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Act11:一週間後

 静也がウィジス学園に編入して一週間が経った。

 座学で魔法について学び、自分の部屋(というより家)でそのメカニズムを解明するという生活が続いている。


「しっかし…この世界の魔法ってのは、中途半端に条理と不条理が混ざってるな」


 書斎でノートに記述しながら静也はそう呟いた。

 というのも、ゼブオードの魔法は色々と現代科学では辻褄の合う点、合わない点が見られたからだ。


 まず、属性魔法には質量保存の法則が適用されていると思われる。

 「思われる」というのは静也が魔法理論を自分なりに解釈した故だ。

 属性魔法で消費する魔力は、主に環境に依存する。

 例えば、水場で用いる水魔法の消費魔力が1とすると、水のない所では10~20の魔力を消費するらしい。

 これに関しては「元からあるものを操る」と「一から創りだして操る」という違いから来ると思われる。

 水場で水魔法を使うならその場にある水を使えばいい。

 しかし水のない所では魔力そのものを水に変換しているらしいのだ。


「正にファンタジー。実に不条理。実に非論理的だなオイ」


 静也からすれば体内エネルギーを実体に出来る時点で意味がわからない。

 というか体内で出力できるエネルギーを生成できる事自体意味がわからない。


「しかも授業内容によると、『体力』を『魔力』に変換してるっぽいし。魔力ってなんなんだ?生体電流の余剰エネルギーを変換したものか?」


 本当に訳がわからない。

 それが授業を受けた静也の感想だった。


「………静也様ー。ご飯ですよー」


「ん?…ああ、はいはーい」


 うんうん唸っていた静也だが、部屋にある伝声管から掛けられたアリアの声で我に返る。

 どうやら考える内に日が昇っていた様だ。

 のんびりとした足取りで部屋から出て一階に降りると、エプロン姿のアリアがハムエッグやサラダなどをテーブルに並べていた。


「おはようアリアさん。いつも悪いね」


「いいえ、お気に…なさら…ず?」


 笑顔でアリアが振り向くと、その表情が固まった。


「ん?何?」


「は…ふわ…」


 そのまま顔を真っ赤にしてぱくぱくと口を動かし、


「な、なんで裸なんですかーーーーーっ!?」


「………あ」


 大声で静也が上半身裸なのを指摘した。


「ごめんごめん。昨日身体動かしてシャワー浴びてそのままだったわ」


「不潔ですっ!」


 アリアの一喝を背中に受け、苦笑しながら服を取りに戻る。

 この一週間、こんな調子で静也のいい加減な生活に度々アリアが介入していた。

 というのも、


『勇者様の身の回りのお世話は、召喚者であるわたしの役目ですっ!』


 とのこと。

 静也としては年頃の男女が一つ屋根の下というのも問題があるので、「じゃあ朝晩の食事の用意だけお願いします」という折衷案で事なきを得た。

 しかし結局はタダの口約束なので、アリアは空いた時間に掃除なんかもしているらしい。

 ……因みに静也は元々の自分の私室には絶対に入らないように固く約束させていたが。






「……うん、やっぱ美味い」


「ありがとうございます」


 出された朝食に舌鼓を打つ静也にアリアは嬉しそうに笑う。


「いやはや、アリアさんは料理させてよし、家事全般もひと通りこなせるし、いい嫁さんになりそうだね」


「そっ…そんなぁ、お嫁さんだなんて…」


「……………」


 照れているアリアに静也は困ったように苦笑した。

 しばし二人は食事に集中する。


「あ、そう言えば静也様」


「うん?どうしたの?」


 黙々と食べ進める二人だが、もうすぐ食べ終わるというところでアリアが口火を切った。


「お母様から聞いたんですが、今日から実技授業が組み込まれるそうです」


「実技授業って……ああ、魔法の?」


 難しい表情を浮かべるアリアを見て静也も得心がいく。


「まあ、魔法使えない俺が実技授業に出ても、意味ないわな」


 魔力がない静也に魔法は使えない。

 魔法が使えないなら実技授業でなんの実技も出来ない。

 そういうことである。


「で、そのことでトリシャ先生はなんか言ってた?」


「うーん…一応何か考えがあるそうですが…」


 目玉焼きの端っこをリスの様に囓るアリアの言葉は、どことなく歯切れが悪い。

 言って良いのか否か考えあぐねている、そんな感じだ。


「え?なに?危ない系?」


「………下手をすると、そういうたぐいのものかもしれません」


「(………え?冗談のつもりだったんだが?)」


 アリアが神妙な表情を見て、静也の不安が掻き立てられる。


「えーっと…トリシャ先生の考えが危ないと考える根拠は?」


「『わたしにいい考えがあるわ!』と言っていたお母様の顔が、イタズラを考えた時のそれでした」


 そう言ったアリアの目は剣呑としていた。

 静也にはそれが、実際にトリシャのイタズラの被害を被ったものだと理解できた。


「マジで?」


「まじです」


 わざわざ静也の語彙を用いての返事。しかも即答である。


「………せめて打ち身程度の怪我で済むといいなぁ」


「………が、頑張って下さい静也様!」


 遠い目をしている静也にアリアの声援が虚しく通り過ぎた。







「……ああ、遂にこの時間が来てしまった」


 教室にて、二限目直後。

 静也の席を中心にアリア、ナナセ、タマキ、サクラのいつものメンバーが集まっている。


「なんや?えらい憂鬱やな静也?」


「トリシャ先生がなにか良からぬことを企んでるらしい。実技授業の穴埋めだってさ」


 静也は額に手を当てて唸る。

 先行き不安です、と動作全てで体現していた。


「だいじょーぶやって。あんたは頭ええし、身体も強いんやから」


「元気だしておくれやす。静也はんならどない厳しくたってやり切れます」


「………頑張って下さい」


「………うん、サンキュー」


 ナナセ、タマキ、サクラの応援に静也も少し気を持ち直した。


「……うっし、悩んでたって仕方ねぇ。後は野となれ山となれだ!」


 そう言って静也が気合を入れなおした時、教室の扉が開く。


「静也、居るか?」


「ん?レイン先生?」


 ドアの隙間からひょっこりと首だけを突き出したのは鮮やか銀の長髪とそれに対比する様な褐色の肌、眼鏡の奥の赤い瞳に知性を湛えたダークエルフ、レイン・シチリカだった。

 彼女はこういった子供のような真似をすることが意外とある。

 恐らく無意識だと思われるが、そんな彼女だからこそ、五系統魔法使いという鬼才でありながら生徒達から絶大な信頼を寄せられている。

 初見では厳しそうな雰囲気があれど、いざ話してみれば取っ付き易い彼女の性格を静也も好ましく思っていた。

 そんなレインが静也の姿を見止めるとにっこりと微笑む。


「今日から実技授業の際は、わたしがお前の指導をすることになったのでな。第二体育館まで顔を出しなさい。

他の皆はわたしの代わりにアルギルから授業を受けるようになったので第一体育館に集合だ」


「げぇっ!アルギル先生かよっ!?」


 鼠の獣人族の男子生徒が悲鳴じみた声を挙げた。

 その様子に静也も「お気の毒に」と苦笑する。

 先程話しに出たアルギル先生――本名、アルギル・ライガーとは『武具研究科』の担任であり、無属性魔法の中でも身体付与を中心とした授業を受け持つ獣人族の教師だ。

 虎とライオンの獣人のハーフらしく、四系統魔法使いであり、静也とも比肩しうる強靭な肉体も持った豪傑である。

 リラオード(地球)の高重力下で育った静也と腕相撲をした結果ギリギリ静也の辛勝という、文字通りの怪物というのが静也の抱いた印象である。

 そんな経緯があるので敵に回すのは憚られると、苦手意識を持っていた静也だが、更に彼を苦手とする理由がもう2つ。


「………なんだぁ?オルェ(おれ)が担当じゃ不服だってぇのかぁ?」


「うぉ」


 噂をすれば影。

 レインを押しのける様に黒いマントに身を包んだ巨漢がドアをくぐって現れた。


「…アルギル。生徒を威圧するな」


「なぁに言ってやがるルェイィン(レイン)オルェ(おれ)いつガキ共を威圧したってんだぁ?」


 非難の目を向けるレインに対し、その男は不思議そうに首を傾げる。

 トラ模様でライオンの鬣を思わせる髪型に鋭い眼光。

 2mを優に超えるその身長。

 教員用マントの下には鋼のような筋肉の鎧。


「(……誰がどう見ても他者に威圧を与えてます)」


 静也は心の中で静かにツッコンだ。

 そう、アルギル・ライガー史はとてつもなく畏怖の念を与える容姿をしていたのだった。

 そしてもう一つの苦手意識の理由はその口調にある。


ホゥルェ(ほれ)、ガキ共なぁに呆けてやがるぅ。さっさと第一体育館に来いぃやぁ」


「(マジでこの人の喋り怖えよ。実は肉食獣が二足歩行と言語習得しただけなんじゃねーの?)」


 アルギルの独特な巻き舌と唸るような喋り方に静也も萎縮してしまう。

 身体の芯まで震わせるような野太い声なので静也はアルギルが苦手だったのだ。

 例えるなら、頭にヤが付く自由業。


オルェ(おれ)は先に行って待ってるぞぉ。遅るぇるなよぉ」


 のっしのっしと教室を後にするアルギル。

 生徒達はこの世の終わりだといった表情でその後を追っていった。


「静也様、頑張って下さい」


「はいよ」


 最後にもう一度アリアの声援を受けて静也はニカリと笑う。

 教室に残ったのは静也とレインの二人だけだ。


「…では、行こうか」


「はい」







「……うーん、ザ・スポーティ」


 第二体育館、更衣室にて。

 静也はレインに渡された『体操着』に着替えていた。

 しかし体操着と言っても静也がリラオードで着ていた物とかなり意匠が異なっている。


「いや、スポーティっつーか…ミリタリー?」


 下半身を覆うのは濃緑色でカーゴパンツより少し細めのズボン、金属板を挟み込んで型崩れ防止処理を施した黒い革ブーツ。

 上半身は黒いノースリーブのインナーとズボンと同じ生地のジャケットを渡されていたが動きづらいのか、静也はインナーだけを身に着けてジャケットは肩に掛けていた。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか…」


 ボサボサの黒髪を気だるげに掻きながらレインの待つコートに向かう。







「レイン先生ー、着きましたよ…?」


 静也がコートに顔を出すと、既にレインの用意はできていたらしい。

 彼女も静也と同じくミリタリー仕様の服装で彼を待っていた。


「ああ、来たか」


「(………わーお)」


 何か準備をしていたらしいレインが静也に向き直ると、静也は咄嗟に視線を逸らす。


「………どうした?何故こちらを見ない?」


「あー…いや、うん」


 泳ぎまくる静也の視線を怪訝に思い、追いかける様にレインは身体を揺らすが、静也はその度左右に逸らす。


「こらこら、人と話すときは目を見なさい」


「ああ、はい」


 レインが少し怒ったように諫めると、静也は諦めたように目を合わせ……ようとして視線が少し下がった。

 正確には、レインの胸に。


「(…………今までマントに隠れて気づかなんだが、なんという最終兵器リーサルウェポン…!)」


 一度視界に収めるとなかなか外せないレベルの凶器がそこにあった。

 静也と同デザインの黒いインナーで抑えただけの胸は、何ものも自分を阻むことはないとその大きさを主張している。

 それだけでも目に毒だというのに形も悪くない。

 腰の括れとの対比もあって、大多数が最高のプロポーションだと評価するだろう。

 そんな成熟した女性の身体を見せつけられているという状況は、16歳の静也に取って少々どころでなく刺激的なワケで。


「うん?………………ふむ」


 静也が自分の胸を見ていることに気付いたレインは何かを納得したように頷き、


「アリアにもこれを着せようか?」


「やめんかダメ教師ッ!」


 素っ頓狂な発言で静也にツッコまれた。

アルギル先生の声については某アイテム使うと怒ったりVとメロンが好きな人だったりオールハイルな人をモデルにしています。

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