第四話
もうすぐ「鈴木拓哉」になって86年になる。86年と113日で今回の仕事はひと段落し、新たな職場へ向かうことになる。今度はそろそろ別の国になるかもしれない。まぁ、なんだかんだここは治安もよくいい国だったので、できればまたここがいいのだが、それは最上様のみぞ知る。
通常ならば次の仕事の10日前に最上様から新たな仕事を言い渡されるのだが、今回は新たな仕事の前に少し有給休暇を取ろうと思い、こちらから最上様に連絡を取ることにした。
今はいつもの鈴木拓哉の体ではないので非常に楽だ。30歳を超えた人間の体はいろいろボロが出る。86ともなるとあまりの酷さに何もする気が起きない日さえある。
もっと人の体を楽に使えるようにすればいいのに、と考えながら最上様と連絡を取る。時候の挨拶と世間話をし本題に入る。
「最上様、そろそろ異動の時期ですが、実は有給休暇をとりたいと思っております。よろしいでしょうか?」
「お前の有給は確か…400年か。ほとんど残ってるな。そろそろ使ってもらわないとこちらとしても色々困るから、構わないぞ。何年だ?」
「では、80年ほどで」
そう言うと最上様は呻いた。
「いや、この間法律が変わってだな、1クールごとに半分は有給を消化することが義務となってしまってだな。200年使ってもらえないだろうか。」
我々の世界でも法律はある。法律は議会で決める。ちなみに人間の議会にも存在する議会制民主主義であるが、これは我々の内の誰かが、どこかの人間に入れ知恵して普及したものだ。多少教え方が悪かったようだが。
「わかりました。ではこの仕事のあとに200年程有休をいただきます。」
「あぁ、それでいい。ところでその次の勤務地だが、今度は反対側に行ってもらうことになるから心しておいてくれ。」
(反対側か…まだ蘆屋の頃のことが響いているのか?)
「了解しました。」
「ではそろそろレポートを提出してもらうからな。休み前にしっかり頼むぞ。」
元の世界に戻ってから、深い溜息をつく。左遷コースにこれは間違いない。
一度レールから外れるとなかなか戻れないのはこの国の社会構造とよく似ている。
そんなことを考えながらPCをインターネットにつなぐ。速報で20年ぶりに同期の勤務先の国で内戦が再開した、と書かれていた。
せっかく友人の彼が頑張った結果、ようやく20年前に内戦状態を脱したというのに、世の中は必ずしも良い方向にはいかないものだ。何度やってもうまくいかないが、それでも理想のために努力をしなければならない。これは神と人間の共通点である。
世界平和には、まだまだ時間がかかりそうだ。
初投稿です。拙い文章でありながらも読んでいただいた方には感謝しています。途中、第三話の高校駅伝の話は完全に蛇足なのですが、どうしても書きたかったので無理やり詰め込みました。小説と呼ぶには及ばないものでしたが、一度でいいから小説を書いてみたいという夢が叶い、嬉しく思います。今後も可能ならばより良いものを書けるようにしたいと思っています。お付き合い頂きありがとうございました。