第十話 決闘
――学院のすぐ裏に、石で造られた円形の闘技場があった。
ここは昔、力を競い合った貴族同士が、己の強さを示すために使われていたが、貴族同士の決闘が禁止されてからは使われることは無く、一種の観光名所となっていた。
「準備は良いか」
向かい合うトウマとカウェインの真ん中で、ルッカスが審判を行う。
「制限時間は5分。優勢だった方を勝者とする」
「はじめ!」
合図と同時に、カウェインは飛び上がり、剣に火属性を付与した。
「炎號」
燃える斬撃がトウマに向かって放たれたが、トウマは微動だにしていない。
剣を中段に構えたまま、襲ってくる斬撃を唯見つめていた。
――魔法剣の斬撃。そんなものを生身の身体で受ければ、即死は確実であった。
「まずい!」
ゲイルもルッカスも止めに入る隙を与えないほどのスピードであった。
斬撃はトウマに直撃した。
しかし、目の前の勇者は全くの無傷であった。
トウマの周囲は金色に輝いていた。
「き、貴様!何をした!?」
カウェインは一撃で片を付けようと放った技が全く効かず、動揺を隠せなかった。
「……闘気盾、どんな攻撃もこの盾を貫くことは出来ない。これなら、ハルカを守れる」
「くっ、ふざけるな!次は手加減しないぞ!」
カウェインは魔法で身体を強化し、詠唱を始めた。
『我 法を破り 理を超え 破壊の意志をここに示すものなり 来たれ 天を裂く光の刃……エクレール!』
――ズガーン!
カウェインが振り上げた剣に向かって天から雷が落ちた。
雷光はカウェインの頭上で収束され、紫色へと変色していく。
「この技は紫雷剣、いつか父を超えるため編み出した究極の剣……この剣に、斬れぬ物は無い!」
「なら今度はこっちも攻撃させてもらう」
トウマは闘気を剣に伝え、攻撃に備える。
――その時だった。
「二人とも!そこまでだ!」
血相を変えてルッカスが叫ぶ。
「たとえルッカス様の命令と言えどこの勝負、やめることは出来ません」
カウェインは今にもトウマに跳びかかろうとしている。
「違う!たった今この国周辺に仕掛けておいた探知魔法が反応した……敵が攻めてくる!」
モグレス王はしばらくの沈黙の後、意を決し、命じた。
「うむ、直ぐに騎士団に伝えよ!ルッカス」
「はっ」
ルッカスは返事をすると風精を用いて出動命令を送った。
「カウェイン、トウマよ。今はその力、余に貸して欲しい」
カウェインは魔法剣を解き、剣を収め、王に向かって跪いた。
「勿体なきお言葉。この命は陛下のための物にございます」
「俺の力も使ってくれていいですよ」
トウマの軽率な言葉遣いに、カウェインはトウマを睨みつけた。
「カウェインよ、構わん。この者は異世界より来たりしもの。勇者よ、協力に感謝する。……ゲイルよ。学院にも事態を伝えよ。戦う意志のあるものは歓迎すると」
ゲイルはよもや戦う以外ないといった王を止める術もなく、ただ頷くしか無かった。