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金成太志、勇者の一行と遭遇する。

 想像を働かせてほしい。

 エレベーターのなかで、裸のオークが涙目の狐娘に言い寄っていたの図、を。

 実際にはチューの真っ最中で、離れる唇から細い糸を引いていたりもするが。


「テンメェェェ、そこのカワイコちゃんから離れろ、糞オーク!!」


 間が悪いのか、むしろ運が良いのか、俺は勇者と出会った。

 頭に冠のような兜を装備し、大きな鳥を模した衣服を着て、量産品を思わせる意匠なき汎用剣を抜刀する少年。その背後には、地味な色合いのローブに宝石のようなものを取り付けた杖を持った女魔法使い、目立つ色合いで十字架を象った衣服の僧侶、ハイレグアーマーの女戦士、両手に鉤爪を装備した軽装の女武術家が、一斉にこちらを向いて、少年の行動のあとのフォローに出るべく準備していた。


 こちらは別にあちら側に合わせるべく戦槌を振るうべきだろうか。

 否である。

 無情のハンドガンが立て続けに火を吹いて、少年には額にジャストミートからの即死を、残る女どもには鎖骨辺りを撃ち抜いて、行動を阻害する。

 まぁ、当然、僧侶が回復魔法とやらを唱えようと健気に行動をするので、ツカツカツカと歩み寄り、腹部に照準を合わせてのヤクザキックを叩きつけておく。そのついでに身体を回転させ、近くにいた魔法使いの顔面を強打する。僧侶は突然の行動に息ができずもがき、魔法使いは呪文でも唱えていた途中だったこともあり、口のなかを切ったようで、吐血していた。


「大いなるーー」

「唸れ、ごうえんのーー」


 俺は正直、後衛職を舐めていた。

 布地の衣服の上からの物理攻撃を喰らわせておけば「怯んで」使い物にならなくなるだろうと思っていたのだが、なかなかどうして。

 彼女たちの反撃の意思を宿した眼差しを受け、サブマシンガンで心臓と脳ミソ以外を適当に撃ち、更なる出血をもたらした。殴る蹴るの単純物理攻撃と違い、銃撃は普通にダメージが入る。

 防御力の少ない二人は、これだけで立ち上がる気力を刈り取れた。


 残る防御力と体力のある二人に対しては、ゴールデンハンマーの振り上げ行動を機械的に繰り返す。

 やはり、さっきの殴る蹴ると一緒で、鈍重な戦槌で振るっているにも関わらず、薄皮一枚のところで妙な摩擦がかかり、勢いが大きく落ちた状態で相手の顔に当たる。


「フトシさま、それは相手側の防御力が上手く機能しているので、フトシさまのハンマーの攻撃力がその分だけ減っているのです」


 なるほど。

 このふざけたハイレグアーマーがどんだけの防御力か知らんが、こちらの戦槌の攻撃力をスリッパの底で相手の頭をはたく程度にまで威力を削ぎ落とすと来たか。


「ならば、ノーリ。防御力を落とす魔法をこの二人にかけろ」

「かしこまりました」


 彼女が両手をぐるぐる回したのち、女戦士と武術家に対し、ホイッスルを吹いて、指をさした。

 すると、遅れて脱力系の音と共にエフェクトがかかる。


「チャーシューメン!」


 とゴルフのスイングの要領で腰と腕の力を上手く流した戦槌が、女戦士の顔をとらえた。そして、ベコバキボギョ! とかなり激しい音ともに壁際にまで吹き飛ばされた。

 あー、これはアレだな。

 多分、ノーリは相手の防御力をゼロどころかマイナスにまで下げたっぽい。

 とりあえず、生きているかどうかを確認してみる。

 息は……していた。顔は……勇者の女からオークの女にふさわしいレベルになっていた。


 次は、武術家である。

 が、彼女は武器を放り投げ、頭を地面に擦り付け、命乞いをし始めた。

 経験上、それはこちら側の油断を誘うための演技であることが多いため、俺は戦槌の柄に力を込めた。


「ホームラン!」


 大振りのアッパースイングが、たまたま顔を上げた武術家かのあごをとらえ、哀れ彼女は天井にキスをした。そして、地面に落ちてきたときには白目を剥き、鼻は折れ、歯がいくつか折れていた。


 女戦士と女武術家の返り血を浴びて、やや朱に染まった肌をそのままに、すっかり大人しい僧侶と魔法使いに気を配ると、こちらは小便を漏らした上で幼子のように肩を震わせて怯えていた。

 そこで、冗談半分で死体になった勇者を人形を操るようにして動かして、死体と一緒にムーンウォークをして見せたら、張り詰めていた緊張の糸が切れたみたいで、二人ともバタバタと倒れた。

 なかなかに失礼な対応である。


 ところで若狭さんであるが、女が一人また一人、倒れる度に何か悶えていた。

 全員倒した頃には、ひとり、賢者モードだった。

 視線を合わせると何か面倒なことになりそうだったので、次の行動へと移る。


 さて、次は彼ら彼女らの装備品を剥奪することである。

 理由? これからの彼女の役割はオークたちのメスとしての人生だ。

 腰ミノのオークオスに合わせるとしたら、すっぽんぽんが妥当だろう。

 女の方は若狭さんに任せて装備品を全て剥ぎ取らせた。

 すっぽんぽんが無造作に四体、転がっている。

 マネキン人形がその場に散らかっているようであり、不思議と欲情しない。

 うむむ、何故だ?

 と思考を巡らせると、おふくろがヒットした。

 青春時代の悶々としていた頃の、おふくろの着物姿を思い出した。

 ……なるほど。

 だからあのとき、俺は東洋風の女と着物仕様の使用人服を着た若狭さんの下着チェックをしたのか。

 業が深いぜ、おふくろ……。


 まぁ、それはさておき、俺は勇者の装備を引き剥がした。

 汎用の剣から大体想像できたが、勇者としてはまだ駆け出しのレベルだった。

 所持していた何でも入るアイテム袋をひっくり返すと、薬草や毒消し草、小動物の毛皮やその肉、使い道のよく分からない色とりどりの光る小石がゴロゴロと出てきた。


「ノーリ、これは何に使うアイテムだ?」

「動物や魔物の毛皮は換金用や防具の製作に使います。肉は食用か換金用です。この小石は魔石(ませき)と言いまして、魔物の死骸からごく稀に採取できます。換金もできますが、ここにある小石は皆、等級が低いので魔力切れを起こした際の初期魔法の代用にストックしていたのでしょう」


 なるほど。魔法の代用ねぇ。

 魔法の使えない俺でも利用できるかな? と考えながら手のひらで転がしていたら、徐々に色彩があせていき、ついには石の形をした塵となって崩れ落ちた。


「フトシさまは魔法への適正が絶望的なのですね」

「絶望的か……」


 いざ! というときの攻撃手段を考えていたが、当てが外れたな。


「ん? じゃ、俺の銃攻撃は何なんだ? 戦槌の攻撃はやつらの防御力の干渉を受けるが、銃攻撃は普通に衣服を貫通したよな」

「んー。私のスキルの呼び掛けでも明確な答えが出ませんねー」


 ふーむ。ならば、こうだろう。

 現実世界からの実銃持ち出しが、思わぬバグを招いた。そして、それが俺にとってプラスに働いた……と。うむ、そう考えておこう。何事もポジティブポジティブだ。


「そういえば、フトシさま、私、気になったのですが」

「何だろうか」

「このゲーム世界での魔法が使えないわりには、先程のリーダーオークを吊るす際に壁から手頃なフックを作成されていましたよね。あれは何なのでしょうか?」

「うーむ。あのとき、俺は念じたんだよな。そうしたら壁が俺のイメージに応えてくれてああなった、としか言えんな」

「それならば、フトシさまのこの【魔法使い】という称号はゲームでの働きとは違った効果をもたらすようですね」

「うむ。まさかリアル童貞がこんなところでプラスに働くとはな。よくわからんゲームシステムだ」

「システムなのでしょうか?」

「……そういうことにしておこうか」

「え~、それじゃ、私がフトシさまを襲うことが出来なくなるじゃないですか。あ、そうだ。運営に頼んでバグの修正を」

「いや、俺たちハードモードでプレイ中だろ。そういった不具合を呑み込んでプレイしなきゃならなかったんじゃなかったかな?」

「ぶーぶー。フトシさまの意気地無し~」


 目の前の美少女キツネ娘が、ポカポカという擬音を立てた空気パンチで俺の腹を叩く。

 俺は思わぬ童貞喪失を免れて、ホッとした。

 と同時にこのよくわからん未知の力を失わないよう、童貞を守りぬかなくては。

 俺は決意と共に手のひらをギュッと握りしめた。

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