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金成太志、風呂に入る。

 おふくろのキッスを受け入れてみた。

 内心、夜魔族のトップのチューなだけにどんだけ生命力を吸われるのかビクビクしていたが、その唇は先っちょが軽く触れるだけで終わった。


「そういうチューじゃなくて、挨拶代わりのチューに憧れてたのよ」


 とはおふくろの弁。

 思わず、膝から崩れ落ちるほどの衝撃を受ける。

 ホッとしたような、いや、どちらかというとガッカリ成分多めだったのは確かだ。


「その点、静香ちゃんは、私の本気のキスに夜通し耐えられるのよね。淀みなく、真っ直ぐな愛を感じるわ~」


 夜の思い出にうっとりするおふくろをよそに、俺は大浴場へと移動すべく、監禁部屋から出て行った。正直、付き合いきれないところもあったし。



 ☆★☆★



 大浴場に向かう途中、親友のグレイに出会った。


(太志、昨日は大変だったんだぞ!)

「どうもそうらしい」

(お前があんなに酒に弱いなんて、初めて知ったよ)

「そういえば、お前と酒を飲んだ記憶はないな」

(ボクの役割はお前を惑星に置いて、用事が済んだら回収する。そして、治療。新たな惑星へと向かう前の座学しかしてないからな)


 当時はあまり気にしてなかったが、随分と余裕のない日常だ。

 少年の頃は弱かったから、強くなるための時間がもったいなく感じられ、鍛錬をおろそかにするという気持ちがなかった。20代は、女神の欠片破壊と同時にお嫁さん探しに躍起で、失敗するたびに寝込んでいて、飲酒という機会がなかった。

 宇宙船に乗り込んだときから、ウィスキーの一本でもサンプルにあれば、ひょっとしたら失恋のたびに、ちょくちょく失敬していたのかもしれない。しかし、そういった娯楽につながるモノが何一つなく、あったのは効率よく人を殺すための武器や知識の詰まったデータファイルだけだった。


「今にして思えば、酒に多少は強くなっていた方が、会話も弾んで成功率も上がっただろうか」

(いや、太志には悪いけど、人間は顔で判断する。お前のジャガイモの潰れたような顔では……)

「だよなぁ。自分の身ひとつ守れなくても顔が良ければ丸く収まるのが、人間」

(そういえば、一ヶ所だけ、お前に好意を寄せていた種族がいたのを覚えている?)

「ガボボな。原始惑星の最強女王。まんまゴリラみたいな女」

(あの事故さえなければ、最初の彼女だったのかも)

「さいしょのかのじょ?」

(あんな事故さえなければ、お前は胸を張っての帰還だったのに、上手くいかないね)


 俺はふと記憶を過去に飛ばした。

 グレイが言うとおり、上手くいけば、初めての好意を持たれた女の子だった。

 見た目は……まぁ、やたらと筋肉質で、容姿も好みではないが。

 その辺は考えないようにして、それでも、初めての彼女だったわけだ。

 ただ、事故に遭った。

 グレイは知っていそうだが、教えてくれる雰囲気ではなかった。

 俺自身で思い出すしかないのか。


 原始惑星。

 そこは、まんま原始時代の惑星で、高層ビルのようなスケールの恐竜がいて、1メートルを軽く越える数多の動植物が棲息して、3メートルしかない惑星最強の女王と2メートルちょっとの原始人たちが住んでいた。

 俺がそこへ来たときは、ちょうど、次の最強の王を決める催しをしており、バトルロワイヤルでただひとり勝ち抜いた者を次の王にするというルールを、女王から直接聞いた。そして、女王も参戦しており、どんな者の参加も拒まないとあっては、断る理由もなく、俺はこのゴリラクィーンをヨメ候補として視野に入れ、行動した。

 結論としては……ああ、思い出した。

 ゴリラクィーンは倒したが、そのあとに現れたヒョロガリにタックルされて、崖から落とされた。バトルロワイヤルなので、最終勝者はそのヒョロガリとなったであろう。

 未確認なのは、その後、それまでバトルしていた原始人、バトルには参加してなかった原始人両方に殺意の眼差しと実際の殺意を伴った行動力で追いかけられ、逃げるようにあの惑星をあとにしたからだ。


「苦い記憶だ」


 見た目はともかく、苦労して倒しただけに、漁夫の利であのゴリラクィーンを横取りしたヒョロガリには殺意しか覚えない。初めての彼女、初めてのチュー、初めてのハグ、初めての……。


「ウガーーー!」


 猛り狂った心と身体が大暴れ。俺のアナコンダがサラマンダーに大進化した気分。


「うるさい黙れこの変態」


 抑揚のない冷たい声に反応して、その方へと振り向くと、冷たい刺激物が額に刺さったと同時に意識が途切れた。あの声は、マーラ。我が妹。なにをした?



 ☆★☆★



 ニュルニュルと心地よい気分のあと、身体全体にものすごい脱力感が走り、目が覚めた。

 脱衣場の畳が敷いてあるところに寝ていて、扇風機の風が心地よい。

 いや、それよりも倦怠感の方が大きいので、アナコンダを観察するとマムシぐらいに縮小していた。心なしか満足している風にも見えた。出来ることなら本人の意識が覚醒しているときに行われてほしいものだ。

 だが、大体のことは察してしまった。

 誰かさんは、俺に扇風機の風を当てるついでに、俺の身体に付着した残り香の隠蔽を図ったようだ。

 まぁ、心地よさに免じよう。

 足腰に踏ん張りが利かないのは……仕方ない。名誉の疲労と考えておこう。


 それにしても、グレイには悪いことをした。

 一緒に風呂に入ろうとわざわざ俺が来るのを待っていたというのに、マーラのせいで、脱衣場で伸びる羽目になった。流石に俺の意識が戻るまで待ってはいられないだろうから、風呂に入っただろう。

 入り方は宇宙船の中でシミュレーションしていたから、問題ないだろう。

 いや、風呂って、意外と細かいルールが存在していたよな。

 俺はそこまで細かい性格ではないからどんなルールだったか、あんまし覚えていないが、タオルを湯船に付けることは子供の頃、親父にキツく言い聞かせられた記憶がある。

 意識を大浴場に向けると、いつものように賑やかだ。

 いや、人の賑わいとは別の大きな声がする。どっちかというと怒声だ。

 グレイが、誰かに怒られている可能性がある。

 怒る……金成家で一番プリプリしている印象と言ったら、マーラだ。

 アイツめ、男湯女湯の区別も分からず入ったに違いない。

 なんて、羨ましい……じゃなくて、まぁ、細かいルールを教えなかった俺にも責任があるな。

 責任があるから、この時間帯の脱衣場および大浴場が女湯なのは不可抗力だ。

 不可抗力なので、俺は大浴場のガラス戸を遠慮なく開けた。


「何しているんですか、兄さん。この時間帯は女湯ですよ」


 戸を開いて早々、マーラが仁王立ちになって立ち塞がった。

 バスタオルを身体に巻き付けての通せんぼなので、正直、色気が感じられない。


「それは分かっている。ただ、伸びた俺を置いて先に風呂に入ったグレイがお前たちに迷惑をかけていたのなら、グレイに風呂のルールを教えなかった俺に責任がある。困っている親友を見捨てることは出来ない」

「なるほど。兄さんの言い分は分かりました。ですが、兄さんの心配することは起きていません。即刻、お引き取り下さい」


 ん? どういう事だ。

 マーラが問題ない、と判断しているなら、グレイは風呂に入ってないのか?

 まぁ、確かに俺はグレイが大浴場に入った瞬間を目撃していない。

 何だ、俺の早とちりだったのか。それにしても、マーラよ。


「お前って、ぜっぺ」

「ばかあほまぬけとんまのスケベ大魔王」


 何か、すごく硬いので頭を強く殴られた。そういえば、昨日、出会い頭に消火器で殺意アリアリで殴ってきたことだし、それかもな。

 それと、お袋がボヨヨンだから遺伝するかと思ったら、そうでもないのか。うむー、不憫だ。

 それにしても、スケベ大魔王か。

 初代がそうだったが、カワイイ妹と飛び道具がメイン武器なヤツの宿命なんだろうか。

 まぁ、どうでもいいな。

 お休み。

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