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金成太志、最下層にてお宝と巡り会う。

「む」


 俺は勇者の道具袋に全部吐き出したアイテムを入れようとして、何故か出来ないことに顔をしかめた。


「勇者がこの世を去りましたからね。この道具袋も勇者あっての無限収納だったのでしょう」


 用心深い性格だったとうかがえる、夥しい量のアイテムを前に、そばで気絶している女どもに視線を移す。アイテムをこのまま放置しておけば、気絶から立ち直り次第、反撃もしくは逃走を図るだろう。

 と若狭さんが視線をきつくしてこちらを見てくる。

 俺は念じることで視線を外した。

 壁が隆起して、衣装タンスが姿を現す。

 観音扉を開くといくつかの小物入れもあったので、勇者と女どもの装備品を衣紋掛えもんかけの部分に掛け、小物入れに薬草や魔石を収納する。そして、扉を閉めると扉の取っ手を抜き取り、壁に戻した。

 こうすることで開け方のわからない石造りの収納箱が出来上がった。


「フトシさま、どうして武器を収納しなかったのですか?」

「あ」


 そういえば、そうだった。

 無力化を図るにあたり防御力が手強く思えていたので、その措置をしたわけだが、指摘する通り、武器も充分な驚異だ。瞬殺していたから気が回らなかった。


「よし、ならばこうしよう」


 俺は四人の武器を石の床に刺した。

 あの螺旋階段でクレイモアを刺して固定させたのと同じ要領で、地面に固着させる。

 見た目がアーサー王伝説のエクスカリバーっぽく、まぁまぁ様になった。

 とはいえ、伝説の名剣と比べると、周囲に漂うオーラというものが皆無なのは仕方がない。


 ☆


 エレベーターのある室内から外に出るとまたも漆黒が拡がっていた。

 俺と若狭さんは暗闇を苦にしないので、そのまま歩き始めた。

 室外は牢屋が連なっていた。かつそれは中央のバカでかいスケールの正方形の箱を取り囲むような配置だった。

 暗闇の中の牢屋には当然、囚われた者がいた。ただ、その大半は身動きせず、干からびていた。

 わずかに身動きしている者がいたが、スケルトンとなって狭い牢屋のなかをさ迷っていた。


「何なんだろうな、このバカでかい箱は」

「フトシさま、ここに文字が彫ってあります」


 どれどれ、とその文字を確認する。

 漢字で【宝物庫】と記されていた。


「ふむ。『ほうもつこ』か」


 思わず口にして読んでしまったが、それがスイッチになったようで壁に新たな文字が浮かんだ。


『異世界からの勇者よ、警告する。この扉を開けてはならない。汝が扉に触れた瞬間、大いなる後悔が汝を襲うであろう』


 ふむ。お笑いの世界でいうところの『押すなよ、押すなよ、絶対、押すなよ』ってシチュエーションであろうか。触れないわけにはいかないだろう。どうせ、そこの牢屋が一斉に開いて中のアンデッドどもが俺たちを狙って襲ってくる、ということだろうし。

 というわけで、宝物庫と記された文字の隣にあるドアノブに手を触れる。

 バタンッと、予想通り、牢屋の出入り口が一斉に開き、ミイラやスケルトンといったアンデッドが動き始めた。ウーアーウーアーとお決まりの言葉を発し、ノロノロと両手を広げて歩きだす。

 そこで俺は彼らがある程度のひとまとまりになるのを見計らい、爆弾魔(ワイリ)な笑い声と共に下調べ中についでに設置しておいたC4の起爆スイッチを押した。

 アンデッドの大敵である膨大な熱が爆風と共に彼らを包む。

 さほど時間をかけずに全滅させた。


「事後ですけれどね、フトシさま」

「うむ」

「こういう密閉性の高い建物のなかで爆弾を使うと大変危険なんですからね」


 あー、確か室内の酸素濃度が薄くなるとか、炭鉱などでは崩落といった二次災害を招くといったそういうことだろう。

 とりあえず、助言をしてくれた若狭さんに頭を下げておいた。

 反省するかはまた別だが。


 ゴゴゴゴと床が大きく揺れ、大音響が轟いた。

 宝物庫の壁に新しい文面が浮かび上がる。


『この地に眠る死者を冒涜する愚か者よ、不浄の者よ、汝らにふさわしい相手を用意した。常闇の底に眠る殺戮者の糧となるがいい』


 読み終えて、振り返るとアンデッドどもが消えていた。否、最後の一山だけ残っていて、その一山を石床を物ともせず破壊しながら出現した大きな顔がアンデッドたちをひと飲みして地面の底へと沈んでいった。


「もぐら?」

「もぐらにしては大きすぎますよ、フトシさま」

「しかも、顔だけだったな」

「ええ。情報が少なすぎて、どういう存在かわかりかねます。でも、あれはもぐらではなかったです。人間の顔をしていました」

「まぁ、殺戮者という情報があるし、あの顔から判断するに巨人あたりを想定しとくかね」


 それにしても遅い。

 アンデッドを消化するのに時間がかかっているのか、それとも死肉をもとに身体の再構成を図っている途中なのか、地面の底に消えたあとから待たされた。


「ヒマだから、あの穴に対してダイナマイト投げとくわ」

「では、私はお茶の用意をしますね」

「若狭さん、今日のお茶請けは?」

「塩豆大福ですよ」


 俺はお湯が沸くまでのあいだ、せっせとダイナマイトを投擲とうてきした。

 射撃と違い、おのれの肩と腕の力で投げる方はあまり得意ではなく、大きな穴にすんなり落ちていったのは10本中2本だけにとどまった。あとの8本は大きな穴のふちの部分で爆発し、穴の側面が削り取られるように落下していった。

 地中から「うおっ」とか「ぐおっ」といった情けない声が聞こえていたので、暇潰しは無駄ではなかったようだ。


「フトシさま、お茶にしましょう」


 ようやくお茶が出来上がったようだ。

 その頃には俺は穴から底を覗き見ていた。

 ようやく身体ができた巨人が壁の側面を登っているのが見えたところであった。

 効果があるのか不明だったが、油を注いでおいた。ツルッと滑って地底に落ちてくれてもいいし、意外と踏ん張って登ってきても油まみれで燃えやすい状態として出現することになるので、何かと対処が容易だ。


 お手拭きで手の汚れを取ってから、湯飲みを一口する。

 煎茶の香ばしさが鼻を突き抜け、気持ちが落ち着いてくる。

 緊張しているとは思っていなかったが、身体のどこかが強張っていたのかもしれない。

 味覚がお茶の甘味と渋味を伝えてくる。ふむ、と思わず目を細めてしまう。

 このバーチャルゲームはどういう仕組みで飲食物の味を再現しているのか不明だが、紛れもなくこのお茶はリアルで淹れてもらう味と同じだった。

 塩豆大福を頬張る。おむすびのようなサイズだからか頬張りがいがあり、咀嚼そしゃくの楽しみがあり、餡の甘味と塩豆のしょっぱさに舌は唾液の洪水を生み出している。

 それをごくりと飲み込み、熱いお茶で流し込む。

 ああ、幸せ。


 そう、気持ちが和らいできたところに、穴から無粋なやからが姿を現した。

 一応、用意しておいたスティンガーを構えようとしていたら、想像していないことが起きた。

 ドアノブの中の方から鍵が外れる音がした。

 扉が開き、中から小さな子供が現れた。


「それ、美味しそうだな。ワシにもくれ」

「その前に、あの巨人を片付けたらな」


 別に子供に対してそう発言したわけではなかったのだが、そう受け取った子供が手のひらを巨人に対して向けた。手のひらから魔方陣のようなものが幾重にも重なったものが出現したかと思うと、レーザーのようなものが巨人にヒットした。そして、巨人が苦しみだす。

 巨人の内側からレーザーと同じ光が暴れているようで、やがて、身体の内側から発生した光に包まれるようにして霧散した。


「なんだ、ありゃあ」

「浄化の裁きじゃ。ああいう輩には効果覿面なのじゃ」


 と子供が何でもないように説明してくれた。

 俺は子供をとなりに座らせると、約束通り、大福を手渡しした。

 子供はどこで一部始終を見ていたのか知らないが、まずお手拭きで手を丹念に拭いていた。

 その様子を見つめながら、宝物庫から子供が出てくるゲームの有りように俺は失笑を隠せなかった。

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