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18メートル離れたら即死!? 孤独な俺と落ちてきた小悪魔の絶対距離  作者: ユニ
第2章 お風呂とトイレと18メートル ~猛毒の奇襲者~
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第11話 体育倉庫の攻防

 一限目は体育だった。

種目はバスケットボール。

ここで、本日二度目の「物理的障壁」が立ちふさがる。

更衣室だ。


「……アト、一緒に入る」

「入れるか! 社会的に死ぬわ!」


 体育館の入り口で、俺はジャージを握りしめて抵抗した。

鋳吹は不満げに唇を尖らせている。


「でも、さっき敵がいた。アトが着替えてる間に、ズボンの中に毒蛇が入ってるかもしれない」

「想像力が逞しすぎるだろ! 大丈夫だ、確認してから履く!」

「……信用できない。アトは隙だらけだから」


 鋳吹はジッと俺を見る。その真紅の瞳は、冗談ではなく本気で心配しているのだ。

さっきの襲撃未遂が、彼女の過保護スイッチを入れてしまったらしい。


「わかった。じゃあ、こうしよう」


 俺はため息交じりに提案した。


「俺は五分……いや、三分で着替えて出てくる。その間、お前はここで待っててくれ。男子更衣室と女子更衣室は隣同士だ。距離は数メートルもない。これなら文句ないだろ?」

「……三分」

「ああ、カップ麺より早く出てくる」

「……わかった。カウントする」


 渋々頷いた彼女を残し、俺は男子更衣室へと駆け込んだ。


 更衣室の中は、制汗スプレーと男たちの熱気でむせ返るようだった。

俺は自分のロッカーを開け、超高速で学ランを脱ぎ捨てる。

すると、近くで着替えていたクラスメイトの男子たちが、ヒソヒソと話しているのが聞こえてきた。


「おい、見たかよ入り口」

「ああ、あの転校生だろ? すげー形相で立ってるぞ」

「なんだあれ、門番か?」

「明星のやつ、とんでもないのを拾ったな……」


 (……聞こえてますよ、お前ら)


 俺は心の中で毒づきながら、Tシャツに頭を通す。

剛田のグループは昨日の雷撃(と勘違いしている現象)にビビって寄り付かないが、他の連中からの視線は「嫉妬」と「哀れみ」が半々といったところだ。


「よし、着替えた!」


 宣言通り、二分五〇秒。

俺は更衣室のドアを勢いよく開けた。


「――一六八、一六九、一七〇」


 ドアの真ん前で、腕組みをした鋳吹が秒数を数えていた。

その立ち姿は、まさに仁王立ち。

更衣室に入ろうとする男子生徒を「チッ」と睨みつけ、出てくる生徒には「アトじゃない」と冷たい視線を送る。

完全に、更衣室の警備員バウンサーだ。


「うわっ、明星! お前の女、どうにかしろよ!」


 入り口で立ち往生していた男子が、泣きそうな顔で俺を見た。


「あ、ああ……悪い」


 俺は慌てて鋳吹の肩を掴んだ。


「イブキ、どけって! 邪魔になってるだろ!」

「……アト。二分五五秒。合格」


 鋳吹は俺の顔を見ると、ようやく警戒心丸出しの表情を緩め、ふわりと花が咲くように笑った。


「無事だった?」

「おかげさまでな。……ほら、お前も着替えてこいよ」

「ん。すぐ戻る。動かないで」


彼女は俺に「待て」を命じると、女子更衣室へと消えていった。


 残された俺に、周囲の男子たちの視線が突き刺さる。


「明星……お前、あんな美少女に束縛されてんのか?」

裏山死刑うらやましけいだな」

「いや、お前らわかってない。あれは束縛なんてレベルじゃねえ……」


 俺は乾いた笑いを漏らした。

これは愛とか恋とかいうチャチなもんじゃない。

生存戦略だ。


 やがて、指定のジャージに着替えた鋳吹が出てきた。

サイズが少し大きいのか、袖から指先がちょこんと出ているのが妙に可愛い。ハーフパンツから伸びる足は白く、その白磁のような肌に、俺たちの命綱である「距離」を刻む赤い痣がうっすらと見えた。


「アト、行こ」


 彼女は自然な動作で、俺のジャージの袖を掴む。

体育館へ向かう俺たちの背後で、男子たちが「爆発しろ」と怨嗟の声を上げているのが聞こえたが、今の俺には別の意味で爆発(物理)の恐怖の方が大きかった。


 だが、俺たちは気づいていなかった。

その様子を、渡り廊下の陰から静かに見つめる視線があることに。


「……ふふ。本当に、ずっと一緒なんだ」


 日向ヒナが、手作りのお弁当箱を胸に抱きながら、寂しげに微笑んでいた。

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