プロローグ
私に降りかかった災難――
身をやつす程の恋をした。
比喩ではなく、着飾ることすら放って夢中になった。そんな私を、知人友人はみな一様に『変わった』と言った。恋をすると人は変わるというが、私はそれ程に変わったのだろうか。
あまりに変わったというから、前の私とは何だったのだろうかと考えてみる。考えても変わらない。たまたま周囲に社交的な人が多かっただけで、一緒に着飾って遊んでみただけだ。別に服がそれほど好きだという訳でもなかった。みんなの知る私には、大した趣味もなかったのだ。
だからただ合わせるだけでなく、私に合わせてくれる彼に強い感情を抱いた。それはもう、身を苛む程に。
彼のためにお金も稼いだし、言われるまま何でもしてあげた。彼の喜ぶ顔が好きだった。好きだったというのに、ここ最近は笑った顔を見せてくれない。どうしてだろう。
変わる程の代価を私は得ているのだろうか。
ある時、仕事もしないでいい時間が、一人で過ごしていい時間ができたところで、ふと思い当たる。私は自分を必要としてくれる人を欲していたのではないか、と。
病室に運ばれてから、疎遠になっていた親兄弟を見て、彼らこそ私を必要としていることにも気づいた。
痩せた私を見て、年甲斐もなく涙する親を見てしまっては、決心せざるを得ない。私よりも小さな母があんなに泣くのだから。
彼とさようならをするためにアパートに戻ると、彼が泣いていた。
さようなら、と言いづらくなってきた。でも言わなきゃいけない。
さようならが、なかなか言えない。
どうしてかな。さようならを言おうと決心したのに――
首が締まって声が出ない。