第6話 盾の真実
怪物は、倒れているヒナの体を泥の触手で持ち上げた。
ズズ……と泥が蠢く音が、咀嚼音のように響く。ヒナの顔色がさらに白くなり、ピクリと痙攣した。
「やめろ!」
俺が叫ぶと、怪物は愉悦に歪んだ笑い声を上げた。
『美味ナ「餌」ダッタヨ。……邪魔ナ「盾」ヲ、オ前ガ追イ払ッテクレタオ陰デナ』
――え?
俺は呆然とした。
餌。盾を追い払った。
脳内でパズルのピースが最悪の形で噛み合う。
こいつはヒナを捕食するためだけに襲ったんじゃない。ヒナを襲えば、俺が鋳吹を疑うと分かっていたんだ。
鋳吹を俺から引き剥がし、無防備にするための……卑劣な罠。
「じゃあ、鋳吹は……何もしてなかったのか?」
『クク……愚カナ人間ダ』
怪物は肯定した。それも、俺の愚かさを嘲笑うように。
心臓の痛みが強くなる。
俺はなんてことを言ったんだ。
彼女は、剛田から俺を守った時も、あざを作って耐えていた。あれは攻撃じゃなくて、俺へのダメージを肩代わりしていたんだ。
ヒナに冷たくしたのは、敵の気配を感じて遠ざけようとしたからかもしれない。
それなのに、あの時、鋳吹は弁解すらしなかった。
ここで戦いになれば俺を巻き込む。だから、濡れ衣を着せられたまま、大人しく俺の前から消えることを選んだのか。全ては俺を守るために。
「くそっ……!」
泥の触手が、守りを失った俺に向かって伸びてくる。
俺が死んだら、鋳吹も死ぬんだ。
孤独な俺の部屋に、唯一「熱」をくれたあいつを、俺自身が殺すことになる。
「ごめん、イブキ……!」




