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白きドラゴンと異世界で旅をする  作者: 沖野 しずく
第一章 -異世界から呼ばれし勇者達-
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第十一話 作戦

 風精により、騎士団に伝達を終えたルッカスは、状況を説明した。

「敵の兵力はおよそ一万。未だかつて無い規模です。方角はここより南、恐らく主謀者はウェイルズ大陸のもう一つの強国イレアム王国でしょう」


「一万!?……そんな、いくらイレアム王国でもそんな数はありえない!」

 カウェインはルッカスの言葉を信じられないといった様子で言った。


「周辺国と結託したか……」

 幼い王は冷静に返す。


「ええ、恐らくは。一番恐れていた事態になってしまったようです」


「して、ルッカスよ。その軍団が到着するまではどの位掛かりそうだ?」


「……半月程と言ったところでしょうか」


「半月か。では直ぐに我が軍も向かうぞ。こちらも出向けば一週間程で向かい合うことになる。その間に目指すのだ。ユグドの森を……」


「ユグドの森とは……モグレス様、聖剣エクスカリバーを手に入れるおつもりじゃ……」

 ゲイルは閉ざしていた口を重々しく開いた。

 

「その通りだ。ゲイル、伝説によれば聖剣エクスカリバーを手に入れし勇者はこの地を治める力を手に入れることが出来る……そして今、我らは勇者の召喚に成功した」


「いけません!ユグドの森には悪魔の使いと呼ばれる恐ろしいドラゴンが住むと言われています。それに森は古より強力な封印術で封印されており、私の魔力を持ってしても恐らくは……」


「ならばもう一人の勇者、ハルカの資質を借りればよい」


「確かにあれ程の魔力があればあるいは……」


「よし、全軍出陣の準備を整えさせろ。余も同行し、勇者と共にユグドの森へ向かう。出発は明日の夜明けだ!」


「はっ」

 ルッカスは返事をすると城へ向かって馬を走らせた。

 

「勇者トウマ、カウェイン、ゲイルよ。そなたらは余と同行し、ユグドの森を目指すぞ。夜明けまでに最善の準備を整えよ」


「はっ、モグレス様」



 ――カウェイン、モグレスがその場を去り、ゲイルとトウマは学院に戻ってきた。

「ハルカ、もう調子はいいの?」


「ええ、もうすっかり大丈夫よ」

 トウマが尋ねると、ハルカは微笑んだ。

 

「トウマ、何だか大人っぽくなった?」


「あれ?わかっちゃった?色々あってさ……それよりハルカ、今この国は大変なことになってるんだ」


「大変な事?」


 ――トウマは大体の経緯を話した。

 

「そう、戦争が始まるのね……」

 ハルカは悲しそうな面持ちで言った。


「そうみたい。でもエクスカリバーとかって言う剣があれば、その戦争を止める事が出来るかもしれないらしい」


「戦争にはしたくないわ……私もその森に行く」


「ハルカは俺が守る。そして戦争も止めてみせる」

 突然トウマが真剣な表情で迷いなく言ったそのセリフに、ハルカは思わず頬を染めた。

 

「な、何言ってるのよ。私の方が年上なんだから、私がトウマを守るのよ」

 

「ハルカがそんなに焦ってるとこ初めて見た」

 トウマはいつもの悪戯っ子の表情に戻り、手を頭の後ろで組んだ。

 

「もう、からかわないでよね」


《本気だよ……俺が絶対ハルカを守る……》



 ――ここはグリンテイル王国随一の名門ウィンデガルド家。

 

 エミリアは、兄カウェインの帰りを今か今かと待ち侘びていた。

 ウィンデガルド家に産まれるも、エミリアは幼いころから病弱で、あまり外に出ることを許されなかった。

 エミリアはいつでも優しく、強い兄の事が大好きだった。

 その美しい容姿に、方々より求婚を受けるも、エミリアは何かと理由を付けては全て断っていた。

 エミリアには夢があった。それは、いつか戦いに出る兄の傷を治すため、医学の道に進むことであった。

 

「お嬢様、あまりご無理をなされてはお体に障ります」


「大丈夫よレフィル。今日は調子がいいの。もう少し勉強させて」

 そう言ってエミリアは微笑み、メイドのレフィルにお願いした。

 

「玄関の方が騒がしくなっているようですわ。カウェイン様がお帰りになったようですよ」


「私も出迎えます」

 

「わざわざ出向かなくても、きっとカウェイン様は来てくださいますわ」

 そう言うも止めないレフィルに、微笑みを返してエミリアは部屋を出て行った。

 

「この幸せが、ずっと続けばいいのですが……」

 レフィルは、武家として戦いの道に進まざるを得ないカウェインと、その兄を慕うエミリアの未来を案じて神にお祈りを捧げた。


「お帰りなさい。お兄様」

 とびっきりの笑顔で兄を出迎えるエミリア。

「只今、エミリア。今日は寝てなくて大丈夫なのかい?」


「私だっていつまでも寝込んでばかりでは居られませんわ」


「あまり無理をするんじゃないよ……エミリア、今日は大事な話があるんだ。食事の時話すよ」

 兄のこんな弱気な表情は初めてだった。心配したエミリアはわざと明るく返事をした。

 

「あら、何かしら。お兄様のお話ならどんなお話でも楽しみですわ」


 カウェインにとって、戦争は恐怖の対象ではなかった。

 だが、もし自分が戦争を止められなかったら、世界で一番大切な妹エミリアを殺されてしまうかもしれない。そう考えると、弱気になってしまう自分が居た。

 

《そんなことでどうする。俺が聖剣を手に入れ、戦争を止めるんだ……》


 カウェインは瞑想の間で目を閉じ、精神を集中させ、不安を捨て去った。

 

 それから、エミリアが待つ食卓へと向かった。

 それがエミリアとの最期の食事にならないことを願いながら……

 

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