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白きドラゴンと異世界で旅をする  作者: 沖野 しずく
第一章 -異世界から呼ばれし勇者達-
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第三話 二人の勇者

 ――舞台はグリンテイル王国に戻る。

 今回の召喚によって適性試験で合格し、勇者の称号を得たのは二人。

 藤崎遥香フジサキ ハルカ(16歳)、桐早冬馬キリハヤ トウマ(15歳)である。

 

 トウマは切れ長の目の奥に、力強さを併せ持つ。その顔には幼さを僅かに残しつつも、イギリス人と日本人の間に産まれたトウマの頭髪は金色に輝き、端正な顔立ちをしている。勇者というイメージにぴったりであった。ただし、身長はまだハルカより小さかったが。

 

「それでは改めて歓迎いたします。ようこそグリンテイル王国へ。私はここグリンテイル王国の学院で講師を務めるユフィアという者です。あなたたち二人には、先ず学院でこの世界のことを学んで頂きます。長いお付き合いになりますのでどうぞよろしくお願いしますね」

 

「二人って、あのリーマンはどうしたんだよ」

 トウマはユキオのことが気になっていた。半ば強制的に勇者にされた自分とは対照的に、勇者になることを自ら望んだ男のことを。

 

「あの方でしたら心配は要りませんよ。大賢者ゲイル様がお預かりになるとおっしゃっていたのですから、もし適性が認められれば学院に入学してくるはずです」

 

「大賢者ってなんだよ。てゆうか勇者とかあんまり乗り気じゃないんだけど。ね、君もそう思うでしょ」

 トウマは両手を頭の後ろに組んで、気怠そうにしながらハルカに話題を振った。

 

「私は自分の進むべき道があるなら、立場や世界にこだわりません」

 ハルカの真っ直ぐ前を見つめるその瞳は、どんなに磨かれた宝石よりも澄んでいるようであった。

 

「立場や世界にこだわらないって……だってここには家族も友達もいないじゃないか。たった一人で何のために戦うのさ。知らない人のために命を懸けて戦うなんて嫌に決まっているじゃないか」

 

「私には家族と呼べる人は居ません」

 

「ご、ごめん」

 

「あなたが謝ることではありません。元の世界の友達と会えなくなるのは寂しいですが、知らない人を助けるために努力することを私は嫌だとは思いません。それに、あなたとは友達になれそうな気がします。だからたった一人でもありません」

 

 そう言って僅かに微笑むハルカを見ていると、不思議と不安がなくなっている自分に気付いた。どういう人生を過ごしたら、このような考え方ができるようになるのだろう。まるで聖女のような女性だとトウマは思った。そして目の前の女性に対して初めて抱いたこの表現できない感情が、恋であるということに気付くのはそう遠くない先のことであった。

 

「本日は日も暮れて参りましたので、こちらの宿をお使いください。明日は朝九時にお迎えに参りますので、それまでゆっくりとお休みください」

 ユフィアは二人にそう告げると、お辞儀をしてその場から離れていった。

 

「あ、あのさ、ありがとう。ちょっとだけ不安じゃなくなった」

 トウマは照れ臭そうに鼻頭を掻きながら、ハルカに御礼を言った。

 

「こちらこそ、これからよろしくお願いしますね」

 

 

 ――宿に入ると、丁寧に磨き上げられた大理石の床の上に、宿屋の主人が立っていた。周りを見渡すと、シンプルだが職人の技が垣間見える装飾が高級感を漂わせていた。

 

「今晩は。ようこそおいで下さいました、勇者様」

 主人は深々と頭を下げて二人の勇者を出迎えた。

 

「そんなに畏まらないで下さい。私たちはまだこの世界に来たばかりで、何の力もありません。それに、勇者がどういう者なのかも理解できていないのです」

 

「これは失礼いたしました。しかし、私も国より、勇者様を手厚くもてなすようにと命を受けております。慣れない環境に戸惑いもございましょうが、ご用がありましたら何なりとお申し付けくださいませ」

 

「おじさん、腹減ったよ」

 

「承知いたしました。夕食の準備はできておりますので、一息つきましたら二階の会食の間までいらしてください」

 

 夕食はイタリアンと中華を融合させたような料理だった。

 色彩豊かに彩られたサラダ、パスタ、スープ、パンというシンプルな組み合わせであったが、ガーリックの香りとエビ、貝から染み込んだ出汁が見事にパスタと絡んでいて、付け合わせの中華風スープが優しくバランスを取っていた。

 

「こんな旨いパスタ食べたことない」

 トウマはパスタを口いっぱいに頬張り、呑み込むように食べた。お世辞にも行儀がいいとは言えないが、美味しそうに食べてくれる異世界の勇者を見ていたシェフは満足気であった。

 

「トウマ、高級なレストランみたいだし、もう少し行儀良くした方が……」

 ハルカは呆れたように言うも、表情は可愛い弟を見る様に優しげであった。

 

「構いませんよ。お口に合った様で何よりです。行儀などは気にせず、この世界の味をご堪能ください。うちのシェフは王室の厨房で働いたこともある程で、腕は超一流でございます」

 

「ありがとう、本当美味しいや」

 

 その二人の勇者を見つめる宿屋のご主人は終始笑顔であったが、時折何かを案じているような目をしている事にハルカは気付いていたが、トウマを不安にさせまいとその事は胸の奥に仕舞っておくことにした。

 

 こうして二人は異世界での初めての食事に大変満足し、一日目を終えた。


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