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Act15:いざ出陣

えいえいおー。

勝鬨なんてあげません。

剥き身のミカンも出てきません。

 静也の実験から二週間後、武研科研究室。


「こんにちはー」


「ああん?……おーう、お前さんか静也坊!」


 静也(猫かぶりモード)はグラールを訪ねていた。

 少年の姿を見止めたグラールは手を挙げる。

 どこかワクワクとした表情の静也は、少し速い足取りでグラールに歩み寄った。


「レイン先生からグラールさんが呼んでるって聞いたんですけど、もしかして…」


「おおよ、出来てるぜ!」


 同じくワクワクした様子のグラールが掛けていた椅子から立ち上がり、傍にあった鉄箱を漁る。

 そして何かが入った革袋を取り出すと静也に投げ渡した。


「ほらよぅ」


「ぉおっと。……意外と重いですね」


「カッカッカッ!そいつを『意外と重い』で片付けられるんなら大したもんだ!」


 グラールは髭を撫でながらカラカラと笑う。

 静也は首を傾げながら袋の中身を取り出した。


「………おぉ…」


 静也の口から思わず感嘆の声が漏れる。

 中に入っていたのは静也が依頼した防具一式だった。


「ほぅれ、そいつを着けてみろぃ」


「え、今ですか?」


 唐突なグラールの提案に静也はきょとんとする。


「実際に着けてみて手直しするのは当然だろうが」


「ああ、そういうこと」


 グラールの言った理由に納得し、静也も同意した。





「こんな具合ですか?」


「ほっほーう。似合うじゃねぇか」


「着せられてる感丸出しですがね」


 グラールの褒め言葉に苦笑を返す。

 静也は体操着の上から防具を纏っていた。

 右脚には上向きの鉤爪が付いた膝当てと脛の前面を足首まで覆った脛当て、左脚も同様だが膝当てには下向きの鉤爪が付いている。

 胴にはミスリル繊維の帷子をインナーの下に身に着けている。

 グラールの技術の賜物か、着用している静也は全く違和感を感じなかった。

 左腕には肘まで覆った革の下地に金属の装甲が付いた籠手ガントレットを着けている。

 グラールは最初、騎士籠手ナイトガントレットを製造しようとしたが、静也の希望でグローブタイプのそれを作られていた。

 そして右腕のガントレットも左腕とほぼ同デザインだが、唯一右手甲部分に特徴があった。

 甲に円柱形の金属を取り付け、そこから伸びる細いパイプが拳頭に取り付けられた金属板に空けられている、4つの穴と繋がっている。

 そして円柱形の手首側にはハンマーの様な形の金属片が付けられている。


「静也坊よぅ、どうだ?」


 初めて作ったものがちゃんと動作するか不安なのか、グラールはおずおずと静也に問いかける。

 その様子に静也はカチャカチャと右籠手のギミックを弄くり、


「…………うん、最高ですよ、グラールさん!」


 朗らかな笑顔で絶賛した。

 その言葉を受けてグラールは髭に隠れた唇を吊り上げる。


「そうか!最高かぁ!」






「……しかし、この防具、俺でも少し重いって事は相当重いですよね?」


 腕を上げ、右手をぐっぱぐっぱしながら静也はグラールへ問いかける。

 静也の体感的に籠手一つ取っても5~6㎏程度に感じる事を鑑みると、籠手一つでも40㎏近くはある。

 脛当ても同様なので全体的な重量は150㎏前後は下らない。

 確かに金属製ではあるがこれは明らかに重すぎではないか。


「材質はなんですか?タングステン?」


「その…た、たんぐすてん?ってのがなんなのかは知らんが…裏地にはドラゴンの革、装甲にはアダマンタイトとヒヒイロカネの合金を使ってる。どっちも頑丈で熱に強いからな」


 「どっちもとんでもなく重いけどなぁ!」とグラールはカラカラと笑った。


「(またしてもトンデモファンタジー金属かよ…)」


 リラオード(地球)の常識が音を立てて崩壊していく静也であった。

 そんな時、静也はグラールの言葉に引っ掛かるものがあるのに気付く。


「……って、ドラゴンの革にアダマンタイトにヒヒイロカネって…滅茶苦茶高価なんじゃないですか?」


 グラールが材料としたものはリラオードでもお伽話などで伝説とされる希少な物だったはずだ。

 ゼブオードとリラオードがある程度交流を持っていたのならその価値観も同様のものだと思われる。


「おおよ、儂が持つ最高の素材と最高の技術の結晶だ」


「………うわー…」


 胸を張るグラールに静也は申し訳ない気持ちで一杯になる。

 確かに実用性を考慮したこの装備だが、実は右籠手は半分道楽で考案したものだ。

 普通に考えてこの右籠手は機能したとして、使い物にならない。

 正確には、『誰も使いこなせない』。

 これを使用した際の反動が大きすぎるのだ。

 使えるとすれば、ゼブオードで常人離れした身体能力を持つ静也のみ。


「す、すみません、こんなダメ装備を作らせるために…」


「なーに言ってやがる!儂らに取って使えんのはその右籠手だけだ。ほかの構想…特に装甲の構造に関しては儂らゼブオード人にも有益だから十分だぜぃ!」


 謝る静也を豪快に笑うグラール。

 会って数日だが気持ちの良い御仁だと再認識させられた。


「おっと…そういや、こいつも渡さねぇとな」


 そう言ってグラールは鉄箱からもう一つ袋を取り出し、作業机に置いた。がちゃりという音から箱状のものが複数個入っているのが判る。

 静也が中身を確認すると中には縦30㎝、横5㎝、厚さ5㎝程の箱が結構な数を重ねてあった。


「おぉー…中身も?」


「おう、勿論全部詰めてある。ちゃんと衝撃を和らげる布で保護してあるぜぃ」


「ありがとうございます」


 静也は頭を下げてグラールに礼を述べ、研究室を後にした。






 翌日、一特科教室。

 この日のホームルームはレイン主導の下に迷宮攻略の講習会が開かれていた。


「唐突な話だが、今回の迷宮攻略は三科との合同授業となった」


「…………」


 レインの言葉が本当に唐突だったため、皆唖然としている。

 静也も普段は半眼の三白眼を見開いていた。


「な、なんでやセンセ!?なんであたしらが三科なんぞと合同授業受けなあかんねん!?」


 レインの発表に真っ先に噛み付いたのはナナセ。

 ギルベルトへの反発心は静也も知るところなので彼女の憤りは理解できた。

 そしてナナセの言葉に同調する生徒達も一人、また一人とブーイングを飛ばす。


「落ち着きなさい。気持ちはよくわかるから」


 レインが両こめかみに右手の親指と人差し指を当てて皆に言い放つ。

 そしてちらりと静也を見た。


「…………あー…あーあー…そういうことッスか…」


 その視線の意味を『一ヶ月前に三科のギルベルトと模擬戦をした』静也は理解した。


「向こうの担任がケンカ売ってきたんスね?」


 三科担任の老魔法使い、フィール・ガープの姿を思い出しながらレインに問うた。

 あの老人は重度のエリート志向で一特科の生徒をあからさまに見下している。

 そのフィールに取って秘蔵っこのギルベルトが、『落ちこぼれ』のクラスに所属する『魔力すら持たないクズ』の静也に敗北したとあっては面白い話ではないだろう。


手前テメーの生徒の優秀さを目の前で見せ付けて、こっちを貶めようって魂胆でしょ?」


「………うむ、そういうことだ」


 レインは少し低い声で答える。

 その反応に静也はため息をついた。


「………で、普段は拒否する所を、可愛い生徒を貶める様な挑発に乗ってしまったと」


「……………むぅ」


 静也の言葉にぎょっとする生徒達。肩を落とすレイン。


「大方『うちのギルベルトと試合前に取引した』だの『ギルベルトが脅されてわざと負けた』だの『勇者を抱き込んで何を企んでる』だの言われたんでしょ?」


「…………………ぐぬぅ」


 レインは更に肩を落とす。


「考え無しか。アホか。つーかアホか。どんだけ自分の生徒大事なんだ。つーか大事ならそんな安い挑発に乗んなや」


「……………………………ぐむむぅ」


 猫かぶりを一時的にやめて罵倒を飛ばす。


「あんたがそんなだから俺らも『天才教師の笠に着るダメクラス』なんて言われんだよ。その辺分かってんの?過保護も大概にしとけよ、なあ…」


「静也様、静也様」


「あ?」


 言葉を遮られて静也はアリアを見る。


「その辺りでやめてあげてください。レイン先生が自責の念で押し潰れそうです…」


「あ?…………げ」


「………………ぐすん」


 静也がアリアからレインに視線を戻すと、教室の隅っこで体育座りでうずくまり、床に鼠を描くレインの姿があった。


「あー…先生?」


「………ふっぐぅ…だってみんなが馬鹿にされて我慢できなかったんだもん…許せなかったんだもん…それを静也は意地悪言うなんて…いいもんいいもん…どうせわたしはダメ教師だもん…」


 218歳(いいおとな)がマジ泣きしていた。

 その様に静也は再びため息をつく。


「………………めんどくせー」


 この後静也達一特科全員の励ましでレインは復活し、どうにかこうにか事なきを得た。






 昼休み、一特科教室。


「し、静也くん、わたしとパーティ…」


「悪い、俺はアリアさん達と組むから」


「そ、そう…」


 何人目かの生徒のパーティ勧誘を断って、コキンと首を鳴らす。

 模擬戦後の状況再び、だ。


「……中途半端に一枠空いてるのがマズいのかね」


 眉間にしわを寄せながら腕を組み、静也は考える。

 今回の迷宮攻略には最大6人一組のパーティで臨む事となるが、静也達のパーティは静也、アリア、ナナセ、タマキ、サクラの5人までしか決まっていなかった。

 あと一人は誰にするかが問題だが、適当な穴埋めでは碌な結果を産まないことが目に見えている。

 それにどんな魔法を使うのか摺り合わせが不十分な為、静也としては五人で十分な気もした。

 アリアとナナセは水系統、タマキは炎系統、サクラは大地系統の魔法使いということを鑑み、必要な人員を考えると…、


「……せめて風系統か雷系統が居りゃ、話は変わってくるんだが…」


 そう言って静也は前方に居る突っ伏したオレンジ髪に目を向けた。


「Zzz…」


 七賢人の一人にして風系統魔法使いのハーピー少女、ウィグ・トラボルト。

 彼女が加入してくれれば戦略が広がるのだろうが…。


「やめときや」


 どうやってウィグをパーティに引き込むか考えていた静也をナナセが止めた。

 その目は呆れと諦めが見て取れる。


「やめとけってなんで?ウィグ一人居りゃバランスも良くなるぞ?」


「アカンアカン。あいつは下手するとギルベルト以上の癖者くせもんや」


 そう言ってナナセはかぶりを振る。


「……なんで?」


「アタマ良すぎんねん。自分で考えた戦略をみんながみんな把握出来とると思っとる」


 「協調性無いやっちゃな」とナナセは肩をすくめた。

 「ふーん」と鼻を鳴らして静也は再び考える。


「……………ん?」


 そしてナナセの言葉からふと思い付いた。


「なあナナセ」


「なんや?なんか他に妙案あるんか?」


「合同授業って事は、パーティメンバーは一特科の生徒じゃなくてもいいんだよな?」


「え?そらわざわざ合同にするんやから問題あらへんやろうけど…三科のひねくれ共があたしらと協調するなんて………………まさか?」


「そ・の・ま・さ・か」


 ナナセの思い至った可能性を肯定するように静也がニヤリと口角を吊り上げた。







 昼休み、三系統魔法科教室。


「つーわけだ。お前俺らのパーティに入れ」


「……………来て早々『つーわけだ』なんて言われても困るんだけどねぇ。赤月くん?」


 静也の勧誘にギルベルト・ベン・ビルブレストは、口端をひくつかせながら肩をすくめる。

 周りにはぐるりと輪を作った生徒達が興味深そうに二人を見つめていた。

 先程まではギルベルトが取り巻き(ファン)を侍らせていたが、教室の扉を乱暴に開けて真っ先に彼に近付き、三白眼を光らせて「散れ」と一言放った静也を見て一斉に逃げてしまっていた。


「………第一、何故ボクが一特科のパーティに入らなければならないんだい?」


「俺のトコのパーティは三系統しか揃ってねーんだわ。そこに雷系統+オマケ2つのお前が入りゃバランス取れるかなーと」


「それとボクがキミのパーティに入ることと一切関係無いよね?あとボクの価値を雷系統以外に見出してないの?ケンカ売ってるの?」


 あまりの暴論にギルベルトは額に青筋を立てる。

 しかし、静也はギルベルトが『本気で怒っていない』のを看破していた。


「そう言うなって。またリラオード(あっち)の技術教えてやっから」


「本当かいっ!?」


 その一言でギルベルトは表情を明るくし、静也へ身を乗り出す。


 あの模擬戦以来ギルベルトは『科学』へ興味を持つようになった。

 自分の魔法をあっさりと破った科学。

 プライドが前に出ている印象のギルベルトだが、ビルブレスト家が元々研究者気質な一族なのもあってギルベルトは静也の知る技術にいたく感銘を受けたらしい。

 なので静也が暇を見つけては物理や化学をギルベルトに教授していた。

 アリア達も一緒だったがナナセとのいがみ合いを除いて、静也は大して険悪な雰囲気は感じていない。

 また棚から牡丹餅というか怪我の功名というか、アリア達と一緒に静也の講義を受ける内に一特科の事を『一芸科』と呼んだり、落ちこぼれ扱いすることも無くなった。

 静也の講義を自分と同じくらいの速度で理解していったのを見て評価を改めたようだ。

 ………相変わらず亜種デミ嫌いなので表面上は反目しているが。

 それでも軽い皮肉は言えど、静也と初めて会った時ほどの悪辣さは無くなった。

 ――――思ってたほど悪い奴じゃねーな、こいつ。

 静也が初めに抱いた悪感情もその内消え失せていた。

 一ヶ月経った今ではツッコミツッコまれの間柄である。


「で、来る?来ねぇ?どっち?」


「………仕方ない。分かったよ」


 やれやれといった風にギルベルトは肩をすくめるが、口元がにやけている。

 静也の授業がよっぽど嬉しいらしい。

 こうしてギルベルトの静也パーティ入りが決定した。







「はーい、という訳で新メンバーのギルベルトくんでーす」


「やっぱりかい!!」


 一特科教室。

 ユルいノリでギルベルトを連れてきた静也にナナセが全力ではたいてツッコンだ。


「んだよー、折角連れてきたのに…」


 はたかれた頭をさすりながら静也は目を細める。


「やかましわ!なんでよりによってこのモヤシやねん!!」


「おい生臭なまぐさ、誰がモヤシだ誰が」


「お前やモヤシ!」


「言ったな生臭ァ!」


 ガルルル、と二匹のケモノが威嚇しあっているが、いつものことなので静也は無視し、アリア達に向き直る。


「あっちで吠えてる魚類ナナセはほっとくとして、みんなは異論無い?」


「わたしは静也様の意向を尊重します」


「………アリアさんの意思は?」


 静也が問いかけるが、アリアは何も答えない。

 完全に静也に任せる方針のようだ。

 その様子に静也は眉根を寄せながらもタマキ達を見る。


「タマキ達は反対?賛成?」


「ウチは特に反対はしまへんけど…」


 そう言ってタマキはサクラを見る。

 視線の先に居たサクラは猫耳を畳んで俯いていた。

 二股の尻尾も同様に垂れ下がっている。


「(またか…)」


 サクラの人見知りはかなりひどい。

 特にギルベルトへのそれは恐怖心すら感じるレベルだ。

 しかし、静也はそこに違和感を覚えていた。

 理由は、ギルベルトはギルベルトでサクラの事を(・・・・・)敢えて無視している(・・・・・・・・・)から。


「サクラは?嫌ならいいけど?」


「………………いえ、大丈夫です…」


「……そうかい」


 先送りにする訳では無いが、下手に掘り下げて訊くとチームワークに支障をきたすかも知れないので、静也はこれ以上の追求は止めておいた。

 いつかはそれを解決する腹積もりではあるが、それが今では無いという判断である。


「…おっしゃ、ギルベルト加えての急造チームだけど、6人揃った」


 ぱしんと両頬を叩いて気合を入れる。

 静也は威嚇しあっているケモノ二匹(ナナセとギルベルト)を引き離し、全員の能力を訊いていった。








 一週間後。

 一特科生と三科生達は担任達の引率の下、イグドラシルの根本にある転移ゲートターミナルと呼ばれる施設に集合していた。

 ドーム型の建物に入ってすぐ広い空間が広がっており、円形に囲われた壁には複数の開かれた扉があった。

 扉の向こうの景色は一切見えず、内部から青い光が淡く輝いている。


「……では、これから迷宮攻略にあたっての注意点を説明していく」


 生徒達の正面に立ってレインが口を開いた。

 隣には同じく教員用のマントを羽織った初老の男性が立っている。


「……一つ、迷宮内ではパーティ全員が常に一帯となって行動すること。二つ、迷宮崩落の可能性を考慮し、大規模な魔法は使用しないこと」


 長く伸ばした白髪白髭、厳つい顔立ちの三科担任、フィール・ガープはレインより一歩前に出て彼女の言葉を引き継いだ。

 フィールは言葉を続ける。


「そして三つ、迷宮内では常に冷静に、最適な判断を下すことだ。我々もお前達に危険が迫ってもすぐに行動を起こせるとは限らん。常に自分の身は自分で守ることを心掛けろ。……死にたくなければな」


 その言葉に生徒達はごくりと息を呑んだ。

 『死にたくなければな』。

 この言葉で、迷宮攻略が死と隣合わせという意味だと皆理解した。


「では、ひと組ずつ扉の中へ入りなさい」


 レインの言葉を受けて生徒達が列を作って前に出る。

 フィールの忠告に皆緊張した面持ちだが、レインもフィールも一組一組に応援の言葉を掛けている。

 静也がよくよく聞いてみると、フィールは三科のパーティにあからさまな贔屓目が見て取れた。

 そうこうしているうちに静也達のパーティが扉の前に立った。


「んーじゃ、行きますかね」


「うん、頑張れ」


 いつも通りのユルい態度の静也にレインが激励を掛ける。

 三科担任のフィールもギルベルトに言葉を掛けていた。


「ギルベルトよ。お前の力を奴らに知らしめてやるといい」


「…ええ、分かりました。先生」


 ギルベルトが静かな返答をすると、フィールは蔑むように静也を見る。


「……さて、お手並み拝見ですな。『勇者殿』?」


「……あーあーはいはい。精々俺はギルベルトの引き立て役に徹しますよ」


 静也がお座成りに手を挙げると、フィールはあからさまに舌打ちした。

 してやったりという風に静也は舌を出し、全員が扉へと足を運ぶ。

 そして扉の中に足を入れる瞬間、先程まで青かった光が毒々しいまでの赤に染まった。


「……!?」


「静也っ!?」


「静也様!?」


 その赤光しゃっこうを危険なモノだと即断したレインが手を伸ばすが手は届かず、既に進んだ足は止まらない。

 否、踏み込んだ瞬間に静也の身体が赤光に飲み込まれ始めていた。

 咄嗟にアリアが右手で静也の腕を掴み、赤光へ吸い込まれる。


「アリアッ!」


「ナナセちゃん!」


 左手でタマキの腕を掴んだナナセがアリアの左腕を掴んだ。

 そのタマキもサクラの腕を、サクラも既にギルベルトの手を握っている。

 ナナセがアリアの腕を掴んだ瞬間、次々に皆が飲み込まれ、ギルベルトのマントの端が見えなくなった瞬間、扉が固く閉じられた。


「………なんて…ことだ…」


「…シチリカ、これはどういうことだ!!」


 フィールがレインに動揺しながら問いかけるが、レインの耳には届いていない。

 虚空に伸ばされた腕を力無く下ろし、レインは両膝を着いた。

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