151話 「凱的シンフォニア」
今こそ、あの時自らに立てた『建前』を。
『本音』に変容した『建前』を。
アリスを守るという、『本音』を。
もっと、広げて見せよう。
アリスを、サレに。
アリスを、ギリウスに。
アリスを、トウカに。
アリスを、プルミエールに。
アリスを、皆に。
アリスを、〈凱旋する愚者〉に。
ならば――
その矜持のために、立ち向かって見せよう。
かつて闘争から逃げ出した足を、今この時、力を込めて、前に向けて見せよう。
踏みとどまって見せよう。
◆◆◆
俺たちは立ち向かえるぞ。
◆◆◆
立ち向かえるから。
だから、
安心して前を見ろよ。
戦える奴らは、前を見てろよ。
心配しなくてもいい。
もし倒れそうになったら、なけなしの力で支えてやるし、もしだめだったら、一緒に倒れてやるよ。
もうお前たちは独りじゃないから、安心しろよ。
ここまで来たら――
行くとこまで行ってやるよ。
付き合ってやる。
俺たちが苦手なクサい台詞、言ってやるよ。
◆◆◆
「俺たちは皆で一つだ」
◆◆◆
「はは、言うねぇ、みんな」
「ふむ、我輩もなかなかに愚か者に染まったものであるなぁ」
「カカッ、わらわたちは大体最初から愚か者じゃったぞ」
「ちょっと、私は最初から最後まで高貴よっ!? 一緒にしないでくれないかしら、この愚民どもめっ!! フフフッ……!」
「プルミうるさいぞ。それに、私はかわいい愚民になるんだからな。ただの愚民と一緒にされても困るんだからな」
「お前最近言ってっことかなり毒されてきてんぞ、駄犬が。あと自分で言って頬染めんじゃねえよ!! 恥ずかしがるくらいならいうなよ!!」
「あらあら、皆元気ねぇ」
「イリアも超元気だよ!」
「ああっ!! 今のイリアの万歳で僕の眼鏡がっ!? 眼鏡があっ!!」
「もう何度目かも分からないんだけどさ、ホントお前ら元気だよな」
◆◆◆
そして、全ての視線がアリスに集まった。
それをアリスは真っ向から受け止める。
受け止め、そして――笑った。
「ふふ、本当に、皆さん馬鹿だと思います。前にも言いましたけど、あの時に逃げなかったことを後悔すればいいと思います。それでも、後悔してもなおついてくるのなら――」
アリスが紡ぐ。
「私を祀りあげればいいと思います。愚者の長として、私を祀りあげてください。困ったら、その時こそ――」
――あの時自分に課した、その役割を。
「私が全部、決断して差し上げます」
人を見るにも限界がある。
限界が来て、でも皆でいたくて、意見がまとまらなかったら、その時こそ――
――あの時にトウカさんに言われた言葉を、ギリウスさんに言われた言葉を、そしてプルミエールさんに言われた言葉を実行に移しましょう。
◆◆◆
「一団の主はアリスじゃ。気を使う心持ちもわからないでもないが、そんなのは皆それぞれに任せておけばよい。なにか問題が起きても、いざとなったらぬしが出て、一言二言の言葉をかけてそれで『解決』じゃ。そういう発言力をこれからのぬしは持ってよいのじゃ」(※ 19話 『独善と理想を』)
「もっと独善的になってもよいのである。むしろこれからはそういったアリス自身の意見が一団の指標となるのであるよ。ある意味、上に立つものの宿命であるな」(※ 19話 『独善と理想を』)
「そうよ!! 私のように高貴な女になりなさい、アリス!! 高貴かつ美麗かつ天使に!! そうすればすべてうまくいくわ!? 間違いないわね!!」(※ 19話 『独善と理想を』)
◆◆◆
「では、戦いましょう。私たちに魔の手を伸ばしてくるアテム王を、ぶっ飛ばしましょう」
そして、
「その裏にいる最高たる神を、ぶん殴ってやりましょう」
そしてなによりも、
「意地でも、全員で生き残ってやりましょう」
アリスの声が、爛漫亭に響いた。
◆◆◆
三つの勢力が重なった。
〈凱旋する愚者〉、〈テフラ王族〉、〈神族〉。
彼らはほぼ同時刻にあのナイアス・アレトゥーサの中心区域に再び集まってきて、各々の方針を打ち出した。
「神族は最高神の傲慢を止めなければならない。残る神格と、今まで積み重ねてきた能力を使う。そのためには神格者が必要だ。余たちには神格者がなければならない。ここで好き放題に力を使えば、結局マキシアたちと変わらなくなる。だからこその『神格者』が。だから、純人族と異族には、力を貸してもらいたい」
神々の王の言葉。
神族の方針はそれだった。
「テフラ王族は、自国を守るために今こそアテム王国と最高神に抗わねばならない。ここで蹂躙されれば民が死ぬ。この国に土着する民たちもいる。この国を居地にする者たちがいる。この国を愛する者たちがいる。王国の王族として、自分たちが抵抗を諦めることはできない。また、ジュリアスの命を使わせないために――〈凱旋する愚者〉の力を貸してもらいたい。そしてその〈凱旋する愚者〉が進む道を作るために、純人族たちの、異族たちの、この王国を使う多くのギルドの力を貸してもらいたい」
テフラ王族の言葉。
テフラ王国の方針はそれだった。
「〈凱旋する愚者〉は生きるためにアテム王国と最高神に抗います。このテフラ王国こそが、抵抗の地として最適であると判断しました。しかし私たちだけではアテム王国に対抗できません。最高神側の神族の力も考慮しなければならない。なので、テフラ王国と王神側の神族たちに力を貸してもらいたいのです。アテム王と最高神マキシアに剣を突き立てるための道を、つけていただきたいのです」
〈凱旋する愚者〉のギルド長の言葉。
〈凱旋する愚者〉の方針はそれだった。
だから――
「じゃあ、手を組もう」
笑みで言うのはジュリアス・ジャスティア・テフラだった。
「そうだな。なんだかんだと、最初から最後までお前と手を組むことになりそうだ、ジュリアス」
答えるのはサレ・サンクトゥス・サターナである。
そして、その声に反応するように、その場にいた者たちを手を差し出した。
その手を空に掲げ、あの天空の都市に伸ばす。
日輪の光を受けて、その手が輝く。
最後に、神々の王がいった。
『我らに勝利を!!』
復唱する声に意志を込め、全てが紡いだ。
「勝利を!!」
――と。
―――
――
―
第九幕終。