32話 「証明せよ、抵抗の力を」【前編】
サレは皇剣でシオニーと打ち合っていた。
細剣による突きを避け、返しに胴部へ皇剣を一閃。
片手での振り回しだ。
空いている方の手は掌打に構え、皇剣を避けたあとのシオニーの胴部に狙いを定める。
打ちつつ、打たれつ。可もなく、不可もなく。
お互いに力量を確かめるような、そんな打ち合いだった。
――普通に強い、って感じかな。
あえて皇剣を最初から使ったのは、シオニーの主武器が細剣で、彼女が最初から抜剣して戦闘に臨んだためだ。
シオニーの細剣術は洗練された戦闘術だった。動きも技術も優れている方だろう。
だが、それゆえに首を傾げたくなるのも事実だった。
シオニーが振るのは基本に忠実な、いうなれば『誠実な剣』という感じで、さきほどのクシナのような『種族特性』が動きの中に含まれていなかった。
人型が研鑽を積めば可能になるだろうという戦法だ。
細剣術の技量に重点をおくシオニーの戦法には、獣人の肉体能力が反映されづらい。
だから、サレは疑問を得ていた。
シオニーの戦い方は『獣人らしく』なかったのだ。
サレはシオニーの細剣を皇剣で大きく払って、後方へステップし、距離をとった。
十分に離れたところで口を開き、彼女に訊ねる。
「――シオニー、獣化してる?」
「ん? ――ああ、しているぞ。ほら、耳だって出てるじゃないか」
シオニーが指差す先。自分の頭部。
銀の犬耳が生えている。普段はない犬耳だ。
それを獣化による影響と彼女自身は説明していたが、
「それがシオニーの獣化の全開なの?」
疑問だ。
獣人という種族特性と、その戦法がかみ合っていないことから来る疑問。
クシナに関しては疑う余地はなかったように思う。
彼女は獣型を『おまけのようなもの』だと言い、また、人型の方が戦いやすいとも言っていた。
事実、その言に嘘はないと思わせるほどの憑依型肉体依存による戦闘術を見せつけられたが、
――もしかして、シオニーは『逆』なんじゃないかな。
サレはそんな予想を胸に抱いていた。
シオニーの人型における細剣術も決して悪くはない。動きに不備はないし、十分に熟達されているように見える。
だがやはり、違和感を感じるのだ。
そこまで考えて、シオニーから言葉が返ってきた。
「……違う」
「やっぱり」サレは小さくうなずきを作った。
「私はあの猫と違って、人型の方が調子が出る、というわけではない」
ならなんで、とすかさず訊ねようとして、しかしそれをシオニーの続く言葉に遮られる。
「私は――私の家族たちがアテム王国に滅ぼされる前までは獣型でいることの方が多かった。だから『向こうの姿』の方がよく動けると思う。命が懸かれば……私だって一番自分がよく動けると思う形態を取る。そこは信用してくれていい。でも――」
シオニーの身体が小さく震えた。
「あまり好きじゃないんだ。『向こうの姿』は――」
唐突に彼女は細剣をもつ手を垂れさせ、構えを解いていた。
「私は――人のまま、人のように戦いたいんだ」
絞り出すように出てきた言葉。
その言葉を紡ぐシオニーの顔には、同じく力ない苦笑が浮かんでいた。
ともすれば今にも泣きだしそうな、弱弱しい笑みだ。
――それが獣人という特性を潰す戦法を取る理由なのだろうか。
そこまで考え、サレは我に返った。
シオニーの顔を見てハッとした。
気付く。
今、自分が意図せずシオニーの内面に踏み込もうとしていることに。
口から出かけた続きの言葉を、サレは噛み潰した。
脳裏に浮かぶ文字の羅列は、凱旋する愚者の『暗黙の了解』という言葉。
――お互いの過去に無理な詮索を入れるべきではない。
話すことを強要したわけではないが、結果的にそういう流れになってきている。
ここで彼女が話してもいいと思うならば、話すだろうとは思う。
しかし、問題は別にあった。
――そうなったとき、俺は『それ』を受け止めきれるのだろうか。
シオニーにではなく――自分に用意がない。
暗黙の了解など、この際ただの言い訳だ。
サレは再び口を開いてなにかを言おうとして、だが、
「――」
言葉が出なかった。
シオニーはそんなサレの顔を見て、
「――いや、いいんだ。べつに大したことじゃないから、そんな心配そうな顔をしなくていいよ。サレに深刻な顔は似合わないよ」
眉尻を下げた笑顔で紡いでいた。
「――さて、流れも切れちゃったし、十分手合わせも出来たと思うから、今日はこの辺でいいかな?」
模擬戦終了を促す言葉に、サレはまたハっとしたように顔をあげ、
「……うん、そうだね」
うわの空で答えることしかできなかった。
◆◆◆
サレは臨戦態勢を解いて周りを見渡した。
視線の先では死屍累々と言った体の陸戦班員たちが倒れている。
うつぶせに地面に突っ伏していたり、仰向けで大の字に広がりながら息を荒げていたり。
立っている者はほとんどいなかった。
次いで、かろうじてまだ立っている二三名の班員と、あいかわらず嬉々とした顔で刀を振るうトウカの姿が目に入る。
しかし、サレはそれを一瞥するだけに留まり、すぐさま一人で考え事するようにその場に座り込んだ。
◆◆◆
――まだ気持ちを切ってはならない。
頭では分かっている。
この次にトウカとの模擬戦もあるのだ。
だから、むしろ気を引き締めなければと思う。
なのに――
先ほどのシオニーの力ない笑顔が脳裏に残り続けていて。
なかなか心が切り替わらなかった。
◆◆◆
しばらくして、サレの肩を叩く者がいた。
「ぬし、ぬし、生きとるかー」
トウカだった。
薄らと額に汗を浮かべた黒髪ポニーテールの鬼人が、サレの隣にしゃがみ込んで声をかけていた。
トウカは妖艶な手つきで髪をかきあげたあと、続けて紡いだ。
「ぬし、さっきから呼んでたのにまったくわらわの声に気付かんかったのう? わらわとの一戦がひかえているというのに、ずいぶん余裕じゃな?」
「ん? ……んあー、ちょっと考え事してた」
「ほう、考え事とな」
トウカはしゃがみながら、右足と左足をちょこちょこと交互に動かしてサレに歩み寄った。
位置取りは正面だ。
そうして首を傾げながら、サレの顔を下から覗きこむよう見上げて、
「ふうむ」
意味深に吐息した。
熱気を持った吐息がサレの手の甲に当たって、わずかなむず痒さを得る。
次にトウカは周りを見て、少し離れたところに座っているシオニーに視線を向けると、
「ははーん」
なにやら合点したように鼻を鳴らした。
「――ぬし、シオニーの内心に踏み込んだか?」
「正確には踏み込みそびれた、って感じ」
「なるほどの。――じゃが、まだ向こうは逃げてはおらんぞ?」
「それはそうなんだけど――」
サレが苦笑を浮かべる。
対するトウカは、再び逆説で繋いだ。
顔には楽しげな笑みがある。
「しかし、このまま次手を打たねば時間切れで負け確定じゃな」
「これって勝ち負けの問題?」
「――然り、面倒事は勝ち負けの二極論に持ち込んだ方が楽に判断がつけられるものじゃ。これ、わらわの持論じゃがな?」
「そこはかとない脳筋臭がするな、それ」
それでも、確かに一理はあるとサレは思った。
動くか動かざるかの状況に陥ってしまったら、どちらかしかないのだ。
「ふうむ……しかたないのう。うわの空のぬしとやりあっても意味がない。大半の班員と手合わせもできたことじゃし、今回はこの辺にするか。ぬしが復調したら、そのときにわらわと手合わせといこう。楽しみをあとに残しておくのも、まあ悪くはない」
「そうしてくれると助かるよ」
「カカ、ぬしの気遣い癖と気負い癖には慣れておるからな」
「気遣ってるってほど大仰なものじゃないよ。――女々しいだけさ」
「それでも、いずれ誰かが引き受けねばならぬこと」
なにを、といえば、
「――それぞれの繋がりを補強する役割を」
トウカはサレの隣に移動して、しゃがみ込みの体勢からさらに腰を下ろした。
地面に尻をつけ、「おうっ、結構ここの地面硬いの。マリアぐらいの尻肉が欲しいところじゃ」などとわざとらしく言いながら頭を掻く。
そのあとで何を思ったか、閃いたように掌にぽんと拳を落とすと、「サレ、そこに膝を折って直れ」と言ってサレを正座の姿勢で座らせた。
半分のうわの空のサレは、トウカの声に従って膝を折って座り直す。
すると、
「おっ! 結構ぬしの膝、座り心地よいの!」
トウカがそのサレの膝に尻を落としこんでいた。
膝のあたりに柔らかい感触が落ちてきて、そのあとに人の重みが来る。
トウカがサレの方に背を預けてくると、サレの目の前に彼女の黒髪が迫って、甘い匂いを漂わせた。
「さて、話を戻すか」
「ん、お、おう」
「ふふっ、わらわの女の匂いで少しは正気に戻ったか?」
珍しく、快活な笑い声ではなく含むような笑い声をあげて、トウカが後ろ向きにサレの顔を見上げていた。
色気のある美貌が、間近に迫る。
近くで見てもその美貌にはなんら劣るところがない。
それどころか、戦闘のあとでしっとりとかいた汗が艶めかしく白い肌を垂れていくのがよく見えて、一層扇情的に見える。
しばらく視線の交差があって、そのあとでトウカが再び前を向き、サレに背を預けながら言った。
「繋がりを補強する役割か、もしくは相互に間柄を緩衝する役割が、この一団には必要になる。そして、相互に働きかける役割を担うには、それぞれのことを知る必要がある。建前は建前、本音は本音でな」
「トウカもトウカで気遣い癖があるじゃないか」
サレの言葉に「カカッ」とトウカは笑ってみせる。
「わらわとてそこまで大仰に気遣っておるわけではないぞ。どいつもこいつも考えることは似たようなもんじゃろ。――良くも悪くも、わらわたちは繋がりに飢えておるからな」
「――そうかもね」
「ゆえに、止まらずに突き進み続ければ相手が壊れてしまうかもしれぬし、それを恐れて進まずにいれば相手が逃げてしまうかもしれぬ。だから、それらをうまく調整する役割が必要なのじゃ」
「そこまでわかってるならトウカがやってもいいんじゃないの? 俺なんかよりずっとよく見えてると思うよ」
「カカ、わらわは陸戦班の面々をまとめるので精一杯じゃよ。それに――」
ふと、トウカがまたサレの方に体重をかけてきて、その胸の辺りに後頭部を押し当てながら紡いだ。
「わらわはこう見えても臆病者じゃからな。――言うだけ言って、自分でやるのは怖いのじゃ」
サレの胸から腹にかけてにトウカの体温が来る。
黒い長髪がさらりと舞って、サレの膝元に広がった。
「あっ、今のはプルミに言うなよ? あの馬鹿に弱みを握られると厄介じゃからな」
トウカが恥ずかしそうにいいながら、サレの胸の中で顔を反って見上げた。
そのトウカの言葉を受けて、サレは内心に思った。
――本当に臆病だったなら、そんなふうに自分の短所をさらけ出せないよ。だから、トウカは十分に勇気のある女さ。
サレもサレでなんだか気恥ずかしくて、それを口には出せなかった。
「まあ、プルミもだいぶ気を回す性質があるが、アレは頭が回りすぎるせいか手が早くなりがちじゃしな。過程を数段飛ばして解決させようとしおる。そのうえ表現方法までひねくれてるときた」
「そうかもね。――じゃあギリウスは?」
「ふむ。ギリウスは――出会った当初から裏方に徹しようとする意志があるからのう。こぼれたモノを拾うことはするが、能動的に枠に納めようとはしないじゃろう。一度だけこういう話をしたこともあるが――」
トウカはいきなり目をつり上げて、さらに口をとがらせてギリウスの顔真似をしながら、わざとらしくいった。
「『我輩、顔がこんな感じなので、意図せず怖がらせてしまうことが……そうすると余計に皆に圧を与えてしまうことに……』と悲しそうな竜顔で言っておったわ」
「はは、悩みはそれぞれだね」
「そうじゃな。――いずれ、わらわの悩みもぬしに聞いてもらうとしようかの?」
トウカがサレの膝をぽんぽんと軽く叩いた。
「重圧をかけてくれるなよ」
「受け止めてくれると思えるからな、ぬしが相手だと」
「それは買いかぶり過ぎだって」
「ほれほれ、謙遜するな」とトウカが尻をぐりぐりと膝に押し付けてくる。
「受け止めてくれたら褒美をやるぞ? ほれほれ、わらわのぴっちぴちな尻じゃ。見たいじゃろ? 触りたいじゃろ?」
ひどく古典的な手法である。
サレがため息をついて額を手で押さえていると、トウカがムっとしたように顔を顰め、
「ぬっ、尻はそこまで好きではないのか。もしかしてぬしはおっぱいか! そういえばあの時もわらわの着物の上から手をむにっと! そうか、ぬしはおっぱい派か!!」
「大声はやめてください」
「そうかそうかー。――まあ、自分で言うのもなんじゃが、わらわも結構美乳じゃぞ? 揉みたいじゃろ……? ほら、揉みたくなってきた」
「人の内心を自己完結させやがった……!」
サレは、自分の胸についた双丘を手で寄せ上げて「ほれほれ」と見せつけてきているトウカを苦笑で見ながら、ふと思った。
――俺は独善的に生きたいだけなのだ。
誰かに心を預けすぎてしまえば、その誰かがいなくなった時に大きな傷を負う。
それが怖ろしい。
究極は心身共に超人になることだ。
寄せ付けず、影響されず、ただ内心の発露に従って。
孤高に。
でも、
――それはとても難しいことだ。
独りは嫌だ。
「ぬしおっぱいにもあまり興味ないのか!? まさかもっとマニアックな――!」
「大丈夫だ、大好きだ。少しマニアックなところでいくとうっすら筋の入った女の子の腹筋とか! 撫でたくなるよね!」
「ほう! 安心した! ならばわらわの身体がバッチリじゃぞ! 安心せい! おっぱいも腹筋も完備じゃ!!」
――トウカもどこで止まったらいいのかわからなくなったと見える。
そろそろ止めてやらねば彼女の女としての自尊心に多大な傷を残すだろう。
「そろそろ止まりなさい。それ以上は危険だ」
「――うむ、正直わらわも言っててかなり込み上げてくるものが……」
トウカは一瞬のうちにカァっと顔を真っ赤にすると、ようやくサレの膝から尻を持ち上げ、立ち上がった。
「ま、まあよい。――ともあれ、今日のところはあの仮住まいの家へと帰るとしようかの」
トウカの言葉にうなずき、サレも立ち上がった。
周りを見れば、トウカに打ちのめされた陸戦班員たちがお互いに肩を支えあいながら立ち上がり、疲れ果てた笑顔で談笑をしている。
いろいろと得るものがあったようだ。
サレはなんともなく思って、空を見上げた。
青い空と、白い雲と、輝く太陽と。
加えて、そこには見慣れない色があった。
「――黒?」
黒い塊が、空の青を背景にして、ずっと向こうの方で滞空していた。
目を凝らすと見えてくる黒色の様相は、翼のついた獣だ。
「――ギリウス?」
同じくテフラ王都外で模擬戦をしているといっていた空戦班の班長のようだった。
◆◆◆
高度数百メートル。
蒼空に彩られた空間に、ギリウスは竜翼を羽ばたかせて浮遊していた。
その瞳が見上げる先には白翼を同じく羽ばたかせる天使。
その眼下に黒鱗の竜をはめ込み、不敵さを含んだ笑みを浮かべているプルミエールだった。
「――いいわ、やっぱり空は良いものね」
プルミエールが笑みを崩さずに言うと、すかさずに野太い声。
「プ、プルミよ、ノリノリであるな……」
「そりゃそうよ、空は〈天使族〉の故郷だもの。ノリノリにもなるわよ。愚竜、あんただってそうでしょ?」
「気分的にはそうであるが、プルミの場合能力的にもノリノリなので、我輩とは少し違うのであるよ?」
「ふーん」とプルミエールが興味なさ気に鼻を鳴らす。
すると、彼女がおもむろに片手を天に向けてあげ、さらに人差し指を立てて天を貫いた。
「私が一番よ」と言わんばかりの体勢で、再び言葉を紡ぐ。
「そうね! 私、身も心もノリノリになるものね! 高いところは高貴の象徴よ! だから誰よりも高い位置にいる私が今一番高貴っ!! ――つまり一番私が強いのは今ねっ!!」
「なにいってんだこいつ」と周りの空戦班員たちの声が返ってくるが、一番近くにいたギリウスは、
「ううむ……言ってる意味がだいぶ分かってしまう自分が怖いのであるなあ!」
なんとなくその意味を察していた。
続けて、
「一応心配だから言っておくのであるが――これ模擬戦であるよ!? 向こうの方に陸戦班の面々もいるのでお手柔らかにお願いするのであるよ!?」
「大丈夫よ!!」
強い返答が返ってきて、一旦ギリウスは安心するが、
「――私の術式も私に似て高貴だから、きっとうまくいくわっ!! ――――たぶんね!!」
「全然大丈夫そうに聞こえないのである!!」
すぐさま安堵を取り払って、また焦燥した。
プルミエールが心底楽しげな笑みを浮かべ、その六枚白翼を強く羽ばたかせた。翼が大気を打ち、彼女の周りに風を生む。
瞬間、彼女が天に掲げた人差し指の方向数メートルの空間に、『金色に輝く巨大な球体』が複数現れた。
それは確かな実体を持った球体ではなく、色濃く燃ゆる太陽を小型化したようなエネルギーの塊で、金色の燐光を周囲にまき散らしている。
さらに何かが収束するような高音を鳴らしつつ、どんどんと色を濃くしていった。
そして――
「じゃ、いくわよお!!」
合図のような言葉のあと、
「術式展開――天術、〈日輪落とし〉」
プルミエールが指を振り下ろした。
◆◆◆
「ぬ、ぬおおおお――!! 下の者は避けるのであるよおおおおおお!!」
ギリウスは竜翼を羽ばたかせ、前方に急加速しながら叫んでいた。
見上げていた天使族が放った無数の金色球体が、凄まじい勢いで降り注いできていた。
身体をかすめただけでその部分に看過しがたい熱量と痛みが走る。
直撃を想像するとゾっとする威力だ。
ギリウスは直撃の可能性のある位置をなんとか抜け、すぐさま下を見た。
自分たちより下方の空域で模擬戦をしていた空戦班の者たちが、それぞれの戦いを中断して必死に回避行動に映っているのが見える。
――み、皆が無事に避けられることを祈るのである……!!
プルミエールが大丈夫というとなぜか信じたくなるところだが、事実、現状は相当に恐ろしい光景になっていて。
しかし、それでいても、
「ほら、避けなさい愚民たち……!! どんどん行くわよ――!!」
対するプルミエールはさらにテンション高めに声を張り上げていた。
すでに再び指を天に振り上げ、先ほど落とした金色光球の倍の数の光球を生み出している。
――あれ? 終わったであるか? これ、終わった感じであるか?
ビクつきつつも、このまま彼女の術式を完遂させるのはまずいとギリウスは即座に判断し、行動に出た。
竜顔の口腔を開き、喉奥に意識を傾ける。
――弱め、かなり弱めで撃つのであるよ。
自らに細心の注意を促し、
言葉にならない咆哮音を喉元で鳴らし、
「――ッ!!」
次いで、『竜焔の砲撃』を行った。
竜の口腔内で生成された〈竜力燃料〉を焔に転換し、連続圧縮。
焔の球が自壊するギリギリまで圧縮してから、生体内の圧力を利用して放つ。
――〈竜焔砲〉であるよ……!!
赤い炎塊ともいえる砲弾が、プルミエールに迫った。