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18メートル離れたら即死!? 孤独な俺と落ちてきた小悪魔の絶対距離  作者: ユニ
第2章 お風呂とトイレと18メートル ~猛毒の奇襲者~
9/12

第9話 限界距離とバスルーム

 翌朝。

 俺が目を覚ますと、視界一面が「白」だった。

 天井じゃない。白くて、すべすべしていて、ほんのり甘いミルクの匂いがする……肌?


「……んぅ、アト、おはよ」

「うわあああっ!?」


 俺は飛び起きた。

 目の前にあったのは、鋳吹いぶきの顔。いや、胸元だった。

 狭いシングルベッドの上、俺たちは抱き合うようにして眠っていたらしい。


「お、お前、なんで俺の布団に!」

「……床は、痛いから」


 鋳吹は悪びれもせず、欠伸をしながら俺のパジャマの裾を掴む。


「それに、離れると死ぬ」

「一八メートルあるんだから、部屋の隅と隅でも平気だろ!」

「やだ。……アト、温かいから」


 彼女はむぅと頬を膨らませると、二度寝しようと俺の腹に顔を埋めてきた。

 彼女の肌は、人間離れしたひんやりとした冷たさを持っていた。まるで極上の陶器か、大理石のようだ。

 それが俺の体温を求めて密着してくる。

 これが「悪魔」じゃなくて普通の美少女なら、中三の男子としては天国なんだろうが、今の俺には心臓に悪いだけだ。

 だが、本当の地獄はここからだった。


「……アト、お風呂」


 鋳吹が自分の髪を摘んで言った。

 昨日の戦闘で、鋳吹の銀髪や体は煤や泥で汚れていた。


「ああ、そうだな。沸かすよ」


 俺たちはベッドから這い出し、浴室へ向かう。

 築四十年のボロアパート『明星荘』。風呂場は玄関脇にあり、脱衣所なんて洒落たものはない。洗濯機置き場を兼ねた狭い廊下がその代わりだ。

 レバーを回し、カチカチとバランス釜に火をつける。

 お湯が溜まると、鋳吹は廊下で服を脱ぎ始めた。


「ちょっ、待て! 俺は向こう向いてるから!」

「ん。……アト、行っちゃダメだよ?」

「行かねえよ! 行けねえんだよ物理的に!」


 俺はキッチンの換気扇の下まで退避し、背中を向けてうずくまる。

 背後で衣擦れの音がして、浴室のドアが開く音、そしてチャポンという水音が響いた。


(……一八メートルって、意外と長いようで短い)


 俺は換気扇の油汚れを見つめながら、必死に無心を装う。

 だが、想像力というのは残酷だ。

 すぐ数メートル後ろの壁の向こうで、あいつが裸でお湯に浸かっている。

 肌が白いとか、意外と発育がいいとか、昨日の感触とか、そういう情報が脳内を駆け巡る。


『……アト』


 浴室から、こもった声が聞こえた。


「な、なんだよ!」

『……シャンプー、どれ?』

「青いボトルだ! あと、石鹸はネットに入ってるやつ!」

『……ん』


 ゴシゴシと体を洗う音が聞こえてくる。

 ダメだ、静かだと余計なことを考えてしまう。


「~♪」


 俺は大声で歌い始めた。校歌だ。色気のかけらもない校歌を、必死に絶叫して雑念を振り払う。

「み~がく~学びの~窓近く~!」

 隣の部屋から「うるせえぞ!」と壁ドンの音がしたが、今の俺にはそれどころじゃない。

 十分後。

 ガチャリと浴室のドアが開いた。


「……アト、出た」


 振り返った俺は、絶句した。

 モウモウと立ち込める湯気の中、バスタオルを一枚だけ巻いた鋳吹が立っていた。

 濡れた銀髪が肌に張り付き、上気した肌は桜色に染まっている。

 そして何より、バスタオルの巻き方が甘い。鎖骨から胸のラインが、危うい曲線を描いている。


「っ……お前、服! 着ろよ!」


 俺が慌てて目を逸らすと、鋳吹はトテトテと近づいてきて、俺の背中にぴとりと張り付いた。

 ひやりとした水滴の感触。風呂上がりだというのに、彼女の肌の表面はどこか冷たい。


「……背中、届かなかった」

「は?」

「洗って」

「ぶっ!!」


 俺は噴き出しそうになるのを堪えた。

 濡れた体で抱きつかれ、石鹸のいい匂いが鼻をくすぐる。

「ば、バカ野郎! 中学生男子になんてこと頼むんだ! 自分でやれ、長いタオル使え!」

「……アト、冷たい」

「俺は理性の限界なんだよ!」


 一八メートルという「死の鎖」は、俺たちを強制的に「ゼロ距離」へと縛り付ける。

 この同居生活、敵に殺される前に、俺の心臓ハートが爆発して死ぬかもしれない。

 俺は天井を仰ぎ、明星荘のシミを見つめながら、これから始まる長い一日を思って遠い目をした。

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