「お散歩に行こう
この世界に来たのが一昨日のこと。
昨日は一日暇で昨夜は早く眠りについた。
だから、ベットの上でダラダラしていてもまだまだ長い朝。
桜はだんだん覚醒してきた自分の頭を撫でながら起き上がった。
「お散歩でも、しようかな」
思い立ったが吉日。
桜は寝間着を着替えて、朝食を持ってくるはずのジルコへのメモを書くとさっさと部屋を出て行った。
長く広い廊下をひたすら歩く。
先ほど使用人の1人とすれ違ったぐらいで他に人は見当たらない。
桜はこの王宮の広さに驚いていた。
窓の外を確認した所ここの高さは3階ぐらい。
どこかに下へ降りる階段があるはずである。
そう思って探していたのだが、ひときわ大きい扉が桜の目に飛び込んでいた。
その扉の横には図書室と達筆な金文字で記されていた。
桜は好奇心から扉を開けようとしてはたと気づく。
その金文字は確かに図書室と書いてある。
しかしその文字は桜にっとって見覚えの無い字だった。
よくよく考えて見れば当たり前で、全く違う世界にいるのだから、使われている文字が違っててもおかしくはないのだ。
文字が書けないままじゃこれからが不便だろう。
そう思った桜は今度こそ扉を開いた。
定期的に掃除はされているが殆ど使われていない図書室。
その一角ではほんの山が出来ていた。
文法などは日本語と余り変わらない。
文字の組み合わせもローマ字と似たようなもの。
形さえ覚えれば、大して困りはしないだろう。
そう思った桜はどんどん好みの本を読み進めていった。
神話、歴史、世界史…。
剣と魔法の世界であるココの本たちは全てファンタジーと言っても過言ではない。
そういった類の本が好きな桜の周りは気が付くと読み終えた本の壁で覆われていた。
桜が本を呼んでわかったことは4つ。
この世界のどこかに日本とよく似た和国というものがあること。
古語と言われる昔の言葉は日本語と酷似していること。
召喚された勇者が元の世界に戻ったと言う記録がない。
そして、優希がこのまま王宮にいることは国同士の争いの火種になること。
勇者と言うのは、とても大きな力で一国の庇護の元にいるとその力を奪い合う争いが起きかねない。
桜の予想では近いうちに学園に入ることになり、勇者であることを隠すだろうとなった。
優希が帝というのになったのも、中立に立つギルドの元にいるなら、問題になりにくいから。
ココの新学期はもう少し先の5月。
優希の年齢なら編入生としてでも不自然じゃない。
桜はそう結論を出した。
そしてこの予想が正しかったと分かるのはもう少し後のこと。
「………ま………らさま……………クラ様!!」
「……っ!!!」
耳許で大きな声が聞こえ、桜は顔を上げた。
目の前にいたのはメイドのジルコ。
驚いて何度か瞬く。
「サクラ様探しました。もう夕食のお時間です。ユウキ様が一緒に食べようとサクラ様をお探しになっておりました」
窓の外を見るともう殆ど陽は沈んでいた。
「もうそんな時間なのね、わざわざ探させてごめんなさいね」
「いえ…さあ、お部屋でユウキ様がお待ちです」
桜樹は数歩進んでから立ち止まる。
「そういえば…」
振り返ると壁のように積んであった本は桜の持つ一冊を残し1つ残さずなくなっていた。
少し視線をずらせば、読んだ覚えのある本が仕舞われている。
桜が止まったことに気がついたジルコが桜樹を見る。
「この第一図書室の本の持ち出しは王宮内であれば自由でございます。ですからお気になさらず行きましょう」
勘違いをしたようでそう言ったジルコに桜は笑いかける。
「ありがとう」
ジルコは1つ瞬くとさっきまで桜が座っていいた場所を見る。
その目を桜に向けると口元が綻んだ。
「…どういたしまして」
「優希、国王様達と食べるんじゃなっかたの?」
「ティアナにお願いしたんだ。それより、図書室に行ってたんだって?」
「ええ、朝見つけてね」
「朝!!…読書を始めると夢中になるのは、もはや桜の悪癖だね」
「…ただの趣味よ」