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ミミナリ  作者: 三宝すずめ
1話 休間隔
5/88

2.仕事始めとトラブルと―閑話

「えっと、よかったのでしょうか……」


 新奈がおずおずと今の状況について尋ねてきている。


 お屋敷の魔女へ依頼に来たものの、調べに出てくれたのは彼女の助手ただ一人。加えて、新奈から見た海里の第一印象は『良い人だろうけど、頼りなさそう』だった。


「かまわんかまわん」


 紅茶は飽きたのか、魔女はコーヒーをすすりながら、ひらひらと手を振っている。


 紅茶とは別のよい香りに、ふと気をそらされそうになる。はちみつ入りのコーヒーだった。


同じものが依頼主の目の前にも提供されているが、飲む前からわかる。


「飲まんのか?」


 魔女は不思議そうに目の前の女性をのぞき込んでいた。


「あ、えっと……」


 飲むとか飲まないとかいう問題ではなかった。


 目の前のものは、コーヒーとはちみつの比率が明らかにおかしい。


 飲む前からはちみつだ、とわかるほどの量が注がれている。最早これでは、コーヒー入りのはちみつといった方が正しいだろう。


「コーヒーは、苦手で」


「少し甘くしすぎたかな」


「あ、えっと……」


 咄嗟に吐いた嘘は見抜かれているようだが、別段気分を悪くした風にも見えない。


 むしろ、先程から顔をしかめながら飲んでいる。端から見ていると、とてもおいしそうには見えないが。


「イヌカイに任せておいて平気だ。今回の件はあいつに向かないことは確かだが、あれでなかなか器用貧乏――もとい、マルチな才能の持ち主だ。安心してくれ」


「あ、はい。ところで、イヌカイさんってかなえさんの助手さん、ですよね?」


 なんだか不穏な表現を聴きいてしまったが、新奈はそこには敢えて触れなかった。


「助手ではない。我がしもべだ」


「ああ、僕なんですね。なるほ――ぇ?」


 思わずフリーズ。流していたら、はるかに不穏な表現が出た。


「……なんて顔をしている。あと、口を閉じなさい」


「す、すみません」


 年下の少女に注意されて、新奈は一層肩をすぼめた。


「なに、謝る必要はない。私は非常識な生き物だからな」


『自覚あったんだ』とは、口に出さなかった。いや、口が裂けても言ってはいけないことくらい新奈もわかっている。


「……自覚くらいしておるわ。十七年も生きておったら、それくらいわかる」


「……」


 十七歳に叱られて、本気で落ち込みそうになってきた。要領が悪く、姉には迷惑ばかりかけていたことをついつい思い出す。


「謝る必要はないぞ?むしろ嘘が吐けないというのは、私からすれば美徳だ」


 かっかっか、と豪快に笑う魔女。つられて新奈も笑ってしまった。


「魔女って、もっと怖い人だと思っていました」


 彼女は久方ぶりの人とのコミュニケーションに満足している様子だ。


 目の前にいるのは、町の誰もが恐れるお屋敷の魔女。驚かされるものだとは思っていたが、評判とは異なった驚きの連続だった。


 新奈は改めて眼前の魔女、かなえを観察する。


 椅子にふんぞり返っているこの少女(十七歳と言われても納得がまずできない)は、西洋人形のように整った顔立ちと、愛くるしい声をしている。


 歳不相応な華奢な身体に、白いブラウスと黒いスカート。随分とシンプルであるが、傍目にも生地が上等なことがわかる。


 何より、かなえのある一点、否、二点から視線を離せなかった。


「……どこを見てるんだよ」


 はぁ、とため息を吐きながら、かなえはお手上げとジェスチャーをしてみせる。


 少し身体を揺すっただけだったが、それに合わせて豊かな膨らみが右へ左へ。


「わぁ……」


 本人の意図なく、思わず声が漏れていた。


 羨望や感動とはまた別の、言葉では言い表せない感覚に陥ってしまう。



――ロリ巨乳って、実在したんだ。



『お屋敷には魔女がいる』新奈はこの言葉に、ついに確信をもった。


 羨むのは胸の大きさだけではなかった。長い黒髪に癖はなくとても綺麗。眼も黒目がちな上にまつ毛が長い。


(目つき、悪いけど)


 などと心を読まれまいかと警戒をしていたところで、(目つき悪いから眼帯をしているのかな)とも思う。


「これは、ただのファッションだよ」


 視線が交錯したところで、またしても新奈は台詞を先取りされてしまった。やはり気にした風はなく、かなえは大きな眼帯をトントンと指で触れていた。


 肘をついて、椅子にもたれかかるというのは、だらしない仕草である筈なのに、新奈はこの少女へ嫌悪感は覚えなかった。


 むしろ、髪をとかして、服をあてがいたい、もっと可愛くしたい、と新奈のお節介心に火がつきそうになっていた。


 思わず口元が緩んでしまう。


「……なんで笑っているかはわからないが、面白い依頼人だな、キミは」


 やれやれと、椅子に身を預けなおしては薄く笑うかなえ。


「あ、でもかなえさん、口が大きいね」


「おい、見た目の批判はさすがにやめろよ?」


 嘘を吐けないと指摘されてか、最早隠そうともしなくなった新奈に、つい目を丸くする。


 どうやら、依頼人には屋敷を訪ねたばかりの頃の緊張はなくなったようだと、かなえはもう一度笑ってみせた。


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