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白きドラゴンと異世界で旅をする  作者: 沖野 しずく
第一章 -異世界から呼ばれし勇者達-
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第六話 宝石の涙

 ユキオは森の中をひたすらに走っていた。かれこれ二時間は経つだろうか。

「本当に、こんなんで、魔法が、使えるように、なんのかよ」


 走り続けて息を切らし、苦悶の表情を浮かべるユキオとは対照的に、涼しげな顔でユキオの頭上に浮かぶシルク。

「あなたは魔法以前の問題よ。まずその貧弱な体を何とかしないと魔法を使った途端に死ぬわよ」


「にしても、後どれくらいだ?ゴールが見えねえと、辛過ぎる」

 

「何言ってるの?ゴールなんてないわよ。そうだ、張り合いがないならさっきのライオンちゃんに手伝って貰おうかしら」

 不吉なことを言うシルクを止める間もなく、ブツブツと何やら呪文を唱えると、ユキオの目の前にはあの翼が生えたライオンが現れた。頭に傷がある。それはユキオが死にもの狂いで振るった木の棒によって付けられたものだった。

 

「マジでございますか?」

 恐怖に引き攣って上空を見つめると、天使のような笑顔で微笑むシルクが居た。この場合、悪魔の様なと言った方がいいかも知れない。


「グルルルルゥゥ……」


「お、怒ってる……」


 怒りを露わに追いかけてくるライオンと、上空で笑い転げる天使。ついさっき人生で初めて味わったあの恐怖とこうも早く再開することになるとは、ユキオは夢にも思わなかった。


「ギエー――――!」

 全力で走り出すユキオ。何せ拮抗しているとは言え、ライオンのスピードの方が上なのだ。

「大サービスよ。少しずつ回復魔法を掛けてあげるわ。もちろん、あのライオンちゃんにもね。私を木の棒で思いっきり殴った罰よ」


《つまり、エンドレスってことですか!?罰ならすでにゲンコツで制裁受けましたけど!》


 喋る余裕が無かったので心の中で突っ込むユキオ。人が苦しむ姿を見てゴーゴーなんて楽しげにしている上空の美少女を、やっぱりユキオは悪魔と呼ぶことに決めた。

 ライオンの方がスピードが速いのだから、逃げながらライオンよりも速くならないといつかは追いつかれることになる。ユキオは記憶の中から、短距離走で速く走るコツを思い出していた。

 

《とにかく腕を振って、地面を蹴り上げて前に跳ぶ……だったか?てか革靴走りづれぇ》


 ユキオは確実に速くなっていた。急激な損傷を受ける筋肉は、すぐにシルクの魔法で再生される。短期間の破壊と再生の繰り返しにより、身体能力はドンドンと上がっていった。ただし、それはライオンにも言えることだったが。


「ほらほらー、もっと速くなんないと食べられちゃうぞ」


「う、うるせぇーー!」


「ガウ!ガウゥ!」



 ――二時間ほど地獄は続き、日も暮れかかっていた。

「中々やるじゃない。あのライオンを振り切るなんて。」


「はぁ、はぁ、ちょっと、回復魔法掛けてよ……心臓止まりそう」


「それでは次の特訓~♪」

 シルクはユキオの言葉を無視して大きな石を片手で持ち上げユキオの前に放り投げた。


 ――ドン!


「はい、これ持ち上げてね。今日中に。出来なかったらご飯抜きね」


「くそ!俺の社畜根性なめんじゃねーぞ!」


 ユキオは今度は上半身を鍛えるため、その場で腕立て伏せをを始めた。


「そんなんじゃ無理よ。しょうがないから手伝ってあげる」

 そう言うとシルクはユキオの背中に降り立った。

 

「お、重い……」


「なんか言いました?」


「い、いえ、何でもございません」



 ――こんな調子で修業は続いた。ちなみに、これは魔法の修業である。

 

「ふぅ。そろそろご飯にしますか。ユキオ、アンタ料理できるの?」


「フフ……なめて貰っちゃあ困るな。俺は大学生の頃料理にはまって週一で新しいレシピを考え出してはクックパッドに投稿していたほどの男だぞ。和洋折衷何でもござれだ」


「なんか自信満々でムカつくけど、食材はその辺のを適当に使ってね」


 ドラゴンの厨房には調理器具が一通りそろっており、魔法で作った氷の冷蔵庫の中には野菜や肉などの食材が揃い、パスタやお米まであるようだった。

 

「あの…ドラゴンは料理をするんですか?」


「ドラゴンだって料理くらいするわよ。食材は麓の村からこっそり貰ってきたものよ」


 そりゃ泥棒だ。と思ったが、いちいち殴られては堪らないのでユキオはさっさと料理に取り掛かった。見たことも無い様な食材もあった。ユキオは久々に研究意欲をそそられ、香草の味見をした。


「おぉ!この味はルッコラに似てるな。フフ……思い知るがいい。明日からはユキオさんと呼ばせて見せる!」


 ユキオは手際よく料理に取り掛かり、生地から作った見事な焼き加減のマルゲリータ、サイドメニューに唐揚げとサラダ、コーンポタージュスープを作った。ピザが焼ける高温の窯まであるなんて、一体このドラゴンは何者なのか。


「おい、涎でてるぞ」


「お、お前にこんな才能があったとは、驚きだ。助けてやって良かった」


「まぁ冷めないうちにどうぞ」


 マルゲリータを一口食べたシルクはその美しいブルームーンストーンのような瞳から涙を流していた。


「お、おい、泣く程美味かったか」


「う、うるさい!ちょっと思い出しただけだ」


「思い出したって、何を?」


「お前には関係ない。チャラチャラしている暇があったらもっと強くなる方法を考えろ。明日は今日より数段きつく鍛えてやるからな」


 このドラゴンは憎まれ口を叩いているが、ユキオは内に秘めるシルクの優しさに気付いていた。その涙の理由を、いつか自分に話してくれるだろうか。そんな事を思いながら、ユキオはシルクのために冷やしてあったお茶をグラスに注いであげた。


 夜空から照らす月の光が、優しく二人を見守っている様であった。



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