回想してみた」
あの後目が覚めたのは翌日で、視界に広がったのは今と同じ、この天井。
桜が目覚め、しばらくして、一人のメイドが入ってきたのだ。
彼女の名前はジルコ・ローダンセ。
桜が王宮にいる間の専属メイドとなったらしい。
彼女の話によると、桜は意識を失い医者に見せたが、原因がわからないためしばらくこの部屋に寝かせて様子を見ることになった。
この世界には魔法があり、もちろん治癒魔法というのも存在するが、原因がわからない場合は無闇に魔法で治すのは危険とされている。
というのも、その原因によっては掛けた魔法を拒絶し、症状が悪化する可能性があるからだ。
桜はジルコに優希のことを聞いてみた。
優希はその後、無事に国王、王妃との謁見を終わらせ"ギルド"へ行ったらしい。
その"ギルド"の説明をして貰おうとした時、部屋にドアをノックする音が響いた。
勢いよく扉を開けて入ってきたのはたった今噂をしていたその本人、優希だ。
ジルコはそっと扉を閉めて、部屋の隅で佇んでいる。
「桜!目を覚ましたんだね!良かったー。ティアナが紹介してくれたお医者さんも、原因がわからないって言うから心配したんだ」
「そう、心配かけたのならごめんなさいね?」
ホッとしたようにベットの縁に座った優希の頭を撫でる。
優希は照れくさそうに笑って、桜の手を取った。
その手を両手で包み込んでギュッと握る。
「でも本当に良かったよ、知らない場所に来て、知らないものがたくさんあって、その上桜が倒れて…。すっごくかっこ悪いけど、すごく怖かったんだ」
恐怖が浮かぶ優希の顔を見て、桜は微笑みながら、自分の手に重なる優希の手を撫でる。
優希はそれを見て、弱々しい笑みを浮かべる。
「国王が言ってたんだ。桜は僕の勇者召喚に巻き込まれたんだって。前例がないからなんとも言えないけど…、勇者じゃない桜はこの世界に合わないから倒れたんじゃないかって。もしかしたら、死ぬかもしれない。死ななくてもずっと眠り続けるかも知れない。そう考えたら辛くて、僕のせいだって、僕が桜の側にいたから桜をこんな目にってっっ………考えてたら眠れなかった」
混乱しかけてる優希の頬にスッと手を伸ばせば、はっとしたように桜を見て最後に苦笑を浮かべた。
桜は抱きしめるように優希を引き寄せると優希の肩に顎をのせた。
必然的に自分の顔の横に来る優希の頭にポンっと手を置いた。
「だいじょうぶ。優希は勇者として選ばれたの。知らないものばかりのこの世界でもきっと…いえ、絶対にやっていけるわ。それに私はちゃんと目を覚ました。たとえ、この世界に来た原因が優希でも、私は優希に感謝する。だって、こんな体験そうそう出来るものじゃないわ。私はこれからが楽しみよ。……だから、ね?これ以上、優希自身を責めないで。絶対にだいじょうぶだから」
そっと撫でていた桜の手は最後にポンポンと優希の頭を2度叩くと離れていった。
肩を押しすぐに体も離れる。
優希は、閉じていた瞳を桜に向け笑みを浮かべた。
桜がそれに微笑み返えばただ一言「ありがとう」と言って一度ギュッと桜樹を抱きしめた。
「優希、私が気を失った後のこと、貴方が見たもの、知ったものを私に聞かせて頂戴」
桜がそういえば優希は嬉々とした表情で語りだした。
「要するに、ギルドっていうのは何でも屋みたいなもので、そのトップに立つ存在である帝は強くなくちゃいけなくて…」
「その帝に僕が選ばれたんだよ!!」
嬉しそうに、誇らしげに話す優希。
しかし、
「自分が帝であることは、人に話しちゃ駄目なんじゃなかったの?」
桜がニッコリ笑いながら言った言葉によって崩れ落ちる。
幸いなことにジルコは空気を読んで途中で退室したためこの話を聞いていない…はず。
そう思って桜はひとまず安心した。
「もう話してしまったことは仕方ないでしょ。これからは気をつけなさいね」
桜がそう言って優希の頭を撫でれば、優希はショボンと落ち込んだ。
「桜様夕食を持ってまいりました。失礼致します」
タイミング良く部屋に入ってきたのはジルコ。
優希が来たのが昼の少し後なのに、話し込んでいたものだ。
「もうそんな時間なのか」
「はい。ティアナ様や国王様達がお待ちしておりますので、申し訳ありませんが…」
「あ!そっか!教えてくれてありがとう!ばいばい、桜」
「おやすみ、優希」
優希はジルコの言葉を聞き慌ただしく部屋を出て行った。
苦笑を浮かべる桜にジルコが笑いかける。
「医者のカーネル先生が明日いっぱいは安静にするようにと言っておりました」
食事の用意をしながら話すジルコに向かって苦い顔を浮かべる。
「もう全然元気なのに。…原因がわからないから仕方ないわね」
王宮のおいしい食事を口に運びながら桜樹は微笑んだ。