入学初日
「私立逢魔ヶ刻学園に入学おめでとう、早速出悪いが、この三年間、君達には生死をかけて貰う」
開口一番に、そんな強烈な言葉を口に出したのは、多分この人が最初だ、と思った。
大体適当な名前として呼ばれている俺は、何故こんな凄い学校に入学出来ているのか不思議な位で、まさに夢のようだ、と少しばかり浮かれていた矢先に、そんな言葉を先生が云って来やがったのだ。
勿論、冗談を言っている様子でも無いので、クラスの大半は混乱し始める。
そんな俺達を無視して、先生は自分の役割を速く終わらそうと、言葉を続ける。
「ここ、逢魔ヶ刻学園は創立三十年目を迎えるが、生徒の三文の一は無事卒業しその残りは、精神病院へ隔離された者、死んだ者だ」
教室内が騒つく、当たり前だ、そんな狂気に近い事を言われれば、誰だって恐ろしくなるに決まってる。
けれど先生は、其れを見越してか、ビジネススーツのポケットから何か金属の塊を取り出した。
それは、何やら羅針盤の様に丸く、貝殻の様に開くと、教室内の言葉の波は、一瞬にして消え去った。
消し去った何て、そんな生易しい物ではない、言葉の全てが意味をなくした様に、静けさの音でさえもまるで無かったかの様に。
それに恐怖してか、誰も席を立つものは居なかった、いや、俺達は密かに思っていたのだ、"もしまた騒ぐような事があれば、次は何をされるか分からない"と。
「………さて、話を進めるが、単直に言わしてもらう、貴様らは、この学園内に現れる"奴ら"と戦ってもらう」
誰も言葉にする事は出来ないのに、先生だけは、喋ることが出来る。
これは、先生の持つ金属が関係しているのか?
「"奴ら"とは、明確な姿は存在しない、ただ奴らはこの世界を征服しようと、この学園内を基準に溢れ出てくる」
「君達は全国でも屈指の実力者だ、超高校級の能力、それに加えて、基本に支給される武器を使用して戦ってもらう、武器のランクや能力には差異があるが、必ず"奴ら"には対抗できる武器となるだろう」
教室の扉が開いて、覆面を被った人達が、人数分のバックを持ってくる。
その中には、大小様々で、中には自販機ほどの大きさをしたバッグもあった。
「それでは、至急を始める、出席番号一番、藍鵜衛緒」
俺の名前が呼ばれると、それは教卓まで進み、バッグを受け取れ、と云う指定だった。
俺は声の出せないまま適当に見繕った通常サイズのボストンバックを手にして、また机に戻る。
バッグの中身を見るな、と云う命令は無いので、俺はジッパーを下げて、そのバッグの中身を見た。
中にはボストンバックの中身に比べて、遥かに小さい、黒い包帯だった。
バッグの中身はそれに含めて、一枚の封筒が入っていた。
封筒を開き、中に入っている紙を確認する。
"黒= 名士は武器を選ばず"
ランク :EX
規格範囲:人体
備考
第二十期生である土師亜紀が入手。
十一月二十三日、"死の惨劇事件"の"黒騎士"を倒した際にドロップした自動戦闘型兵器。
それを巻きつけた物の意思と関係なく、対象が攻撃と認識した際に自動的に避ける。
両腕に巻きつければその手に触れた兵器は何であろうと、自分の一部として扱う事ができ、強制的に自分の武器へと塗り替える。
使用する兵器は全て極めた状態として扱い、如何なる初見な兵器も、全て極めた状態で扱う事が出来る。
兵器であれば元のランクとして扱えるが、兵器以外である武器であれば、ランクCとして扱う。
自動戦闘能力は一時的ではあるが使用者のステータスをオールAとして扱う。
何だこれは、と人並みの声が心の中に響く。
これはあれだ、多分ドッキリだ、これが本当だとすれば凄いが、なによりもこの文面を書いた奴が真面目に書いたのだと思うと、ただ単純に拍手を送りたい。
少しだけ心に余裕が出来たところで、丁度全ての生徒に配給が終わった事を、先生が告げる。
「全員に配り終わったな、それでは、まず君達に――――」
瞬間、これ程までに、大きい非常ベルの音を、俺は初めて聞いた。
『敵国が現れました、全校の生徒の皆様は、直ちに敵国を迎撃して下さい』
大きく響く声、それは女性の声で、ニュース番組に出ている人と云われても信じてしまうほど、可憐だった。
先生は青ざめながら、状況を把握し、貝殻の様に開いた金属の口を閉じる。
その瞬間、まるで声が戻ったかの様に、皆喉元を抑えて、声を出している。
「諸君、君達にとっては初めての闘争だ、諸君の武運を祈る」
その直後。
教室が、
廊下が、
校舎が、
体育館が、
プールが、
屋上が、
ありとあらゆる学園内の全てが。
黒い塊にをした化け物の住処と化した。
異常な程までに、日常は崩れ。
この日から、俺らの"非"日常は始まる。




