金成太志、ステータスカードをチェックする。
2017/7/9 所持スキルと称号を追加。説明の補足を行う。
「何ですか、太志さま。あんなババアに欲情して、なぜ私じゃないんですか」
折檻中の若狭さんの台詞。
そっちこそ、リアルでは本物の婆さんじゃねーか。うら若き狐娘の姿でおのれの真の姿を誤魔化せるのがゲームの良いところだけれども、リアルを知っているぶん、欲情とか難しいんだよ! ーーと、脳内で愚痴りつつも、ひたすら耐えました。
嫉妬のこもったスパンキングロッドは、いつもの折檻の二割増しで痛かったとです。
☆
俺が折檻中、リーダーオークが代わりに東洋風の衣服の女をす巻きにしていた。
はじめは殺された仲間のことを思ってか、かなりきつめに縄を締めていたリーダーオークだったが、東洋風の女の衣服からこぼれ出る太股を凝視してから、空気が変わった。
「ぐおおおっ!」
急に唸ったかと思うとリーダーオークの目付きがやばくなった。鼻息は荒ぶり、周囲の耳目そっちのけで身体の一部を赤くたぎらせている。
眼鏡をかけた賢そうなオークだったが、なけなしの理性で性欲を抑えるというような素振りは欠片もなかった。
「フトシさま、あのオーク、欲情状態です」
若狭さんは相手のステータスを覗き見できるのだろう。そう教えてくれた。
まぁ、東洋風の女、勇者の連れをやっているぐらいだから、見た目は良い。
欲情するのも分からなくはない。
だが、リーダーオーク、お前、まだいろいろやることがあるだろう。
そんなわけで、火力を調整した手榴弾をポーイして、滝のようなヨダレを出しているリーダーオークの口のなかにスポッと食わせた。
口のなかで爆発した手榴弾はそのままリーダーオークの頭を揺らし、こちらも気絶者2号となる。
「で、どうなさるつもりですか、フトシさま」
「吊るす。燻製のハムのように」
「この場に、ですか? ロープらしきモノは見当たりませんが」
「ノーリ、そこに無ければ生み出せば良いのだよ」
「ステキ! 抱いて」
現実世界では凄まじいシワくちゃの婆さんが、思いがけない馬鹿力で俺を押し倒してきた。
さっきのリーダーオークみたく、鼻息が荒く、目が魅了状態のようにグルグルしていた。
うむー。これも状態異常【欲情】であろうか。
俺に【魅了耐性レベル4】を与えた人が、どうして魅了状態に陥っているのだろうか。
……まぁ、こんなときのステータスカードだよなぁ。
というわけで、若狭さんを肘打ちで一時的に気絶させたあと、マフラーのなかに器用に収納されているステータスカードを取り出し、カード情報に目を通してみた。
そこには、レベルの数とかヒットポイントの数値とか『力』『賢さ』みたいな数値は記入されていなかった。
ただ、所持スキル名とレベル数。そして、称号・装備品・所持品の記載しかなかった。
これはアレか。
モンスターはどちらかというと倒される立場。
詳細な情報など不要! ということか。
あ、あと、カードの一番下に「ハードモードでの死亡はリスポーンがありません。現実同様の死亡扱いとなります。ご了承ください」とあった。
まぁ、これは当然か。
信仰心を持たないモンスターが、人間の世界で信仰されている神の家で肉体復活とか考えにくいわな。
実際、ここのオークの城の奴等も復活してないし。
で、改めて詳細に目を通す。
種族:ゴールドオーク
性別:オス
名前:フトシ
年齢:36
所持スキル
①自己再生:レベル3(一般的な怪我が瞬時で治る。特殊な怪我は3分耐えられれば治る)
②魅了耐性:レベル4(各種族の王クラスの魅了スキルに耐えることができる)
③恐怖耐性:レベル4(各種族の王クラスの恐怖スキルに耐えることができる)
④毒物吸収:悪食による毒物の過剰摂取がレア作用し、毒物からも栄養を取れるようになりました。
称号
①救星主:星の願いを聞き届け、星に巣食う悪い虫を全て片付けた者だけが授かる呼び名。
②人類の敵:人間の屠殺数が億に達したものだけに与えられる。
≫グッド:特定の種族との仲が家族同様になる。
≫バッド:人間は、称号者に対して好む好まずに関わらず常に警戒するようになる。人間に対してのステルス行動は相当の対策を取らないと必ず失敗します。
③無慈悲:人間にとっての倫理観はこの者に対しては通用しない。
④主従契約:【人類の敵】の称号に感動したノーリさんが契約に同意しました。
⑤魔法使い:30過ぎても童貞の方に無条件で贈られます。おめでとうございます。
⑥醜悪:オーク特有の称号。人間との良好なコミュニケーションは期待薄です。
⑦悪食:オーク特有の称号。毒物耐性を自動的に得ます。
装備品
①謎のホルスター:ホルスターの開口部から主人の望む銃が姿を現す。理屈は不明。
②遮光性サングラス:防御力皆無だが、閃光を無効化する。
③たなびく赤いマフラー:ホルスター同様、主人の望むアイテムが出てくる。
④不倶戴天ロケットランチャー:欲情がスイッチとなってはじめて姿を表す。火薬の消費が大きい。
⑤精巣マガジン:体内に蓄積している行き場のない精子を弾薬マガジンとして変換所持。マグナムもロケットランチャーの火薬もここから消費されている。余程のことがない限り、弾切れの心配はない。
所持品
①ゴールデンハンマー:純金製のぶっとくてかなり重い戦槌。ゴールドオーク成人の証し。換金可。
②ステータスカード:個人情報の塊。取り扱いには注意が必要。
ふむ。
ざっと見た感じ、【人類の敵】の説明にある『特定の種族との仲』ぐらいしか思い当たるところがない。というか、人類の敵か。
まぁ、地球に帰ってくるまでにいくつかの惑星を救ったのは事実だし、そこに巣食う悪い虫を様々な方法で滅殺したのは事実だ。そこに慈悲の心とか高尚なものはなかったなぁ。
で、主従契約ときたか。
てっきり、リアルの関係から忠誠を誓ったのかと思えば、あの称号絡みか。そういえば、若狭さん、他人のステータスが見えるみたいだし、それ故の同意か。となると、あの婆さん、何者なんだ?
魔法使いは、余計なお世話だよ。
醜悪と悪食はオークがオークであることのアイデンティティーみたいなものか。
自動取得が毒物耐性ではなくて、毒物吸収になっているのは、過去の惑星巡りの産物だろうなぁ。……あれ、なんで俺、瞳から勝手に涙が溢れてくるんだろう。
そういえば、ステータスカードはともかく、ゴールデンハンマーなんてのも所持しているらしい。マッパの俺の姿のどこにハンマーがあるのだろうか。ホルスターに念じてみたが、銃器ではないので、応答しない。
うーむ。
ものの試しとして、天に手を掲げて「ゴールデンハンマー!」と叫んでみた。すると、手のひらにフィットするように金色の目映いハンマーが姿を現した。純金製のゴツいハンマーであるにも関わらず、不思議と重さを感じなかった。理由は不明だ。あとで若狭さんに聞いてみよう。
とりあえず結論としては、却って謎が増えただけだった。
当面のこのゴタゴタが終わってから、一度、若狭さんと腰を落ち着けて話し合わないといけない。
今、俺の少ない脳みそで理解できるのは、このぐらいか。