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Act13:『赤月静也』の『武器』

まさか前の話を投稿した直後にブクマが一件増えるとは思いませんでした。

ありがとうございます

 実技授業の後、静也はレインに連れられて一特科等がある教室棟とは別の棟へとやって来ていた。

 その中にある一つの部屋の前に二人は立っている。


「どこですか、ここ?」


 左頬にもみじマークをこさえた静也はビンタを張った張本人、レインに質問を投げる。

 ちらほらと他の生徒が居るので敬語の猫かぶり状態である。

 そんな静也が可笑しいのか、レインは苦笑気味に静也の質問に答えた。


「ここは『武具研究科ぶぐけんきゅうか』、通称『武研科ぶけんか』の研究室の一つだ。ここは主に防具開発を主に行なっている」


「防具開発?」


 それを聞いて静也は首を傾げる。

 確かにレインの授業は厳しいが、彼女は静也の実力を正確に把握して手加減している。

 その上静也はリラオード人故に頑丈だ。

 だのに防具開発をするとは如何なものか。


「なんでですか?先生は加減してくれてるし、必要ないでしょ?」


「ははは、確かにな。わたしとの授業には必要ないだろう」


 だが、とレインは続ける。


「実技授業の中には『迷宮攻略』もカリキュラムとして組まれている。装備も何も無いのではみすみす殺されに行くようなものだぞ?」


「め、迷宮攻略って…」


 なんと物騒な、と静也は眉間にしわを寄せた。

 その様子にレインはにっこりと微笑む。


「大丈夫だ。適切な装備でのぞめば問題無い迷宮を厳選しているし、不慮の事態にも対処できるように教師陣が外部から常に監督している。その上で実戦に慣れるように授業を組み込んでいるのさ」


「成る程…」


 レインの説明を受けて取り敢えず納得する。

 そして自分をここに連れてきた理由を静也は察した。


「つまり俺も迷宮攻略をしなきゃならない、と」


「そういうことだ」


 そう言ってレインは扉を開いた。







「失礼するよ」


「ああん?……おーう、レインの嬢ちゃんか!」


 中に居たのは幾人かの生徒と、その監督をしていると思われるドワーフの男だった。

 ずんぐりむっくりでぼうぼうの髭をたくわえた男はレインを見止めると嬉しそうに手を挙げる。


「グラール殿…一応わたしは嬢ちゃんなどという年齢では無いのですが…」


「カッカッカッ!儂に取っちゃ20歳も200歳も大して変わりゃしねえよ!」


「大分変わります…」


 呆れを含んだレインのため息に、グラールと呼ばれたドワーフはゲラゲラと笑った。


「……って、200歳?」


「わたしの年齢だ。正確には218歳だが」


「………マジすか」


 エルフは長生きという伝承の正しさを意外な形で知った静也だった。

 その会話で静也に気付いたドワーフは興味深そうに彼を見る。


「おお?その小僧はどこのどいつだ?お前のオトコか?」


「いきなり何を言い出しますか。この子はリラオードから来た生徒です」


「………赤月静也です。よろしくお願いします」


 唐突にとんでもない事を宣ったグラールに、レインは然程気にした様子もなく静也を紹介した。

 逆に内心ものすごく動揺した静也だが、なんとか表に出さずに自己紹介する。


「リラオード…ってこたァ、おめぇが今代の勇者か。儂ぁグラール・ゼンガーだ、よろしくな」


 そう言ってグラール・ゼンガーは右手を差し出す。


「どうも。…勇者って呼ぶのは勘弁して下さい。あんまりいい気分しないんで」


 渋い顔でその手を握る。

 静也の言葉にグラールはニヤリと笑った。


「ほっほーう。たかが称号なのにこだわるじゃねぇか」


「色々とあるんですよ」


 そう言って静也は手を離した。

 そしてレインに向き直る。


「で、レイン先生。防具を用意するためってのは分かりますが、具体的にどうするんですか?」


「ああ、それに関してはグラール殿に依頼しようと思っていたんだ」


 レインの言葉にグラールは頷く。


「おおよ、嬢ちゃんのお気に入りだ、最高の防具を創ってやるぜぃ!」


 どうやらグラールはかなり気風の良い御仁らしい。

 レインとの仲がいいこともあってあっさりと防具作成の依頼を快諾した。


「で、だ。静也坊よ。どんな防具がいいとか希望はあるか?」


「なんスか静也坊て。…希望、ねえ」


 グラールの質問に考えこむ静也。

 そうして一分ほど経つと、考えが纏まったのか顔を上げた。


「一応構想はあります。けど…」


「なんでぇ?儂に創れねぇモンはそうそう無えぞ?」


 「強いて言えば初代勇者の神器くれぇか!」と冗談めかしてゲラゲラ笑っている。

 それに対して静也は難しい表情を崩さない。


「グラールさんの腕は信用してますよ。レイン先生が推すくらいですから」


「じゃあ何が気になるんだ?」


 グラールは訝しげに静也を見る。


「……取り敢えず、一晩時間を下さい。この構想はリラオードの技術なんで、口で説明しても分かりづらいと思います」


「ふーむ…良いだろう」


 静也の言葉にグラールは頷き、静也はついでに2,3質疑応答を済ませてレインと研究室を後にした。






 残りの授業を消化し、食堂で食事を摂った静也は自分の部屋に戻る。

 そして書斎に入ると寝室から持ってきた『俺ノート』数冊と真新しいノートを机に広げる。


「グラールさんとジュディアさんから聞いた話で、『材料』は大丈夫みたいだ。あとは…」


 独り言を呟きながら、新しい方のノートに何かを書き始める。

 静也の口にした『材料』の事を訊くと、グラールもジュディアも妙なものを見るような目で静也を見ていたが、彼自身然程気にしてはいなかった。

 確かにゼブオード人に取って、静也が欲しがったものは普通は欲しがらない様なものだったからだ。


「まあ、片や鉱物の不純物、片や汚物だもんなぁ…」


 苦笑しつつ静也は書くのをやめない。

 グラールから『武具を創る際に鉱石の精製から始める』と言っていたのを聞いてその中の『ある不純物』の事を、ジュディアからは『食材はイグドラシルの根本にある農場と牧場で自給自足している』と言っていたのを聞いて『堆肥は牧場の家畜の糞尿を利用している』事を聞いた。

 『不純物』はある程度纏めて廃棄しているが、まだ廃棄していないので残っている。

 牧場の糞尿は一度農場の端に積み上げ、それらを汲み取ってあとで土に混ぜ込むらしい。

 これらを聞いた静也は内心でガッツポーズした。


『あとはアレがあれば、自分の目的のものが作れる』


 ―――と。

 最後の一つに関しては全く問題がない。

 更にレインから話を聞くと、『対象の時間を加速させる魔法』もあるとのこと。

 正に願ったり叶ったりであった。


「『アレ』が作れりゃ、コイツも創れる」


「静也様ー、晩御飯ですよー」


「…お、はいはーい」


 伝声管からのアリアの声で静也は部屋を出る。

 机の上に残されたノートには、独特な形状をした『籠手』が描かれていた。






「………で、この籠手を創れってのか?」


「はい。他には脛当すねあてと帷子かたびらを一組。あと構造に関しても相談がありまして…」


 武研科研究室にて。

 静也は昨晩書き上げた防具構想をグラールに見せていた。


「ほう…手の甲側に付けてる部品、何かを入れる構造になってるな」


「ええ、この中にはこれを入れたいんです」


 そう言って静也は籠手のデザイン画の横に描かれたものを指さす。

 それを見たグラールは興味深そうに髭を撫でた。


「なんだ?こいつにも何かを入れる構造になってるじゃねぇか?」


「はい。こっちに関しては、昨日聞いたアレを材料にしたものを入れる予定です」


「ふむ……言いてぇこたァ分かった。それじゃ、材質はどうすんだ?」


 グラールの頷きに静也は話を続ける。


「材質は外側に『衝撃を吸収する柔軟な金属』、内側に『熱に強い頑丈な金属』を使って下さい。あとこの部分は『内側からの熱と衝撃に強い金属』でお願いします」


 その言葉にグラールは渋い顔をする。


「ぬう…そんな構造じゃ内側の金属が割れちまうぞ?そうなるとこの仕掛も歪んじまう」


「それに関しては考えがありまして、この2つの金属の合金を配合率を変えて十数層に分けて重ね合わせれば」


「ほう…ん?んんんんんん!?」


 静也の言葉を聞きながらグラールは目を見開いた。


「そうか!こうすることで外側からかかる衝撃からの抵抗力を上げてんのか!」


「その通りです。しかも多重層化することで断熱性も上がります。つまり…」


「「熱や衝撃による変形が最小限になる!」」


 二人の言葉が重なった。


「面白え!しかも実用的で新しい!静也坊、お前ぇさんすげえじゃねぇか!」


「いやいや、大した事はありませんよ。自分が持ってる知識を使っただけです。本当に凄いのはこれらを考えたリラオード(地球)の先人達ですよ」


 謙遜する静也だが、グラールはその言葉にニヤリと笑う。


「確かにそいつを考えたリラオードの先人達は凄えだろうさ。だがな、その知識を頭に入れてるお前ぇさんも十分に凄い。それを実際に使えることもな。そいつはお前の立派な『武器』だ」


「――――――――」


 グラールの言に静也は息を呑んだ。


 静也は常日頃から『知とは平等な財』という考えを持っている。

 一芸に秀でていなくても知識さえあれば何かの役に立つという持論があった。

 そしてその考えのもとに彼自身がかき集めた『知識』はゼブオードで立派な『武器』となっていたのだ。

 そうでなければギルベルトとの模擬戦で勝利をもぎ取る事など到底出来なかった。


 グラールに諭されて、その事実を赤月静也は漸く自覚した。


「……静也坊?どうした?」


「…い、いや、何でもない…です…」


 猫かぶりの仮面が剥げそうになるがなんとか持ちこたえる。


「そ、それじゃグラールさん、頼めますか?」


「勿論だ!むしろこいつを製作させてもらうことを儂の方から頼みたい!」


 ガハハと笑ってグラールは静也と握手した。

 静也もグラールの手を握り返し、話題を変える。


「で、グラールさん。例の物は?」


「おう、用意させてる」


 そう言ってグラールが研究室の男子生徒の一人に声を掛けると、ホビット族の彼を含む数人がは大きな革袋が大量に積まれた大八車を重そうに運んできた。

 臭いがキツいのか皆一様に顔をしかめている。


「うん、この臭い間違いない。ありがとうございます」


「おう、どうせ処分する予定だったから構いやしないが…なんでこんなもん欲しがるんだ?」


 訝しげにグラールは静也を見る。


「それは出来上がってのお楽しみって事で」


 嬉しそうに静也は笑った。

 静也は宝の山を見つけたような表情で生徒達から大八車の持ち手を受け取る。

 かなりの重量を積載した大八車をたった一人で平然と引く静也を見て驚く面々だが、静也は全く気にも留めずに自分の部屋へと帰っていった。



 後日、農場の隅にある肥溜めの土を積んで大八車を引いて行く静也を見たという情報が流れていた。

静也が作ろうとしているものがなんなのか、何となく察しが付く人もいると思います。

6世紀ごろから19世紀初頭まで使われていた『アレ』です。

技術革命上等。

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