表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/44

Act9:静也VSギルベルト

ようやくバトルが書ける…。

いや、バトルというか一方的な詰み将棋というか。

基本的に主人公はまともな戦い方はしません。

「……随分と待たせてくれたね。時間にルーズな男はモテないよ?」


「モテるつもりは無い。好きになった人は自分で口説かないと意味が無いからな」


 茶色い学校指定マントを纏った静也はそう言って肩をすくめる。

 フードで頭を包み、防塵用のマスクまで付けていたのでその格好はどこかお道化て見えた。


「ふん、どうやら君は揚げ足を取るのが好きらしいねぇ。その格好もこちらを馬鹿にしているのかな?」


「ッハ、テメー相手には必要なさそうだと思ったんだが、一応手の内を明かさない対策さ」


 そう言って静也はマントの隙間から黒い革手袋に包まれた手を出し、チッチと指を振って挑発する。

 不気味さと不快感を煽るその態度にギルベルトは口内で歯を軋ませた。


「………レイン先生、審判ならば早くフィールドをお願いします」


 ギルベルトは心の中の不安を払拭する様に言葉を吐いた。

 彼の内情など知る由もないレインはこくりとひとつ頷く。


「……では、今回のフィールドは……これだ」


 少し考えて頷くと、レインは指を鳴らす。


「うぉっ…!?」


「慌てる必要はないよ。レイン先生の空間魔法だからね」


 突如50m四方のリングの石畳が揺れ、床が地下に降りた。

 静也は僅かに体勢を崩し、ギルベルトは慌てる様子もなく平然としている。

 揺れは続き、静也とギルベルトを挟むように壁がせり上がり、周囲からもランダムに壁がいくつもせり上がった。

 そして揺れが完全に収まると、ひとつの巨大迷路の中に二人は閉じ込められた。


「『レプリカダンジョン』。わたしの行ったことのある迷宮を模したバトルフィールドだ。無論モンスターは居ないから存分に戦うといい。………因みに壁はドワーフの膂力で斧をぶつけても壊れない代物だ」


「うぉっ!?脳内にレイン先生の声がッ!?」


「落ち着け。ここはわたしの創った空間だからな。支配権はわたしにあるので、内部の人間とこうやって会話する事ができるんだよ。まあ会話なんかはかなりの修行を要するが」


「………ははは、流石虹の姫騎士(レインボウ)。サラッととんでもない事を…」


 今日の午前の授業で空間魔法についてたまたま聞いていた静也は乾いた笑いを漏らす。

 無属性魔法の担当教師曰く、空間魔法は長い修業の末に漸く会得する高位魔法で、その上空間内に入ることなく干渉することは相当難しいそうなのだ。


「(天才通り越してバケモンだな、あの人)」


 自分の担任のトンデモ具合を再確認して静也は内心ごちた。


「よし、そろそろ観客達も待ちくたびれているようなのでな。二人共準備は?」


「ボクはいつでも」


「俺も大丈夫ですよ」


 静也は頷き、壁の向こうに居るギルベルトも頷いたようだ。


「うむ、それでは………始めっ!!!」


 レインの凛とした声で模擬戦が始まった。







「……ふん、あの赤月ってヤツ、このボクが優しく諭してあげれば逆らいやがって…」


 体内で魔力を練りながらギルベルトは腹立たしげに呟く。

 ゼブオードでは魔法を使う際、『魔力を生成する』。

 日常生活でも自然に一定量の魔力が貯まるが、初級魔法を4,5発撃てばすぐに無くなる程度の量ではあるし、強力な魔法を使えば不発に終わる場合も多い。

 だが心臓を中心に体内を巡る魔力回路をコントロールすれば意図的に魔力を生成する事ができる。

 魔力は体内に保持し続けることができるが、生成した魔力が多すぎれば維持に相応の体力を消耗する。

 故に魔法使いは魔法を使う際には魔力を生成する事が重要なのである。


「だがまあいい。ヤツは魔力を持たないクズ。すぐにボクにひれ伏すだろう」


 ギルベルトは魔力を生成しながらどうやって静也を蹂躙しようかと考えていた。


「さて、レイン先生の創った迷宮だ。どうせあの男がここに来るまでにしばらく――――」


「――――オラァァァァァァァァ!!!!!!!」


「なぁっ!!!!????」


 魔力生成が終わった直後、ギルベルトの目の前の壁が砕けた。

 否、赤月静也が壁を蹴り砕いてギルベルトの目の前に現れた。






「よう、ギルベルト。さっきぶりだな」


「なっ…!?」


 目の前の出来事にギルベルトはあんぐりと口を開けている。

 先程レインがドワーフの膂力でも破壊不可と言っていた石壁。

 それを容易に破壊し、10m程の距離を取っている静也がまっすぐこちらを見据えていた。


「ハッハァ。確かに俺は魔法の使えないクズだ」


 先程のひとりごとが聞こえていたのか、静也はギルベルトを指さす。


「けどな、リラオードの人間はドワーフ以上の腕力持ってんだぜ?こんなモン、クッキー割るのと大して変わりねーよ」


 そう言って静也は中指だけを立ててギルベルトに向けた。


「……なんだそのジェスチャーは…」


「F××k you☆今朝は寝小便しなかったかBaby(お坊ちゃん)?」


 表情を見せられないので静也は明るい声でそう言った。

 あからさまな挑発を受けてギルベルトの額に血管が浮く。


「このクズがァッ!!!『いかづちの力よ、その翼を以って飛翔せよ!!雷魔法雷鳥閃撃サンダーウィズ・ライトニングバード』!!」


 ギルベルトが呪文を詠唱し、掌から火花を散らす球体が現れる。

 その球体が翼幅50㎝程の鳥の姿に変形し、静也へとまっすぐ突撃する。


「…ッ!?なんだと!?」


 しかし、ギルベルトの魔法は静也に届かない。

 雷鳥は突如進行方向を変えて壁に突っ込み、消滅した。


「ハハァッ、やっぱり初っ端から雷魔法か」


 既に静也はギルベルトの詠唱の間に対策を打っていた。

 マントの内側から何か棒状のものを取り出し、真横の壁に打ち立てていたのだ。

 それに雷鳥が引き寄せられ、静也に当たらなかったのである。


「くっ…お前何を!?」


「知ってるか?『雷』は『尖ったものに落ちる』んだぜ?電導率の高い金属なら尚更な」


 静也は壁に突き立てた物と同じものを取り出し、くるくると弄ぶ。


「即席だが、うまく行ったか」


 それは両端の尖った鉄パイプ。

 静也はそれを即席の避雷針として利用したのだ。

 因みに鉄パイプはレインの大地魔法で作ってもらった。


「くっ…雷魔法が効かないなら、他の手段を使うまでだ…!『ほむらの力よ、その翼を以って飛翔せよ!炎魔法炎鳥鳳撃フレイムウィズ・ファイヤーバード!!!』」


 再びギルベルトが詠唱し、今度は先程の雷鳥と同程度の大きさの炎鳥が静也に突っ込む。


「おぅ、雷魔法と大地魔法はともかく、炎魔法は食らえねえな。てなわけで…!」


 炎鳥が飛び出した瞬間、静也は即座に踵を返す。


「逃げるッ!」


「なっ…待てっ!!」


 静也は自分が蹴破った壁の穴に飛び込み、炎鳥は穴の縁にぶつかって消滅する。

 ギルベルトは慌てて穴に顔を突っ込むが、既に静也の背中は見えなくなっていた。







 模擬戦序盤からの展開に、観客たちは歓声を上げる。

 二人の戦いの様子は、天井にある大型投影水晶から映しだされた立体映像ホログラムによって中継されていた。


「す、すっげぇ!」「ギルベルトの魔法をあんな簡単に!?」「あの鉄棒何かのアーティファクトなの!?」


 皆口々に静也の戦法に驚きを露わにしている。


「おーおー。みんな驚いとんなぁ」


 その様子にナナセはニヤニヤと笑っている。

 しかし内心では彼女自身も驚いていた。

 何せたかが鉄棒一本でギルベルトの雷魔法を躱したのだ。

 驚くなというのが無理というものだろう。


「しかし、『カガク』言うんは凄いどすなぁ。他にも色々と準備してはったみたいですけど…」


 タマキの言葉にサクラもうんうんと頷いてる。

 ゼブオードの者達に取ってはそれ程までに『科学』は異質だったのだ。


「でも…」


 しかしアリアは少し不安気に立体映像に映る静也を見ている。


「うん?どないしたんやアリア?」


「……静也様が、怖がっている様に見えて」


「はぁ?あの普段からユルい性格のアイツがかいな?」


 昨日一日接してナナセはそう感じた様だ。

 しかしアリアは違う。


「………わたし、ナナセちゃん達が来る前に…リラオードから召喚するときに、静也様の部屋を調べたことがあるんです」


 その時にお宝(エロ本)を見つけたのだがそこは割愛する。

 室内を物色していた際に、一冊のノートが出てきたのだ。

 ―――『俺ノート1』。

 そのノートを興味本位でアリアは開いた。

 ―――中にはおぞましいまでに己を嫌悪する言葉が連ねられていた。

 ノート一冊分全てに。全てにだ。

 その中で最もアリアの目を引いた言葉。

 ―――『俺は、勇者なんかじゃない』。

 この言葉が乱暴に書き殴られていた。

 故にアリアは普段の飄々とした態度が演技で、実は激しい感情をひた隠しにしているのではと考えていたのである。


「静也様…」







 静也はリラオード人の身体能力を遺憾なく発揮し、迷宮の中を縦横無尽に駆けずり回る。


「(………………やっっっっべぇぇぇぇぇぇぇ!!!怖え怖え怖え怖え怖え怖え怖え怖え超怖ええええええ!!!何だあのトリやべーだろあんなん食らったら昨日の実験であの位の魔法がAED程度の電圧と電力だって分かってたけど目の前に来ると超怖ええええええ!!!!つーか避雷針通じてよかったよマジで!!保険かけてるけどそれでも怖えよ!!)」


 ギルベルトに一泡吹かせた静也だが、内心物凄くパニクっていた。

 当然だろう、自分に敵意の乗った攻撃魔法を向けられたのは初めてなのだから。

 ………アリアの予想とは少し違うが、彼女の予感は的中していた。


「……けど、レイン先生のお陰でなんとか対処できた」


 確信を以って頷く。

 実は昨夜、静也はレインに協力してもらい、雷魔法の性質を調べる実験を行っていたのである。

 彼女が大地魔法で作り出した即席避雷針に、ギルベルトの魔法を想定した雷魔法をぶつける実験だ。

 結果、雷魔法もまた自然現象としての雷と似たような性質を持っていた。

 魔法に使用した魔力量にもよるが、ある程度の威力なら避雷針に引き寄せられたのだ。

 ………流石に威力が増せば効果は薄いようだが。


「少なくともギルベルトの魔法には対抗できる」


 静也の感情は焦燥に駆られているが、思考は冷えている。

 静也は一旦足を止め右側の壁を蹴り砕いた。

 そして懐から出した何かを放り投げる。

 既にこの作業を何度か繰り返していた。


「……こっちの懐事情もあんだから、早めに追い付いてくれよぉ…」







「………クソッ!何なんだ一体!?」


 ギルベルトは苛立ちを隠すことなく吐き捨てるようにそう叫ぶ。

 その姿はとてもみすぼらしいものだった。

 マントはボロボロに煤焦げ、髪もボロボロ、更に泥だらけであちこちに青あざもできていた。


「……ッ!またか!」


 迷宮の角を曲がると、壁に穴が空いている。

 恐らく静也が蹴破ったのだろう。


「……今度は、当たりだよな?」


 穴から顔を出し、キョロキョロと辺りを見回す。

 そして大丈夫そうだと一歩踏み出し。


 …………パキリ、と何かを踏み砕いた。


「あ」


 直後、凄まじい突風と火柱がギルベルトを包む。

 服の焦げを増やされたギルベルトは疲れたように天井を見上げた。


『Do Will not ashamed be fooled many times?《何度も騙されて恥ずかしくないんですか?》』


 わざわざ人語(英語)でそう文字が彫られていた。


「…………………あァンのクズ馬鹿にしやがってェェェェェ!!!!!」


 迷宮内にギルベルトの怨嗟の声が木霊する。


 ギルベルトが踏み砕いたのは、学内通貨であり魔法触媒でもある『ジェム』だった。

 それが砕けて内部の属性魔力が溢れ出し、ギルベルトを黒焦げにしたのである。

 ………しかし、本来のジェムにそれ程の威力は無い。

 炎属性のジェムなら松明よりマシな程度の炎しか出ないし、風属性のジェムとて扇で数分間扇いだ程度。

 しかし現実として静也が仕込んだジェムはギルベルトの知るそれを大きく上回る効果を発揮していた。

 ………理由は簡単、静也は『組み合わせた』のだ。

 炎単体なら意味が無い。風単体でも意味が無い。

 では、その両方なら?

 火は空気の流れ()に煽られてその規模を広げる。

 風は()による気圧の変化でその風力を強くする。

 自然現象が起こす相乗効果を、静也はジェムで再現したのである。

 強力な炎なら、強力な風なら、つぎ込む魔力を上げればいい魔法使い達には全く思い至らない発想だった。


 先程からギルベルトは静也の仕掛けたジェムのトラップに面白いように引っ掛かっていた。

 水と雷属性のジェムで水濡れと電撃を浴び、

 大地と炎の粉塵爆発で吹き飛ばされ、

 水と大地の泥爆弾で服を汚され、

 そしてたった今、炎と風の火炎放射をまともに食らってしまった。


「クソッ!クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソクソクソクソクソクソクソッタレェ!!!何なんだ奴は!?なんで魔法も使えないのに、このボクをここまで引っ掻き回せる!?魔力のないクズの癖に!!一芸科とつるむようなクズの癖にィィィ!!」


 ヒステリックにギルベルトは頭を抱えて吠える。

 その時、通路の先からカツン、カツンと足音が響いてきた。


「…!」


「よー。あんまり遅かったもんだから戻って来ちまった。………ありゃ、その様子だと、律儀にトラップ全部踏んづけて来たのか?」


 ユルい声色で現れた人物…赤月静也は手を挙げる。

 その手にはポンポンと何かを弄んでいた。


「………ッフ、フフ、フフフフフフフフフ…」


「あ?」


 ギルベルトは肩を震わせ、くつくつと笑い出した。

 その様子に静也は首を傾げる。


「………今まで練り上げた魔力、全て貴様にぶつけてやる!くら」


「はいどーん」


「ぶわっ!?」


 静也はギルベルトの言葉を聞くことなく手に持っていた『水風船』を投げ付ける。

 因みにこの水風船、元々静也の部屋にあったものである。


「つ、冷たっ!?ってしょっぱい!!何を…」


「前口上が長い」


「ぶびゅ!?」


 2つ目の水風船を投げる。


「その鼻にかけた態度が気に食わない」


「ぶばっ!」


 投げる。


「無駄にイケメンで腹立つ」


「ぶごっ!?」


 投げる。


「あと観客席に居たお前のファンが無駄にレベル高い女子ばっかだったからムカつく」


「びゃお!?」


 半分(ひが)みも含めて投げる。

 そうして静也が水風船を投げつけまくり、ギルベルトは全身が更に水に濡れてしまっていた。


「ぐ、くぅ…!」


「オラ来いや。テメーの最大級魔法ブチかませ。それくらいなら受けてやらァ」


 「ヘイカマン!」と静也は両手を身体側にくいくいと寄せる。


 冷静に考えて、これが攻撃を誘っている事など見え見えだった。

 しかし、昨日の口論で自分を貶められ、

 『わざと』試合開始時間ギリギリにリングに上がり、

 魔法を使わず強固な壁を粉砕した身体能力を見せつけられ、

 再び自分を貶められ、

 自らの魔法を容易に躱され、

 そのくせあっさりと逃げの一手をされ、

 卑怯な罠を仕組まれ、

 そしてたった今再びコケにされ、プライドをズタズタにされたギルベルトに、冷静な判断など出来よう筈も無かった。


「………その余裕…後悔するぞ…!」


「御託は要らねーよ。さっさと来い」


 興奮で目は血走り、鼻血まで流すギルベルトは、腰に差していた豪奢できらびやかなワンドを取り出し、一節一節に恨みを込めるようにゆっくりと詠唱を始める。


「………『雷の力よ、我が敵を見よ、我が意志に応えよ』…」


「(おぉう、きたきた。やっぱ雷魔法か。…………怖えなぁ。痛そうだなぁ。でもこれでコイツのハートをブチ折れるんなら安いよなぁ…。それにしても無駄にゴッテゴテした杖だな。打撃に使うと一瞬で壊れそうだ。それに詠唱もムダに長いし。レイン先生と比べるとやっぱどうしても見劣りするな。………まああの人がトコトン規格外だって事もあるんだろうが…)」


 しかし静也はギルベルトの恨み事など完全にどこ吹く風であった。


「『その翼は全てを切り裂き、その嘴は全てを貫く…!大雷魔法ヒュージサンダーウィズ・雷鳳翼天翔ライトニングフェニックス』!!!!!」


 そう叫んだギルベルトの杖の先から、先程とは比べ物にならない大きさの雷球が出現する。

 それが通路全体を覆うほどの巨大な雷鳥へと変形した。


「行け!ライトニングフェニックス!!!」


『ピギャァァァァァ!!!!!』


 注ぎ込まれた魔力が膨大すぎたのか、通路の壁を容易に切り裂きながら雷鳥は静也へと突貫する。

 その光景に静也は微動だにすることなく――――


「アビャビャブブバビバビボーーーーーッッッ!!!!????」


 ――――ギルベルトが感電した。


「あーあーあー。生きてるか?死んでねーよな?」


 プスプスと黒煙を上げるギルベルトに静也は肩をすくめる。


「………おみゃべ(おまえ)……ひゃんげ(なんで)…?」


「うん?……あー、なんで俺がノーダメージか?」


 電撃の影響で筋肉が弛緩し、まともに口の利けないギルベルトの言葉を静也はなんとか解読する。


「ま、この戦法はもう使わないし、教えてもいいかな?」


 そう言って静也は今まで纏っていたマントを外し、その姿を晒した。


「………!?」


 ギルベルトの目が見開かれる。

 それもそのはず、上半身裸の静也の全身を、真っ白な布が覆っていたからだ。

 否、よく見れば所々に敢えて切れ目が入れられており、その内側に金属が見え隠れしている。


「布団のシーツを裂いて縫い合わせて、中に金属繊維埋め込んだ簡易耐電スーツだ。結構作んのに苦労したんだぜ?汗が染みて漏電しないように裏地にゴム帯縫い付けたり、レイン先生に金属繊維作ってもらったり…」


 つらつらと説明する静也だが、ギルベルトはまだ疑問があるという表情をしている。


「…みゃんべ(なんで)……びょきゅが(ボクが)…」


「ああ、逆にお前が痺れたこと?お前に塩水ブッ掛けただろ?その時俺の足元からお前の足元にも塩水流してたんだよね」


 静也が足元を指さす。

 確かに、二人の間を繋ぐように水たまりができていた。

 因みに静也の靴の裏には金属板が貼り付けられており、耐電スーツの電流を地面に逃がす設計になっていた。


「知ってるか?『ただの水』よりも『電解質()を含んだ水』の方が『電導率が高い』って」


 静也の言葉にギルベルトは「訳がわからない」という目を向ける。

 そんな事を言っても『科学』を知らないギルベルトに取って、わかるはずもない。


「……じゃ、そろそろ決めましょうかね」


「……!」


 この試合で初めて、静也は構えらしい構えをとる。


「さて、敗北を前に何か言うことは?」


「…ひゃ()ひゃめ(やめ)


「でも聞かない」


 慈悲なき勇者(外道)の一言。


篠崎バカ命名。必殺、アカツキキック」


「ブゲボッ!!!!」


 容赦なく放たれた静也の廻し蹴りは、ギルベルトの鼻骨を粉砕し、彼の意識を容易に刈り取った。


「………そこまでっ!!勝者、赤月静也ッ!!」


 レインの声がどこからともなく響く。

 次の瞬間、迷宮内に眩い光が溢れ、二人の身体を包み込んだ。

簡易耐電スーツの見た目は某明治時代が舞台の剣客漫画に出てくる包帯巻いた人をイメージしてもらえればわかりやすいと思います。

あと大体主人公はこういう卑怯な手段しか使いません。

だって魔法使えないなら普通に戦っても面白く無いもん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ