Act17:サクラとギルベルト
更新遅くなりました。
ごめんなさい。
静也の体調が回復した後、二人は洞窟の奥へと足を運んでいた。
死体の臭いで他のモンスターが寄ってくるかも知れないので、ハイオークの死体は穴を掘って埋めてある。
「……にしても、タマキの方の扉もダメだったか…」
「すみません…」
「いや、タマキが謝る事じゃないし。謝るとすりゃ、罠仕込んだ連中じゃないの?」
静也のマントを着込んだタマキが頭を下げるが、頬にもみじをこさえた静也は肩をすくめてみせる。
あの光の中からタマキの出てきた扉が出口になりはしないかと二人で見に行ってはみたものの、静也の時と同様にその扉は固く閉じられていた。
どうやら静也達を嵌めた人物はこの迷宮から彼らを脱出させるつもりは無いようだ。
「………ま、入口から出られなくても迷宮の特性上、俺らがこの迷宮を攻略しちゃえば問題ないけどね」
レインが言っていた事を思い出しながら、静也はタマキに笑いかける。
迷宮は入ったパーティが踏破すると自動的に脱出させる特性がある。
これはどのような迷宮でも総じてある特徴だ。
「…呑気どすなぁ」
すっかり普段通りのユルさに戻った静也に苦笑するタマキ。
しかしそんな彼女の感想とは裏腹に静也は内心焦りを抱えていた。
「(…………入口を塞がれて退路は無い。先生との訓練で体捌きはある程度マシになったけど、まだ完全に実戦…殺し合いに慣れたワケでも無い。多分奥に行けば、さっきのブタ以上のモンスターがウジャウジャ出て来る。その上戦力を分散された。………状況はかなり厳しいな)」
いくらなんでも不安要素が多すぎる。
この状況を作り上げた人物は相当綿密な計画を練っていたのだろうと静也には容易に想像できた。
しかし、虎穴に入らずんば虎児を得ず。
退路がない以上、前に進むしか無いのだ。
「それにしても、他のみなはんは大丈夫どすかね?」
「分散された以上、俺らも危険な事に変わり無いよ。……四人纏まってるか、少なくとも二人ずつなら大丈夫と思うが…」
単独行動となれば最悪だ。
前線に不向きとは言えタマキが殺されかける程のモンスターが出るならば、ほかのメンバーも危険な事に変わり無い。
「それは確かにそうどすな。………せやけど、静也はんの考えが裏目に出るかも知れまへんよ?」
「あん?」
心配そうなタマキの様子に静也は首を傾げる。
タマキの不安が、静也のそれと別の理由から来るものだと言っているからだ。
「なんだ?なんか他に問題あるのか?」
「ナナセはんとギルベルトはんの不仲は分かってはりますやろ?」
「うん?そりゃあの二人は仲悪いけど、最近じゃマシになったと思うぞ?」
確かに二人は顔を突き合わせれば喧嘩ばかりだが、静也の印象では始めほどの険悪さは無くなっていると感じている。
「ええ、静也はんが間に立ってくれてはりますから、前よりはマシになりました。せやけど、根っこの方では二人は……いいえ、ナナセはんはギルベルトはんをよく思てません」
「…………?」
タマキの言葉に静也は妙なニュアンスを感じ取った。
ナナセはギルベルトをよく思っていない。それはわかる。
しかし、ギルベルト自身は最初はナナセに悪印象を抱いていなかった様な言い草だ。
「………もしかして、ナナセとギルベルトの不仲の原因は、二人に直接関係無いことなのか?」
「………はい」
タマキは重々しく頷く。
そして静也にはその原因に心当たりがあった。
「………サクラか」
「その通りどす」
ギルベルトはサクラを徹底的に無視している。
それこそ、存在そのものを否定していると言わんばかりに。
もしもギルベルトがサクラと出会った時からそうしているのだとしたら、差別意識を嫌うナナセの反感を買うのも当然だった。
しかし、静也に分からないことがひとつ。
「けど、なんでギルベルトはサクラを無視してんだ?」
理由だ。
ギルベルトがサクラを居ないものと考える理由が静也には理解できなかった。
「いくら亜種嫌いのギルベルトでも、ある程度は取り繕う位するだろ?」
「………その亜種嫌いの原因が、サクラだからどすえ」
「え?」
その一言に、静也は面食らった。
一方その頃。
「…………………………」
「…あ、あぅ…にゃう…」
洞窟を歩く男女が一組。
ギルベルト・ベン・ビルブレストとサクラ・クズキである。
ギルベルトが早足に先を歩き、サクラはオロオロとその後を追っていた。
歩幅の差故か、その距離は縮まらず、ギルベルトはその歩を緩める気配もない。
「にゃ…ま、待って…」
「…………」
サクラがギルベルトに呼び掛けるが、当のギルベルトは聞いていない。
その態度にサクラは意を決したように息を吸い込み、もう一度呼び掛けた。
「……待ってってば、ギルくん!」
「…………」
その言葉に、ギルベルトはぴたりと足を止めてサクラへ振り返る。
「………おい」
「にゃ…」
その目は、ひどく冷淡なものだった。
「お前がその名でボクを呼ぶな」
「でも…」
「いつまで姉気取りだ。もうボクはお前のお守りが必要な弱い男じゃない」
サクラの言葉を遮って一息に言い放つ。
「ぅ…」
「お前と行動を取るのは、パーティだからだ。もうボクに話しかけるな」
そう言ってギルベルトは先へと足を運ぶ。
サクラも数秒の間を置いて再び追いかけ始めた。
一方、静也とタマキ。
「………元雇い主?ギルベルトが?」
「はい。正確には、ギルベルトはんのお父上どすけど」
タマキはそう切り出し、静也にサクラとギルベルトの因縁を語り始める。
タマキ曰く、クズキ家とソレに連なる家は代々傭兵の一家であり、他所からの依頼を受けてクズキ家当主が一族を派遣して家を保っているそうだ。
そしてサクラもまた8年ほど前にビルブレスト家の依頼を受けて父である当主から派遣されたという。
「ギルベルトはんの家に派遣されたんは、サクラとサクラの姉はんや言うてはりました。派遣された言うても当時のサクラは見習いやったから、姉はんの補佐としてどすけどね」
「ほぅ、姉ちゃんが居るのか」
引っ込み思案のサクラが個人で雇われるとは思っていなかったがそういうカラクリだったか。
恐らくサクラとは真逆で前に出るタイプの人物なのだろうと静也は想像した。
「依頼内容はギルベルトのお父上の護衛でしたけど、見習いのサクラはまだ幼かったギルベルトはんの遊び相手やったらしいです。後ろから『おねえちゃん』ってついて来られて可愛らしかった言うてましたよ」
「へー。あのキザ坊やがねぇ。………ん?おねえちゃん?」
相槌を打っていた静也だが、タマキの言葉に首を傾げる。
サクラがギルベルトに『おねえちゃん』と呼ばれたことに疑問を拭えなかったのだ。
14,5程度にしか見えない二人が、姉弟の様な関係だったというのがどうにもしっくり来ない。
「なあタマキ。あの二人何歳?つーかタマキやナナセ達もだけど」
「…………」
静也がそう訊くと、タマキは剣呑に目を細めた。
「ウチの話聞いてはりますか?」と目が訴えている。
「女子に歳訊くんは失礼やないですか?」
「うん、デリカシー無いのは解ってる。それでも訊く」
真顔で平然と追求する静也。
知的欲求を満たすためならあまり空気は読まない質である。
そんな静也にタマキは呆れてしまい、ひとつため息をつく。
「サクラは46、ギルベルトはんは15歳どす」
「タマキは?」
「ナナセはんは51歳で、アリアはんは27どすえ」
静也の質問を無視してタマキは他の皆の年齢を明かす。
「タマキは?」
それに構わず静也は質問を続けた。
「………………」
「………………」
しばし視線がぶつかり合う。
上手いことごまかされへんねぇ。
いいからはよ言ってくれ。
思念伝達なやりとりを経てタマキは漸く口を割る。
「…………ウチは48どす」
「…………ふーん」
顔を真っ赤にして自分の年齢を明かしたタマキを見て、静也の中で悪戯心が鎌首をもたげた。
「……そうだったんですか。失礼しました、タマキさん」
「え…し、静也はん?」
唐突な静也の口調の変化にタマキは戸惑う。
そんなタマキを他所に静也は言葉を続けた。
「いやぁ、今まで年上に生意気な口きいちゃってすみませんでした。以後気をつけます」
「静也はん?」
「それにしても、まさかギルベルトが俺より年下とは思いませんでしたよ。びっくりッス」
「………静也はん」
口端を戦慄かせてタマキが声を掛ける。
「というかみんなの中でナナセさんが一番年上だったんですね。最年長と最年少がケンカしちゃだめじゃないかと思いませんか?」
「静也はん…!」
タマキの目尻に涙が浮かぶ。
「にしてもアリアさんも27って俺のほぼ10個上じゃないですか。つくづく亜種って若々しいッスね」
「静也はんやめて!割と本気で傷つく!」
「おぉっと、ごめんごめん。ちょっと調子に乗りすぎた。冗談だよ」
半泣きになり始めたのを見て静也はタマキを誂うのをやめた。
「うぅ…意地悪…」
「ごめんなさい。一回やってみたかったんだよ、年上に年齢ネタでいじるの」
「せやからって、わざわざ訊いてすぐやることあらへんやないですの!」
「ごめんってば」
再三詫びを入れ、静也は表情を真面目なものに戻す。
「で、だ。話の続きだけど」
「………はい」
話の腰を折った当人の台詞ではないと思いつつも、タマキはサクラとギルベルトの確執の原因を話す。
「端的に言うと、サクラはギルベルトはんの初恋の人なんどすえ」
「…………………あぁ?」
そして静也は再び面食らった。
うんうん唸りながら続きをひねり出してる間にユニークPVが1200人を超えていました。
ありがとうございます。