第7話 穿て、明星の雷
ドクン、と心臓が跳ねた。
言葉が、脳裏に浮かび上がってくる。いや、思い出す。俺が生まれるずっと前、遥か彼方の記憶を。
俺は震える唇を開いた。
「――天の座を追われし、嘆きの星よ」
紡ぎ出した言葉と共に、指先に黄金の粒子が集束し始める。
だが、遅い。力が練り上がるまで時間がかかる。
『サセヌゥゥゥッ!!』
怪物が殺気を感じ取り、無数の泥の槍を放った。雨のような連撃が、無防備な俺たちへと降り注ぐ。
直撃する――そう思った瞬間。
「――展開!!」
背後で鋳吹が叫び、空いた左手を天にかざした。
刹那、俺たちの周囲に半透明の光のドームが出現する。
ガガガガガッ!!
泥の槍がドームに激突し、激しい火花を散らして弾け飛んだ。
防御魔法だ。彼女は俺の右手を固定して照準を維持しながら、片手だけでこの鉄壁の結界を維持しているのだ。
「……ッ、堕ちてなお、その輝きは失われず……」
俺は必死に声を張り上げる。焦りで舌がもつれそうだ。
まだか。まだ撃てないのか。
防御魔法があるとはいえ、敵の攻撃は止まない。
ドームが衝撃を受けるたび、キィィンと高音が響き、鋳吹が苦悶の声を漏らす。
「ぐぅっ……くッ!」
彼女の額から、玉のような脂汗が流れ落ちる。
この障壁は、術者の精神力を燃料とする。敵の猛攻を弾き返すたび、彼女の精神はヤスリで削られるように摩耗していくのだ。
脳が焼き切れるような負荷。意識を保つだけでも限界のはずだ。
「イブキ!?」
「大丈夫……続けて! このくらい……平気!」
彼女は顔面蒼白になりながらも、決して結界を解こうとしない。光のドームが輝きを増し、泥の津波を押し留める。
彼女は俺の手を離さない。どんなに意識が遠のいても、俺の照準だけはブラさない。
六十六・二秒。
この魔法を行使するために必要な、絶対にして不可避の時間。
たった一分と少しの時間が、今の俺たちには永遠のように長い。
「……泥濘の檻を焼き払い、今ここに真なる権能を示せ!」
空気がビリビリと震え始めた。
俺の指先に、小さな太陽のような高密度の雷球が生まれる。
『馬鹿ナ、コノ魔力ハ……!?』
怪物が恐れをなして後退る気配がした。逃がすか。
俺たちの六十六秒を、鋳吹が魂を削って作り出したこの時間を、無駄になんてさせるか!
見えなくてもわかる。背中の温もりが、鉄壁の魔法が、俺を守っている。
狙うは一点。あの薄汚い泥の心臓!
「我が手に宿れ、断罪の楔」
チャージ完了。臨界点突破。
俺は叫ぶ。
「――穿て。天焦がす、明星の雷!!」
俺の指先から、全てを呑み込む閃光が迸った。
ドォォォォォンッ!!
黄金の雷撃が、沸騰する泥を蒸発させ、その奥にある核を貫く。
『バ、カナァァァァァ……!』
怪物は断末魔を上げ、霧となって消滅した。




