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Act.1:赤月静也

大幅に改稿しました。

展開自体にあんまり変化は無いです。

「おい、授業中にいつまで寝ているつもりだ?」


「………あ?」


 頭上から掛かった声に、黒髪の少年はまぶたを開けて声の方を見る。

 見れば、三十代半ばを過ぎたと思しき中年男性が少年を見下ろしていた。


「……浅桐あさぎり先生、俺、寝てました?」


「お、おお、ぐっすりとな」


 少年が半眼気味の三白眼をじろりと動かして男性に問うと、浅桐と呼ばれた教師は一瞬たじろいてから答えた。

 少年はその様子にため息を吐いて頭を下げる。


「………すみません。気を付けます」


「う、うむ。よろしい」


 少年、赤月静也あかつきしずやの謝罪を聞いて浅桐は一つ頷くと教壇に立ち、授業を続けた。


「では、続いて25ページの…」


「………はぁ」


 浅桐の退屈な世界史をBGMに、先程まで見ていた夢を反芻しながらスマートフォンを取り出す。


―――俺としてはリアリストのつもりだったんだが。


 スマホを起動させながら内心呟く。


―――今世間を騒がす中二病を今頃になって発症したか?


 だとすれば大変だ。

 今年で17だというのにこじらせたとあってはご近所の視線が痛い。


「(………って違うだろ。論点はそこじゃないだろ)」


 何を寝ぼけている赤月静也、と静也は自分にツッコミを入れた。


「(明晰夢めいせきむってヤツか?やけにはっきり覚えてたけど)」


 独り言を呟きながら静也はスマホで夢について検索してみる。


「(夢を夢と自覚して、ある程度コントロール出来る、ねえ)」


 ニキペディア│(※ネット上のフリー百科事典。サブカルチャーから科学的理論まであらゆる物事を有志で編集していくサイト)曰く、ある程度の条件が揃えば明晰夢…すなわち夢を自覚することが出来るそうだが、静也はそれとは違うと考えた。

 確かに夢だと自覚できていたが、それと同時に何故か強い現実感を覚えていたのだ。

 まるでテレビのモニタに頭を突っ込んで中に入ったかのような―――


「………痛ッ」


 ジグリとこめかみが痛む。

 元々低血圧気質な上に寝起きだったので血の巡りが悪いらしい。


「………とりあえず、『俺ノート』行きかな」


 そう言って静也は鞄から『俺ノート115』と書かれた大学ノートを取り出し、『夢 石室 少女 世界を救う 勇者』と書き込んだ。


「…………」


 しかし勇者と書き込んだその後しばらくその単語とにらめっこし、上から黒く塗り潰してしまった。


「俺みたいな凡人が勇者な訳無いだろ」


 苦虫を噛み潰した様な顔で呟きながら塗り潰した横に『明晰夢?』と書き加えてノートを閉じる。

 そしてもう一つのノートを取り出して浅桐の書いた板書を書き写し始めた。





 某私立高校2年A組。

 午前の授業から開放され、生徒たちは購買や学食に走って行く。


 そんな中、静也はこっそり複製していた鍵を使って屋上で昼寝をしていた。


「………………………………………………はぁ」


 屋上階段の屋根に寝転び、今朝書き込んだノートを眺めながら本日何度目かのため息。

 夢の内容が妙に引っかかって授業にも集中できなかった。


「おーい、そこの不良生徒」


「あ?」


 下からの声で我に返って屋根から顔を出す。

 屋上と階下をつなぐ扉のそばに、静也よりもかなり背の高い少年が彼を見上げていた。


「おーおー、相変わらず怖い目付きだな赤月」


「うるせぃ篠崎しのざき。なんか用か?」


 コンプレックスを指摘した生徒、篠崎健吾しのざきけんごを睨みつけ、静也は用件を問うが、その視線を篠崎は涼しい顔で流して答えた。


倉田くらたちゃんがお前を呼んで来いってさ」


「………あのお節介焼きか」


 自身の担任の名前が出てきて、静也の顔は先程よりも2割増しで渋くなる。

 あまり人と関わろうとしない静也を心配しての事だが、基本的に孤独を好む静也としては良い印象は抱けなかった。


「顔出すんなら今の内にしとけよ。すっぽかすと多分放課後に呼び出されるぜ?」


「わかってる」


 篠崎の忠告に応えつつ、静也は飛び降りて扉へと歩く。

 しかしドアノブに手を掛ける直前、静也は篠崎を振り返った。


「なあ篠崎」


「どうした?」


 難しい表情を浮かべる静也に、篠崎は不思議そうな顔で首をかしげる。


「夢の中で、自分が勇者だから助けてほしいって言われたら、お前どうする?」


「……はぁ?」


 バカバカしいと自分で分かっているが、静也は篠崎へ質問を投げた。

 対する篠崎ははじめこそ驚いてみせたものの、少し考えて、答えた。


「………俺だったら応えるかな。夢ってのは自分の深層意識の現れだって言うしさ」


「……ふーん。サンキュな、こんなしょうもない質問に」


 「気にすんな」と手を振る篠崎を背に、静也は屋上から職員室へと降りていった。




「失礼します。2年A組の赤月です」


 職員室の扉を開けて声を出すと、何人かの教師の視線が静也に集中する。

 問題児…という訳ではないが、静也に取っては慣れたものなのであまり気にも留めずにまっすぐに目的の人物が座っているデスクへと歩いた。

 静也の姿を見止めると、デスクの女性は気だるげな彼と向かい合う様に座り直す。


「篠崎に呼ばれて来ました。何か用ですか倉田先生?」


「静也くん。その他人行儀な呼び方、そろそろやめてもらえると先生嬉しいなあ」


 静也の言動に対して、彼の担任教師である倉田美智乃くらたみちのは困ったように笑う。


「一人の生徒に肩入れするのは問題ですよ、倉田先生」


「叔母に対してそんな言い方する甥もどうかと思うよ?」


 美智乃の返しに静也は面倒そうに頭を掻いた。

 美智乃は歳の離れた母親の妹であり、自分にとって姉のような存在とも言える。

 彼女が大学に上がってからは疎遠になっていたが、高校に入って二人は再会、そして担任教師と生徒という関係に収まっていた。


「で、用件は何ですか?」


「あ、面倒臭がった」


「昼飯がまだなんスよ。ちゃっちゃと済ませたいんです」


 機嫌が悪いです、という雰囲気をわざとあからさまにして無理矢理続きを促す静也に、美智乃はやれやれと首を振った。


「今日は随分と授業に身が入らなかったみたいね。浅桐あさぎり先生も三好川みよしがわ先生も竹森たけもり先生も心配して私に声をかけてくれたわよ?」


「(……その教師共はあんたのポイント稼ぎのダシに俺を使っただけだろうに…)」


 今話題に上がった三人は全員美智乃に色目を使っている男性教諭達だ。

 若い新人教師且つフリーの美智乃を狙っている人間は校内だけで教師、生徒を問わず多い。

 因みに静也に取って唯一の友人である篠崎もその一人だ。


「………すみません。午後からは授業に集中します」


「……その顔、あの事を思い出したの?」


「………………………」


 少し悲しげにそう口にした美智乃に、静也は険しい視線を向けた。


「トラウマなのは解ってるけど、あの事件に貴方の責任はどこにもないのよ?」


「………うるせえ…」


 彼女の言い分を聞いて一瞬目を伏せた静也だが、すぐに美智乃を睨みつけて絞り出す様に呟いた。


「あの事は俺の中でまだ決着がついてねえんだよ。ハンパに出張ってくるんじゃねえ」


「静也くん…」


「……あ…」


 美智乃は静也の剣幕に悲しげに目を伏せた。

 自分を気遣っての言葉を突っ撥ねてしまった静也はその様を見て再び目を伏せる。


「…すみません、失礼します」


 沈黙に耐え切れず職員室を後にする静也。

 その背中を美智乃は寂しげに見送っていた。

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