第3話 見えない盾とあざ
昼休み。
俺はいつものように、校舎裏の死角に呼び出されていた。
相手はクラスのカースト上位、剛田とその取り巻きだ。
「おい明星、お前んち貧乏なくせに、あんな可愛い子連れ込むとかどういうことだよ」
剛田が俺の胸ぐらを掴もうとする。
俺は抵抗できない。抵抗すれば、服が破れる。買い換える金なんてない。だから泥のように、ただ嵐が過ぎるのを待つ。それが俺の生き方だ。
だが、今日は違った。
剛田の手が伸びてきた瞬間、俺の胸の奥で、ドクンと何かが跳ねた。
恐怖? いや、これは――怒りだ。
(触るな……!)
感情の高ぶりと共に、指先がチリチリと熱くなる感覚が走った。
バヂィッ!!
乾いた破裂音が響き、俺の胸元で黄金色の火花が弾けた。
「うわあっ!?」
剛田が弾かれたように吹っ飛んだ。
まるで、高圧電線に素手で触れたかのように、紫電を纏って地面を転がる。
「な、なんだ今の!? 静電気……にしてはヤバいだろ!」
取り巻きたちが怯えて後ずさる。
俺も訳がわからず、自分の手を見た。指先が少し痺れている。焦げ臭い匂いがする。
(俺が、やったのか……?)
いや、ありえない。俺はただの人間だ。こんな芸当ができるはずがない。
ふと視界の端、一八メートルギリギリの物陰に、鋳吹が立っているのが見えた。
彼女は苦悶の表情でうずくまり、自分の右腕を必死に押さえている。その袖の隙間からは、煙が上がっていた。
(あいつ……まさか)
剛田たちは「気味わりぃ! 呪いかよ!」と捨て台詞を吐いて逃げていった。
俺は痺れる手を握りしめ、鋳吹の元へ走る。
「おい、お前! 何やったんだよ!」
鋳吹は荒い息を吐きながら、慌てて火傷した腕を背中に隠した。
「……っ、うぅ……」
「とぼけるな! 今の放電みたいなやつ、お前の魔法だろ!? 俺を導体にしたのか?」
俺は自分の身に起きた不可解な現象を、すべて「悪魔である彼女」のせいにした。そう考えた方が辻褄が合うからだ。
鋳吹は痛みに顔を歪めながらも、否定しなかった。
「……守っただけ」
「守ったって、あいつら吹っ飛んだぞ。あんな派手なことしたら、俺は学校にいられなくなるんだよ! 普通の生活がしたいだけなのに!」
俺は彼女が隠した腕の傷――俺の暴発した雷撃の余波を、彼女が身を挺して吸収した痕跡――には気づかず、自分の保身で怒鳴りつけてしまった。
鋳吹は悲しそうに目を伏せる。
「……ごめんなさい。でも、アトが傷つくのは嫌だから」




