ってました」

「へええ、お父さんのお仕事って何しているの?」

「よく分からないです。でも、毎日毎日、いろんな種族の人たちがお父さんを訪ねてきて、何か話をしているーーそのぐらいしか知りません」

「いろんな種族?」

「はい。金成家はお父さんの考えを反映してか、いろんな種族の人たちによって支えられています」


 そこまで聞いて、ボクはここの人たちのお尻に尻尾が付いてたり、人間の耳に当たる部分に動物の耳が付いていることに合点がいった。その中でも一番驚いたのは魚の顔が付いた人だった。

 マーラちゃんが説明するには、マーマン族という魚人はそういう特徴を有している模様。

 人間に近い姿をしているけれど、下半身が魚なのが、マーメイド族だとか。

 彼、彼女らは水場に近い場所でしか仕事が出来ないのがネックだが、水質管理に関してはプロということもあり、この大浴場の守護者みたいな立場で尊敬されているとか。


「グレイさん、今後のためにも覚えておいてねーー」


 とお風呂に入ることが好きなマーラちゃんによって、ボクはお風呂のいろいろなルールを知った。

 どれもこれもがお風呂の水を清潔に保つための約束事だと説明を受け、納得した。

 ルールに従い、自慢の露天風呂でボクはくつろいだ。

 ボクの故郷の水辺を思い出させるような、清浄な水質にボクは感動した。

 もっとも、その感動は太志が連れてきた異世界の姫君が運ばれてくるまでだった。

 もうね、何があったのか知らないけど、お姫様という割りには身体全体が垢だらけの汚い女の子だった。

 キレイにするのは本当に大変だった。

 たまたま、ボクが元の姿に戻っていたから汚れの分解も早かったんだけど、ボクがいなかったときのこの温泉の汚れ具合を想像したら、ゾッとするね。

 でも、良いこともあったよ。

 その後、風呂場でゆっくりと癒やされたライラちゃんと仲良しになったんだ。


 ☆★☆★


 夜は、大宴会場にてボクたちはこの家で働く人たちと一緒に、たくさんのご馳走とお酒を振る舞われた。

 太志が酒に弱くて、調査データにあるような厄介なエロオッサン化したけれど、お父さんに殴られて、そのまま懲罰室送りになったこと以外は、普通にボクが調査データで眺め見ていたパーティーそのものだった。

 みんな、ボクを見ても気にせず、ボクがビールというお酒を水のように飲み干すと、狼の顔をした従業員さんが音頭をとって、飲み比べが始まった。

 参加者はボクの他にライラちゃん、虎の顔、熊の顔、お父さんという組み合わせだった。

 30杯目からお父さんとライラちゃん、ボクの飲み比べになって、100杯目で二人とも脱落して、ボクが勝ったんだ。

 ボクはボクに賭けていた従業員さんたちによって、胴上げされて、お母さんから『ウワバミ杯グランプリ殿堂入り』と記された盾を貰ったよ。

 これは、金成家ではとても栄誉な賞で、この時点で従業員さんのボクを見る目が熱を帯びて、ちょっと怖かったのはボクだけの秘密さ。


 宴会が終わった後、太志にこのことを話してみたいとマーラちゃんに相談したけど、太志が連れて行かれた懲罰室はマーラちゃんでも知らない秘密の場所のひとつらしい。

 お母さんに聞いても知らないようで「でも、太志本人の反省次第では早く出られるかも」とだけ、説明を受けたから、ボクは納得するしかなかったよ。


 その日はマーラちゃんの部屋で、ライラちゃんと川の字になってお休みしたよ。 

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