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ミミナリ  作者: 三宝すずめ
4話 等間隔
53/88

幕間

記憶の最後――



 そして季節が幾つか巡り、また梅雨になった。今では主人の隣にいることに違和感はない。自分で決めたことなので、当たり前ではあるが。


 初めは言葉足らずに戸惑ったものだ。目も合わせず、言葉も出さない。実は嫌われているのではないか、そんな風に思うこともあった。


「そういえば、この間のことはすまんかった」


 戸惑いを忘れつつあるニ三日経った後で、こんな風に謝ってくることもザラだ。やはりどこかぶっきらぼうに語る彼。どうやら、必死すぎて気づくことが遅れるらしい。だが、悲観する必要はない。彼はきちんと謝ることができる。


 育ちがいいだけの坊ちゃんだと思っていたが、今では立派な青年だ。


 可哀想――彼を指して、こう表現することはしたくない。だが、幼い頃から人と関わることが少なかった彼が、他人の感情を理解すること、人に自分の想いを伝えることが下手であること、それは仕方のないことだ。恨みを知らない彼の代わりに、私はそいつを恨んでおくことにする。


「あ、この間のことだけど――」


 彼が思い出して謝る時に、私はいつでも黙って首を振った。気にしないでいい、次に上手くやればいい、そう伝えたかった。




 何故今、こんな記憶が駆け巡るのか。


 眼に映る筈の景色が一色足りていない。血を失いすぎたのだろう、意識が朦朧としている。しとしとと降る雨粒に熱を奪われていく。


 しかし、不思議と寒くはなかった。


「どうして、どうして……」


 主人が私を抱きしめていた。涙を拭うこともせず、どうしてと言葉を繰り返す。


 気にしないでいい、そう伝えたかったが言葉には出来ない。私はゆっくりと、首を二三度振ってみせた。目が見えないので、伝わったかどうかが心配だ。この人は、驚く程に鈍感で、傷つきやすい。


 貴方はとても素敵な青年だ。


 願わくば、これからも真っ直ぐ生きて行って欲しい。次は、うまくおやりなさい。私は最後に一言だけえた。


 私はいなくなるけど、いつまでも泣いていてはダメですからね。




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