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魔人転生記 -九転臨死に一生を-  作者: 葵大和
第一幕 【愚者:理想門への凱旋を】
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8話 「逆風世界の抵抗者」【後編】

 まさか、とサレは思う。

 アリスの口からこぼれた言葉――〈異族討伐計画〉。

 アルフレッドたちはその計画のために殺されたのだろうか。

 あるいは、魔人族の掃討がその計画の布告につながったのか。

 いや、この際それはどちらでもいい。どちらにせよ、魔人族が掃討されたという結果は変わらない。


「私たちは――その〈異族討伐計画〉によって同胞を失くした者たちです。それがなんの縁あってか、こうして集まってしまいまして。日に日に数が増えていくばかりですが、これでも私たちは出会ってまだ一月も経っていません」


 ――意外だ。

 事実だとしても、彼らの間には親密感とでもいうような太い繋がりがあるように見えた。


「そのわりには仲がよさそうだけど?」

「おそらくその親密感は『代替』によるものなのでしょう。皆さんは一様に繋がりを失ってしまった者たちです。失われた繋がりを新しい繋がりで『代替』しようとしているのではないでしょうか」


 サレは自分が感じていた妙な親近感の正体とその発生源を、彼女の言葉の内に見た。

 確かにそうかもしれないと納得させられる、明快な答え。


「さらに、私が中心に()えられているのもまた、喪失の代替行為なのだと個人的には考えております」

「と、いうと?」

「私はこの通り目が見えません。そして力もありません。ゆえに、守られる側の存在です。皆さんはそんな私を守るべき対象として中心に据え、同様の使命感や責任感を連帯することでどうにかこうにか意志を統一させているのではないかと、私は思うのです。そうでなければ私がこのような――まるで一団の長のような位置に立っているわけがないと――」

「それは少し違うのではないかのう」


 不意に、横から声が飛んできた。

 声の飛んできた方向へ視線を向けると、頭から一本角を生やした黒髪の麗人がいた。腰にまで届くしっとりした長い黒髪が、扇情的な雰囲気を醸している。


「半分は当たっている。じゃがもう半分は違うと、わらわは思うのう。ぬしからは『私利私欲』が見えてこないのじゃ。だから、ぬしに判断をゆだねればより公正な道筋を示してくれるじゃろうと、そう思っているのではないかの」


 一本角の麗人の言葉に、アリスが返した。


「〈トウカ〉さん、それは私に優れた判断能力があってこその話では?」

「ふむ、最初はぬしの言うとおり、実験みたいなものだったかもしれん。しかし、ここ数週間でわらわたちの判断が間違っていなかったことは証明された。だから、このままにしようと決めたのじゃよ。――どちらにしても、(もろ)い絆ではあるがの」


 すると一本角の麗人――〈トウカ〉と呼ばれた黒髪の美女は、サレに視線を移した。


「サレ、と言ったか。ぬしも、どうせ一人なら共に来るか? 身を守るにしても大勢でいる方が安全なのは確かじゃ。今にも崩れそうな牙城ではあるが、ないよりはいくぶんマシじゃろ。いざという時に助けあえるような関係でもないが――」


 若々しい容姿とは裏腹に、妙に古めかしい口調で誘い文句を並べたトウカをサレは見た。

 特に裏はなさそうだが――どうするか。

 聞けば聞くほど、この集団の捉えどころのなさばかりが目立つ。

 崩れそうな牙城。

 宙を漂う集団。

 目的もなく、ただなんともなく集まった者たち。

 はたしてこの集団に加わることでどんな利益を得るのか。

 単純な損得勘定もある。だが同時に、彼らの親近の様相が、合理的な思考を妨げる。


「なにも――目的はないのか? ――本当に?」

「明確な目的があればこんなところをふらふらしてはおらぬよ」


 トウカは自嘲気味の笑みを浮かべた。

 次いで、「ふう」と艶やかな息を吐いた後に、


「――まあ……そうじゃな。ぬしの察しているところも分からないではない。目的もない混成種族の集団。周辺一帯の異族討伐計画。それを主導するアテム王国」


 「うむ」とトウカはうなずいた。


「そろそろ――限界かもしれぬな」


 そう口の端から漏らした。


◆◆◆


「そうですね。誘いはしましたが、潮時かもしれませんね。サレさんにも当然、断る権利があります」


 アリスが続けて言った。


「ですが、先ほども申しましたように、この場所は異族であるあなたにとっては危険です。私たちの誘いに乗らなくとも、この場所を離れることをお勧めいたします」


 サレはまだ迷っていた。

 ――彼らの集団に加わって、その先があるのだろうか。あるにしても、どの程度の長さなのだろうか。

 すぐにでも瓦解してしまいそうな集団だ。

 少し、考える時間が欲しい。

 そう言おうとサレが口角に力を込めた。

 が――


「フフフ……!! 愚民のくせに悩むなんて偉ぶりすぎじゃないかしら! ええ、そうよ! あんたのことよ!! ――サレなんちゃらなんちゃら!!」


 突然サレの真正面に仁王立ちにて現れた女が、サレの言葉を押しとどめた。

 磨かれた金糸のような髪と『白の六枚大翼』を派手に揺らしながら、甲高(かんだか)い声で言葉を紡ぐ女だ。

 彼女は「ふふん」と鼻で自慢げに息を吐いたあと、再び快活な笑みを浮かべて続けた。


「あんた! 超、絶、美麗!! かつ!! 超高貴っ!! ――な天使族(レグナード)であるこの私がいるというのに、誘いを即決で受けないとはなにごとなの!? ――ええ、なにごとなのよ!? 愚民のくせに生意気だわ!!」


 ――え、えぇ……テンションたけぇ……。

 会って二秒で愚民と罵られる理不尽さに困惑しながら、なんとかサレは答える。


「い、いや、あの、いきなり言われても――」

「何よっ! いきなりで悪いの!? ――いいえ悪くないわ!! 私が悪いと生意気に(さえず)るのはどこのどいつよ!? あんたね! サ――なんちゃらなんちゃら!」


 「こいつ遂に『レ』まで忘れやがった。さっき『サレ』までは覚えてたじゃねえか……!」サレは内心で驚愕していると、白翼の彼女がまた言葉を続けた。


「地べたに這い蹲って(はいつくばって)靴を舐めれば許してあげるわよ!? どうするの!? ほら、どうするのよ!?」

「いや、悪いとか俺言ってないからねっ!?」


 ――勝手にあなたが言いだしたんですからね!? 俺悪くないよ!?

 「ほら、ほら、ほら!」と胸を突きだして迫ってくる白翼の女に、サレはたじたじとした。


「〈プルミエール〉さん、話がややこしくなるので黙っていてください」


 そこへ、アリスが相も変わらぬ無表情で淡々と毒を吐いた。


「あら、アリス? 私が場をややこしくさせることなんて一度でもあった? ――フフフ……!! 私に限ってそんなことはありえないわ! 一生ないわね! 常に流麗! 高貴っ!」

「いえ、現状でとてもややこしくされていますので」

「何じゃ、またプルミはちょっかいを出しに来たのか。まったく、ぬしも少しは黙っておられぬものかのう……」

「お黙りなさぁい、トウカ。――その角折るわよ? ええ! 折るわよ!? ――決めた、折るわねっ!!」

「トウカさんの角を折るのは一向に構いませんが、現状、非常に邪魔なので、向こうでやってくださると幸いです」

「ちょっ! アリス! ぬしはわらわの角をなんだと思っておるのじゃ!」

「そうですね……あえて申しあげますと――串焼きをつくるときに串の代わりになりますね。肉、葱、肉と三つほどならたやすく刺さるでしょう。そこそこ便利です。そこそこですけど」

「あら! それいいアイデアね! でかしたわアリス! 今度やってみましょう!」

「ぬしたちはっ……!!」

「そういうわけで、今度と言わず、今すぐにでもどうぞ、向こう側で邪魔にならないように実施されればよろしいかと思います。とりあえずどっか行ってくださると幸いです」

「分かったわ! 今すぐね!! ええ! 今すぐトウカの角で串焼き作りましょう!!」


 突如として展開された謎空間に、サレはうまく入り込めなかった。

 目を丸めてその終息を待つ。

 プルミエールと呼ばれた白翼の女がトウカの角をつかみ、少し離れた位置で集まっているほかの異族たちの元へ小走りで走り去るまでに、若干の時間が掛かった。


「お騒がせいたしました、サレさん」

「えっ、あっ、うん……」

「このように、意外となんとかなっているのが現状です」


 ――えっ? 何とかなってる? ……えっ!?


「な、なるほど……」

「いささか濃ゆい方々が多いのですが、意外となんとか――――なってないかもしれませんが」


 ――いきなりぶっちゃけた! 前に言ったこと五秒で訂正したよこの人!!


「ともあれ、まあ、なんと申しましょう…………どうですか? さきほどのお誘いについてですが」


 アリスが話題をもとに戻した。


「安全とみなせる場所まででも構わないので、とりあえず共に来てみようとは思いませんか?」

「そうだなぁ――」


 一拍をおいて、


「――――うん」


 サレはうなずいていた。

 一連のやり取りを見て、聞き、さきほどまでとは違う結論を出していた。


「じゃあ、お邪魔しようかな」


 ――『興味』だ。

 興味がわいた。

 あそこまでキャラの濃さを求めていたわけではないが、気になる。――気になってきた。

 彼らがどんな種族で、どんな考えを持っていて、これからどうしようとするのか。


「邪魔とおっしゃいますが、とんでもありません。希薄な関係ではあるかもしれませんが、今のところ私たちは――『仲間』と呼べるのではないでしょうか」


 アリスの言葉を受けて、サレはふと胸中に言葉を抱く。


 ――きっと、自分は運が良いのだろう。


 新しい繋がりを、唐突に得られたと言うのだから。

 全てに整理がついたわけではない。

 もちろん、アルフレッドたちのことは忘れられない。

 それでも、後ろばかりを振り向いていては――


 ――リリアンに叱られてしまう。


 彼女の『行ってらっしゃい』という言葉が聞こえた気がした。


◆◆◆


「と、いうわけで、新しい仲間が増えました」


 アリスが集団の近くまで歩み、そう告げた。

 集団からざわめきが生まれるが、それは否定的な印象を孕むものではなく、どちらかといえば賛同の意を含んだもののように思えた。

 サレはアリスの隣に立ってその場で適当に自己紹介をし、


「――これからよろしく」


 礼儀は大事だと老魔人族たちにも言われたので、丁寧さを重視した会釈を送る。

 つかみは大事だ。

 ――ああ、つかみを間違うとのちのちまで響くからな!

 そうこうしているうちに集団の中からいくつかの影が立ちあがって、


「そうか、ぬしも共に来るか。こちらこそ、よろしく頼もう」

「ちょっとトウカ? あなた逃げようたってそうはいかないわよ!? さっさとその角を差し出しなさい!」

「やめんかプルミ! 折れる! 折れるっ!!」


 再び組んず解れずになる二人の美女を見ながら、この集団に対してつかみなんてものが存在しないことをサレは確認した。


「あ、サ――なんちゃら? ――ああ、来るの?」

「サレだからね。最初は言えたんだから、せめてそこまでは覚えようね」


 サレは言うが、白翼の美女――プルミエールは、それを華麗にスルーして、また口を開いた。


「いいわ! ならあなたは私の愚民五十号よ! さあ、まずはひれ伏しなさい!? あんたの背中に座ってあげるから!」

「い、嫌だよ!」


 ――なぜだろうか。まったく逆らえる気がしないのは。

 あなたさっき〈天使族〉って言ってましたけど、天使というわりに傍若無人が過ぎませんか?

 ――ああッ! 御伽噺(おとぎばなし)にでてくるような、もっとこう、御淑(おしと)やかな天使が恋しい!


「サレさん、からまれると面倒なので適当にスルーすることをお勧めします」


 アリスもアリスで淡々と無表情で吐く毒が鋭い。


「それと――」

「ん? なに?」

「一応の暗黙の了解と言いますか、なんと言いますか。暗黙なのに言ってしまっては意味がありませんが――これだけさまざまな種族の方がいらっしゃるので、あまり気軽に種族や過去について聞かない方がよいかもしれません。プルミエールさんのように自ら進んで吐露する馬鹿――間違えました――自分から教えて下さる人ならば、特に気兼ねする必要もないと思いますが」

「ああ、そうだね。自分から言わないことを聞くのも野暮だからな」


 アリスの途中の間違えにはあえて触れないことにした。

 ともあれ、アリスの言葉には全面的に賛成する。

 下手を打てば、土足で心に踏み入ってしまうかもしれない。

 トウカとプルミエールを見ていると忘れてしまいがちだが、彼らはなにかしらの『繋がり』を失った者たちなのだ。

 まだその傷も癒えないうちに、いらぬ負担や圧力を加えるべきではないだろう。

 それにしても、アリスはよく見ている、とサレは思った。

 盲目であるから『見ている』というと語弊があるが、つまるところ、彼ら彼女らの内面をよく観察しているということだ。

 それと――


「アリス、普通に歩いてるけど周囲の状況が分かるの?」


 アリスはサレの言葉を聞くと一度小さくうなずいた。


「はい。確かに視覚はありませんが、そのせいか他の感覚器が明敏なので。ある程度はわかりますよ。さすがに色などは言われなければわかりませんが」

「そうなんだ」


 そういえば、彼女はなんという種族なのだろうか。

 小首をかしげて彼女を見る。

 しかし、特に変わった容姿ではない。

 いたって普通の――純人族に見える。

 ――いや、そもそも純人族をまじまじと見たことないけど。

 だが、おそらくそうなのだろうと予想できる程度には知識もある。

 ――いずれ分かるか。

 彼女が言わないのだから、訊くのも野暮だろう。

 さきほど自分で言った言葉だ。早々にそれを裏切るのも得策ではない。


「さて、皆さん」


 そんなことを考えていると、アリスが皆に向けて声をあげた。


「何はともあれ、アテム王国の周辺をなんともなくまわってきたわけですが――これからどういたしましょうか」

「ふむ、どうするかのう」

「私の王国を建てるなんてよくはない!? ええ! すごくいいと思うわ!!」


 そう叫んだプルミエールに、


「全然よくねえから!!」


 と皆の声がそろって放たれた。


 ――前途多難そうである。


 サレは内心で言いながらうなだれた。


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『やあ、葵です』
(個人ブログ)
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