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Act10:他者評価はなかなか覆らない

「そこまでっ!!勝者、赤月静也ッ!!」


 レインの声が体育館全体に響く。

 すると空間魔法により穴の空いていたリングがせり上がり、全身がミイラチックな静也とその足元に倒れ伏すギルベルトが現れた。


「あいあむなんばーわん」


 静也は人差し指を天に向けながら棒読みで勝利宣言する。

 しかし観衆の反応は沈黙のまま変化がない。


「………あれ、ハズした?」


 対する静也は「やべ、なんかマズかったか?……ッハッ!?もしやこの簡易耐電スーツが妙な威圧を!?」と明後日の方向に勘違いしている。


「あれー?なんでみんなノーリアク」


「す………すげぇぇぇぇぇ!!!!」


 首をひねって疑問を口にしようとした静也を遮るように、叫び声がひとつ上がる。

 それを皮切りに体育館全体が爆発的に湧きあがった。


「ギルベルトのライトニングフェニックスを食らって無傷ってヤバ過ぎるだろ!?」「しかもあれにつぎ込んだ魔力っていつもの数倍はあったぞ!?」「あの白い布で防御出来たのか…!」「しかも逆にギルベルトに攻撃を返してたしな!」「一体どんな魔法術式を…」


「(…こんな風にギャラリーが湧くのは悪くねーけど……うるせーな…)」


 確かにヤンヤヤンヤ言われたいと思ったがこれはちょっと違うなーと静也は思う。

 主に女子の黄色い歓声を聞きたかった様だが、


「(……顔面粉砕されてもモテ男はモテ男な。腹立つ)」


 足元で倒れるギルベルトに、ファンの女子生徒達が心配そうな声を上げていたのを見てため息をついた。

 アリア曰く、「確かにビルブレストくんは重度の亜種デミ嫌いですが、同族(人間)にはとても紳士的なので人気なんですよ」とのこと。

 典型的な差別主義者なギルベルトであった。


「静也様!」


「おお、アリアさん」


 頭部に巻いていた耐電布を外している静也に、アリアを始めとする昨日のメンバーが集まる。

 皆一様に驚きと歓喜が入り混じった表情だ。


「おめでとうございます!素晴らしい戦いでした!」


「いやいや、そんなヨイショされてもね。みんなの協力が無かったら一発目で終わってたし」


 大したこと無いと首をふる。


「方法自体思いついたんはあんたやんか!まっさかあんな方法でホンマにギルベルトに勝つなんてな!」


「ほんまどすなぁ」


「………」


「いや、別に俺が思いついたっつーより、リラオード(あっち)の知識を応用しただけで…」


「静也」


 囃し立てる皆の後ろからレインもやってきた。


「ああ、先生。昨日はご協力ありがとうございました。お陰でなんとかやれましたよ」


「わたしは頼まれたことをやっただけだ。作戦立案も実際に戦ったのも静也、お前自身の力だよ」


 そう言ってレインは静也に手を伸ばす。


「ッ」


「よくできました」


 そのまま静也の頭に手を乗せてくしゃくしゃと撫で付けた。

 因みにレインは静也よりも少し背が高い。


「……っはは、あんまり子供扱いされても恥ずかしいもんですね」


「おや、16,7程度は十分子供だろう?」


 静也が抵抗しないのをいいことにレインは頭を撫で続ける。


「背伸びしたい年頃なんです。………つーかいつまで撫で続けるつもりだ」


「おおっと、すまんすまん」


 そろそろ鬱陶しくなってきたので静也は睨みを効かせて強めに突っ込む。

 照れ隠しとバレているらしく、苦笑しながらレインは手をおろした。


「ったく…」


「ははは、そうむくれるな」


 若干機嫌を損ねてリングから降りた静也の背中を皆が追いかける。

 出入口付近で観衆の注目に気付いた静也がニヒルに笑って背中越しに手を挙げると、盛大な拍手に見送られた。

 ………因みにギルベルトは後ほど医務室に運ばれた。療魔法を用いても全治3日だそうだ。








 ギルベルトとの模擬戦から翌日。


「ねぇねぇ静也くん、お弁当作ってきたんだけど…」


「ああ、食堂で済ませるからいいよ」


 昼休みの教室にて、静也は何人目かの女生徒の誘いを即断する。

 断られたマーメイドの生徒はかなり残念そうに頭を垂れていた。


「………あー…面倒臭い」


「そないに邪険にせんと、一緒に食べはったらええやないですか?」


「やだよ面倒臭い。ああいう手合いは一回取り合うとしつこいから」


 食堂に向かう道中、タマキの意見に静也は明確な拒否を示す。

 眉間にしわを寄せて三白眼を細める様は、本当に嫌だという意図が正確に見て取れた。


「…実感味の篭った言い方ですね…」


「ああ、リラオード(地球)の学校の担任がそれだったし……ってだからなんでアリアさんは他の女が絡むと睨むの?」


「睨んでません。……その担任の先生が女性なのは否定しないんですね?」


 更にジトッとした視線を向けられ、静也は困ったようにため息をつく。


「………叔母だよ。母さんの妹。見た目が整ってるから生徒、教師問わずヤロー共に人気があってな、ものすげーお節介焼きなんだ」


 「お陰で周りの視線が痛いのなんのって」と静也。

その様子に皆は「ああ、美形の身内って苦労するんだなぁ」と同情するのだった。


「……にしても」


 廊下を歩きながらじろりと視線を他教室に移す。


「きゃー!こっち見たー!」


「…でも周りの女の子、みんな一芸科の連中よ?あんな女のどこがいいのかしら?」


 視線の先で黄色い悲鳴と嫉妬の声が上がった。

 今朝からずっとこの調子で静也としても辟易していた。


「……芸能人を一目見てキャーキャー言ってるミーハー女子と似たようなもんだって分かるけども……一体俺が何したよ?あのお坊ちゃんブッ飛ばしただけだぞ?」


その後(・・・)がマズかったんや。あんた、自分が何しでかしたかわかってへんな?」


 ナナセが呆れたように額に手を当て、ため息をつく。


「あ?何よ?」


「あんた、体育館出てく時にカッコつけたやろ。流し目で手ぇ上げて。このガッコにそう言うダーディな態度取る男は居らんから、その場におった女子のハートブチ抜いとんねん」


「………マジかよ…。いちいち調べるのも面倒だから周りの様子伺い程度に挑発したつもりだったのに」


 話を聞いて静也は天井を仰ぎ見て呻く。

 どうやら周囲に対する牽制のつもりだった様だが完全に逆効果だったようだ。


「表面上いい子ちゃんばっかりってめんどくせー」


「ははは、勇者補正も入っとんねやろ」


 他人事の様に(実際他人事だが)ナナセは静也の災難をケラケラ笑う。

 そんなナナセの態度に静也はもう一度うめき声を上げる。


「………けど、退屈はしなさそうだな」


 そして苦笑混じりに一言つぶやく。

 『普通の高校生(自称)』赤月静也の魔法学園での波乱の学生生活は幕を開けた。

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