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Act16:生命の価値は

どっかで見たことあるようなサブタイですが多分気のせいです。

今回は結構グロい描写を含みます。

閲覧の際はご注意下さい。

「………ぅぅううぉあああぁぁぁぁぁっ!?」


「きゃああぁぁぁ!?」


 静也達は禍々しい赤光の中を堕ちて行く。

 光の中に吸い込まれた先に地は存在せず、芋蔓式に皆真っ逆さまに下へ下へ。

 落下の勢いで掴み合っていた皆の手は既に離れている。


「くっ…そぉ!!みんなぁ!聞けぇ!!」


「なんやこの状況で!?」


 静也の叫びにナナセが応える。


「この光の中から出て、周りに自分以外誰も居ないなら……誰かと合流した時……誰も信用するな(・・・・・・・)!!」


「え!?」


 聞いていた全員は同時に声を上げた。

 それに構うこと無く静也は言葉を叫ぶ。


「いいか、今から言う言葉を覚えろ!!……『一特科の担任』!『万有引力の発見者』!『太陽系の惑星』!答えは全員知ってるな!!俺らの誰かと出会ったら真っ先に相手に問え!答えられなきゃ『敵』だ!!」


 その言葉の直後、強烈な光が6人を包み込む。

 静也の視界が真っ白に染まった瞬間、そこにあった皆の気配が一斉に消え去った。







「――――……どぁっ!?」


 次に視界に色が着いた時、静也は洞窟に真横に飛び出していた。

 バランスを崩して目前に地面が迫る。


「チッ…るぁぁぁ!!!」


 左拳で地面を殴り付けて勢いを殺し、反動で体勢を立て直して背中から受け身を取る。


「…………いでで…」


 受け身と言っても素人の見様見真似なので完全に衝撃を殺しきれず、静也は呻き声を上げた。

 片膝立ちになって周囲に目を向けると、自分が飛んできた方向には、学園のターミナルにあったような扉が固く閉じられていた。


「む…状況を鑑みると、俺が出てきた瞬間に閉じたっぽいなぁ…」


 立ち上がり顎に手を当て、歩きながら状況を整理する。

 まずはこの場に来る前…ターミナルで何が起こったかだ。


「俺が足突っ込んだ瞬間に光が青から赤に変わったって事は……俺の存在が面白くないヤツが、人為的に事故を起こしたって考えるのが妥当かね…」


 そしてその犯人は何者か。

 静也の予想では魔王に与する者だ。


「普通なら俺がリラオードから学園に呼ばれた事を予想するなんざ出来やしねぇ。……しねぇけど」


 勇者召喚のシステムがそれを可能としたかも知れない。

 召喚術自体はウィジス家の一族秘伝のものだ。

 そして一年以内に魔王が復活する情報は、嘗ての魔王側に就いていた者達も掴んでいるだろう。

 等と考えながら歩を進めていると、


「…………!」


「ん?」


 静也の耳が何かをとらえた。

 どこか聴き覚えのある声。

 同時にしゃらしゃらと鈴のを伴っている。


「………ッ!」


「鈴のおと…女の声…まさかッ!?」


 その声と鈴の持ち主に思い至って静也は走りだした。






「『狐火きつねび』ッ!!」


 しゃらん、と神楽鈴かぐらすずが鳴り響き、少女の目の前に青い炎が灯る。

 直径50㎝のそれがまっすぐに前方の存在へと飛んで行く。


『ピギィィィィィィィ!!!』


「……やっぱり、あんまり効きまへんなぁ…」


 狐耳をパタパタと動かし、タマキ・サエグサはため息をつく。

 剣呑とした瞳の先には醜悪な容姿の人間のような何かが居た。


『プギッ…プギュルルル…!!』


 革鎧に包まれ、でっぷりと肥えた2mを超える体躯。豚を更に醜くした様な顔立ち。

 錆び付いた大剣を肩に担いだソレ(バケモノ)はタマキの放った炎を振り払うと、下卑た笑いを浮かべて唸り声を上げた。

 化豚オーク

 ゼブオードで一般的にそう呼ばれているモンスター。

 そしてタマキの前に立ちはだかるソレは高位化豚ハイオークと呼ばれるモノだった。


「実習用の迷宮(ちゃ)うとおもてましたけど、ハイオークが普通におる迷宮なんて…」


 歯を軋ませながらタマキはハイオークを睨む。

 ハイオークは見た目通りの豚のような鳴き声を上げながらタマキへとにじり寄った。


「寄らんといて下さい!狐火六連きつねびろくれん!!」


 青炎を連続でハイオークへと飛ばすタマキだが、その攻撃は虚しくも振り払われる。

 その様にタマキは炎魔法を減衰レジストされていると見ていた。


「(ウチの狐火をこうもあっさり耐えるやなんて…並のモンスターなら消し炭どすえ…?)」


『ピギィィィィィィィ!!!!』


「ッ!しまっ…あうっ!?」


 雑念に囚われた一瞬を突かれ、タマキがハイオークの左手で張り倒される。


『ピグッ…ピググ…!』


「ひっ…いやっ…」


 そのまま興奮気味のハイオークがのしかかり、タマキは小さく引きつった悲鳴を上げる。

 化豚オークの習性は単純であり、三大欲求に忠実である。

 眠りたいときに眠り、喰らいたい時に喰らい、――――犯したい時に、犯す。

 そしてオークの生殖は亜人や人間のはらを利用する。

 今正にハイオークはタマキを苗床にしようとしていた。


『ピギュッ!ピギッ!』


「いっ…いやや!いややぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 邪魔だと言いたげにハイオークはタマキの服に手を伸ばして引き裂き、タマキは大きく悲鳴を上げた。

 その瞬間だった。


「――――オイ」


『………ピグ?』


 後ろからハイオークの股座またぐらに上反りの鉤爪が突き刺さっていたのは。


『ピッ…ピッッギャァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』


「……へ?」


 堪らずハイオークはタマキから飛び退き、股を押さえてのたうつ。

 涙と鼻水に塗れたタマキは呆然としてその様を見ていた。

 そして鉤爪を突き刺した張本人………赤月静也は冷たい目でハイオークを見ている。

 その右膝に着いた、膝当ての鉤爪からはオークの青い体液が滴っているが、静也は一切気にせずハイオークへ言葉を吐く。


「知ってるか?畜産農家じゃ、発情した(サカリのついた)雄ブタは去勢しちまうんだとよ」


『ピギュッ…ピギギ…!』


 ハイオークは静也を睨み付けているが、言っている事自体を理解しているワケでは無いようだ。

 ただ己の雄としての象徴を破壊された怒りのみに支配されている。

 その様子でハイオークの意識が自分に向いた事を把握した静也は、羽織っていたマントを脱いでタマキの肩に掛ける。


「し、静也はん…」


「気にすんな。それ着てろ」


 タマキへ背を向けてそう口にすると、静也は前に出てハイオークと対峙する。

 左半身になって脇を締めて両手を出し、拳を握って左膝を上げる。

 一般的なボクシングスタイルとは若干異なった構え。

 その構えをタマキは知るべくもないが、リラオード(地球)の国、タイに伝わる古式武術、『ムエタイ』の構えであった。


「来いや。去勢の次は潰して挽き肉(ミンチ)だ、ブタァ」


『ピギ…ピギィィィィィィィィィィッッッ!!!』


 指を立ててくいくいと寄せた静也を見て、挑発されたと知ったハイオークは股から青い血を滴らせながら大剣を振り上げ、静也へと突進する。

 同時に静也も弾かれるように前に飛び出した。

 静也が自分の間合いに入ると、ハイオークは真上から脳天目掛けて大剣を振り下ろす。

 対する静也は右足を踏み込み、更に前に出た(・・・・・・)

 その行動にハイオークはぎょっとする。

 正確には、大剣を通り過ぎて自らの眼前に迫ったその速度に。

 そしてハイオークの一撃は空を切り、けたたましい音と共に大剣は地面を穿った。

 常人離れしたスピードでハイオークの懐に潜り込んだ静也は再び右膝を股座へ突き刺した。


『ピグギャァァァァ!?』


 堪らず剣から手を離して両膝を突き、股を押さえるハイオーク。


「吠えてんなよブタ」


 それに構わず、静也はハイオークの豚耳を両手で掴んで左膝で跳び膝蹴りを叩き込んだ。

 静也の蹴りはハイオークの顔面を砕き、掴まれた両耳を引き千切ってハイオークを後方へ吹き飛ばす。

 鉤爪が下向きに付いていた左膝の膝蹴り故に穴こそ穿たなかったものの、両耳を千切り取られた上に鼻骨も粉々にされたハイオークは痛みにうつ伏せて情けない鳴き声を上げる。


「何泣いてやがる。女ァ犯す糞溜めが」


 冷めた目で静也はハイオークにそう吐き捨てると、両足に力を込め、まっすぐに跳躍した。

 身体を捻って前宙し、左膝に着いた下向きの鉤爪をハイオークの左肩甲骨へ穿つ。

 ハイオークが悲鳴を上げたが静也はそれに無反応を示して二の腕に右膝の鉤爪を突き刺し、左膝を伸ばして右膝を一気に上げた。


『ピググギャァァァァァアアアアアァアアァアアァァアッッッッッ!!!』


 ハイオークの悲鳴が洞窟内に響く。

 鉤爪に固定されたハイオークの左腕が、肩口から肉と骨ごとねじ切られていた。


豚足とんそく一丁上がりだ。次は右行くぞ」


 左手で頭皮ごとハイオークの脳天を引っ掴み、静也は抵抗すら許されないハイオークの背後に回る。

 その場を跳躍して右肩に左の鉤爪を突き刺し、二の腕に右の鉤爪を突き刺す。

 同じ要領で右腕を千切り取ると再び悲鳴が上がった。

 静也が掴んでいた脳天を離すと、ハイオークは力無くうつ伏せに倒れた。

 青い返り血を浴びながら静也はまだ息のあるハイオークの頭側に立つ。

 右手で再び脳天を掴みあげ、自分の胸辺りの高さまで持ち上げると、左拳を握り込んだ。


「………シッ」


 歯の隙間から息を吐き出すと同時に右手を離し、左ジャブを叩き込む。

 顔面だけでなく、腹や胸も吹き飛ばない程度に執拗に、何度も、何度も。

 そうして内蔵がズタズタになり、アバラも全てへし折った後、静也はハイオークの両肩を両手で掴み上げる。

 そして右足を後ろに引いた。


『ピ…ギィ…』


「ブタの粗挽き肉(ミンチ)の出来上がりだ」


 そう呟いた静也の右膝の鉤爪が正確にハイオークの口内を穿ち、ハイオークの胴体と頭部が引き千切られた。

 静也は突き刺さったハイオークの首級を引き抜いて胴体に放り捨てると、タマキへ目を向ける。


「タマキ」


「……ッ!はっ…はい!」


 声を掛けられたタマキは青ざめた顔で静也に返事をする。

 ハイオークへの恐怖とそれを殺めた静也への感謝と動揺とで、表情がぐちゃぐちゃであった。

 じっとこちらを見つめる静也にタマキは息を呑む。


「……俺らの担任は誰だ?」


「はへ?」


 そして静也の問いに呆けてしまった。


「答えてくれ。俺らの担任は?」


「……あ…レイン先生、どす」


 数秒の思考の後、はぐれる前に静也が叫んだ事を思い出したタマキは問いに答える。


「じゃあ万有引力の発見者は?」


「……アイザック・ニュートン…でしたっけ?」


「太陽系の惑星」


「水金地火木土天海どす」


「うん、俺の授業はちゃんと聞いてたか」


 後半の問2つは静也がタマキ達に教えた内容の一部だ。

 はぐれる直前に静也は咄嗟の判断でその内容を『合言葉』にしていた。

 もしかしたら敵対する人物が自分達の誰かになりすますかもしれないと考慮しての措置だ。

 そしてそれにすらすらと答えたタマキは紛れもない本物だ。


「よし、取り敢えず一人と合流………」


 安心した静也はため息をついた直後、みるみる顔が青く染まる。


「……静也はん?どないしはったんどすか?」


「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………うっぷ」


 恐る恐るタマキが声を掛けると静也は顔を背け、


「おぼろろろろろろろ………」


「え、ええぇっ!?」


 膝をついてその場で嘔吐した。

 静也の唐突な変化にタマキは驚きつつ駆け寄った。






「………オエップ…ゲホゲホッ」


 吐瀉物を撒き散らした静也はタマキに背をさすられている。


「だ、大丈夫どすか?」


「うっぷ…もう、大丈夫…」


 少しえづいた後に静也は顔を上げ、タマキに疲れたような笑みを向けた。

 吐溜はきだめから少し離れた石壁に座り込み、下ろしたバックパックから水筒を出して水を空の胃袋に流し込む。


「災難だったな。あんなブタに穢されかけて」


「い、いいえぇ!静也はんが助けてくれはったから大丈夫どす!」


 静也の言葉にタマキは手を振る。


「……ほんまに助かりました。おおきに」


「いんや、どういたしまして」


 まだ顔色が少し悪いが、静也は明るい表情でタマキの礼に応えた。


「それにしても、いきなり吐くなんて、どないしはったんですか?」


「…………ああ」


 タマキの問い掛けに静也は、目を細めてハイオークの死骸を見る。


「虫程度なら潰したことがあるけど、血の通った生き物を殺したのは、初めてなんだよ」


 両手で目を覆って吐き出すように呟いた。

 このゼブオードで超人的な身体能力を持ち、広い知識を持つ静也だが、リラオードではただのいち高校生だったのだ。

 その少年が生き物を殺めることに抵抗を示さないか。

 答えは否である。

 あくまでも静也は普通の人間、しかも平和な国で暮らしてきた者だ。

 そんな静也がモンスターとは言えいきなり生き物を殺めたのだ、平静でいられるはずがない。


「さっきはキレた勢いで動けたけど、冷静になると殺した感覚を思い出して気持ち悪くなっちまった」


「…………静也はん」


 頭を垂れた静也をタマキは悲しそうに見つめ、正面から彼を抱きしめた。


「………タマキ?」


「ウチはこの世界で生まれ育ったから、静也はんの葛藤は分かりません。せやけど、静也はんはウチを助けてくれはりました」


 服が破れて肌蹴た柔らかい胸に静也の顔が埋まっているが、タマキは気にする素振りも見せずに言葉を続ける。


「何かを殺めるのは確かに辛いと思います。場合によっては罪にもなります。せやけど、静也はんはヒトの生命を救った。それでおあいこにならへんどすか?」


「………ならねぇよ」


 滅茶苦茶な論理に静也は苦笑しながら顔を離す。

 少し血色が良くなった顔をタマキへと向けた。


「でも、ちょっと楽になった。ありがとな」


「いいえ」


 静也が笑うとタマキも笑う。

 そして二人は合流の為の算段を立て始めた。







「…………そういやタマキ」


「なんどすか?」


「服肌蹴てんのにああいうことするなんて、意外と大胆だな」


「―――――~~~~ッ!!静也はんのアホッ!えっち!!」


 この後静也が頬を引っ叩かれたのは言うまでもない。

静也のムエタイは入門書を読んで反芻しただけの素人の付け焼き刃です。

某少年誌の某石○博也さんに弟子入りしたわけじゃありません。

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