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おっさんのごった煮短編集

悪役の矜持

よくあるゲーム転生、婚約破棄モノにまたしても挑戦しました。

なんか違うとなっても、お許しください。

ワタシ的な婚約破棄モノをお楽しみ頂けたら幸いです。


政治的なお話が出てきますが、設定背景ともにガバガバです。気楽にお読みください。



 話題のゲームなら、なんでも攻略して、実況解説動画を上げて収益に変えていた。

 だから、ネット小説を元ネタにした恋愛ゲームも金になるならと攻略したのだ。ただ、やるからには手を抜かない俺は、メディアミックスされた元ネタの小説も読み、コミックも読んだ。

 ゲームはヒロインか悪役令嬢をプレイヤーキャラとして選択でき、ヒロインなら悪役令嬢に打ち勝ち攻略対象を落とせれば勝ち、悪役令嬢なら、断罪返しでスパダリゲットで勝ちだったが、王太子ルートのみ、ある一定まで隠しキャラの好感度をあげておくと、断罪追放される途中に隣国の隠しキャラが救済に来て、結ばれるという、斜め上なトゥルーエンドが用意されているゲームだった。


 詰まる所は王太子は噛ませキャラであり、断罪成功しようが断罪返ししようが、ノーマルエンドでヒロインとくっつく以外は必ず、処刑されるNPCキャラだ。

 悪役令嬢をプレイヤーが選んだ場合、バッドエンドでプレイヤーが処刑エンドにならない限りは、断罪返しで処刑か、追放した悪役令嬢が隣国の隠しキャラと報復に乗り出して処刑だ。


 まぁ、良くできたゲームだったし、元ネタの小説も暇つぶしには面白かったが、王太子について言えば、毒にも薬にもならない顔だけ男だと嘲笑っていた。



 「それがいけなかったんかなー」


 そして現在、アルティア王国第1王子、マルドク・ティ・ドゥ・アルティアに俺はなっていた。


 配信に夢中になり、元々不摂生な生活をしていた俺は、気付かぬままに長時間配信をして、そのまま過労で死んだ。


 そして、マルチエンディング型乙女ゲーム、煌めく恋とユラメキの愛、通称、キラ恋の没個性型攻略対象、のちの王太子、マルドク第1王子へと転生していた。


 ゲームの中では顔だけで特筆するところも、たいした能力もないダメ王子だったが、折角ゲームの中に転生したのだ。



「しっかり悪役やり切って、勝利したいもんだな」


 そうして、俺は様々な対策を練り始めた。


 

 〜〜〜〜〜



 転生していることに気付いたのは5歳の頃だった。

 特に何があった訳でもなく、朝目覚めると今世の記憶や人格と前世が混じり合い、すり潰された幼子の人格は消え去り、上書きされた俺の人格が残った。


 多少の罪悪感はあるが、このまま生きていても、ヒロインルートでヒロインと結婚する以外は酷い末路しか持っていないのだし、そもそも、現実的に考えて、ヒロインとくっつく選択は周りが許さない、ゲームだから成立した話でしかないのだから、詰んでた人生の終わりが前倒しされたと諦めてもらうよりない。


 俺も好き好んでこの身体に転生した訳でもない訳だしと言い訳じみた思考と共に本来の人格を供養した。


 といって、自分がキラ恋のマルドクに転生したとすぐにわかった訳でもなかった。そもそも転生自体、受け入れるのに丸一日かかったくらいだ。


 だが、まぁ自分にどうにも出来ない事象を嘆いている余地は当たり前にない。


 「ヨルバスを探すか、あとは上手く俺専属で動かせる手駒を持てるようにならんと」


 良くも悪くも顔を除けば特筆する事もない王子、まだ5歳では当然、その資質など分かろう筈も無いが、少なくとも異才も鬼才も放つ事なく、普通に育って来たマルドクが、急にアレコレと動いても不審がられる、焦らずに動いて行くとして、それでも情報を仕入れるために、その手段は確保しなくてはならない。


 先ずは少しづつ、可怪しく無い範囲で勉学に励み、優秀であると思わせる必要がある。その点は前世の知識と経験がある分、効率よく学べることに加えて、キャラクターとしては凡庸だったといえ、ゲームキャラの王子だ、ポテンシャルなら相当なものだと思いたい。……いや、まぁ、これは希望でしかないが、思わないとやってられない。まさかのポンコツ仕様で与えられた知識が全て吸収されずに流れ落ちるスポンジ男では無いと思いたい、そうだったら諦めて出家するより無いと心に決めたものだ。


 そんなアホらしい覚悟を決めてから早5年、目立ちすぎる程に優秀だと喧伝されるまで優秀だとは思われてはいないが、次代の治世も安泰だと周囲に思われる程度には期待をされている。

 どうやら、最悪の事態は回避して、ドーナツ脳でザル通り越して枠なみの情報スッカスカ男では無くて良かった。というか、想定より、遥かにポテンシャルが高く、むしろ学べば学ぶだけ知識を溜め込み、地頭の回転もいい有能な頭と高い運動神経を持っていた。


 まぁ、幼少から、きっちりと努力し、前世の様々な勉強法やトレーニング法に基づき鍛えた結果でもあるが、これは僥倖だった。


 なので、父王に目をかけられ、護衛も兼ねて暗部も側周りも強化されている。前世知識というか、ゲーム情報を利用して、暗部の人間と信頼関係を構築したのが2年前、そして、慈善事業に興味があると父王に頼みこみ、孤児施設への慰問に動向したのが昨年だ。


 間に合って良かった。先手をうってヒロインや悪役令嬢より先にヨルバスの保護に成功した。



 〜〜〜〜



 ヨルバス、姓は無く、孤児院に引き取られた孤児の1人だ。因みにゲーム内の隠し攻略キャラの1人だ。攻略難度とその攻略法の奇天烈さは筆舌に尽くしがたいが。それはさて置き、実はこの孤児院、裏では非合法な暗殺(アサシン)ギルドで、子供たちを暗殺者にし、非合法な仕事に従事させていた。

 実は国家転覆を狙う勢力が関わっており、ヨルバスはその中でも抜きん出て優れた才能を持った子供であるという設定。

 ヨルバス含む襲撃者から、攻略対象を如何に守るかも、乙女ゲームなのに何故か攻略要素のひとつだった。ただまぁ、魔獣とか魔法とか出てくる設定では無かったため、身分の低いヒロインが王太子の婚約者に据えられるには、命がけで襲撃者から身を挺して王子を守ったみたいなエピソードが必要言う事かね、知らんけど。


 まぁ、前世持ちが自分だけとは限らない訳だし、この孤児院は表向きは宗教施設を兼ねた孤児院でしかない訳だけれど、ヒロインや悪役令嬢側が先に接触する可能性は否定出来ない訳で、王子という特権を利用して、出来る限り早く取込みたかったのだ。


 父王に強請ってヨルバスが気に入ったと我儘をいい、無理やり自分の従者候補に連れ帰ったあと、何やかんやと懐柔して、施設の全貌を打ち明けさたのがつい一ヶ月程前、ここまで長かった。


 例の孤児院は王家直属の部隊が送られて、上層の人間は全て捕縛、子供たちは洗脳の度合いや行った仕事の内容などを含めて尋問と再教育を受けさせる予定。まぁ、成人して、教会関係者として裏仕事に従事していた者は可哀想だが、全て尋問後にこっそりと処刑。教会には別の人間が派遣され、今まで通り、宗教施設兼孤児院として運営される。

 王都にそんな物騒な反社会的組織が野放しにされていたなんて事を公表する必要も無いからな。


 だけれど、この一件で父王含めて、周辺の事情を知る大人たちの俺の評価はかなり上がった。まぁ、いきなり孤児院の子供を従者に据えたいなんて我儘言ったと思ったら、その子供を手掛かりに犯罪組織を突き止めた訳で、偶然とは思えないわな。


 まぁ、変な疑いを持たれる可能性も排除出来ないと、良し悪しはあるけれど、これ以上ない手駒が入るのだから、俺としては嬉しい限りだ。


 すっかり懐いている三つ上のヨルバスくんを筆頭に上は18から下は13までの元少年暗殺者集団を手駒に手に入れることに成功した。


 父王にヨルバスが自分から、処刑覚悟で組織の内情の告発があったと訴えると共に。


 「行く当てのない子供を洗脳、訓練し、悪事に使うなど非道この上ない。すでに教会の構成員として、20歳を過ぎて悪事に加担している者は致し方ないのかも知れませぬが、10代を超えぬ者については矯正と洗脳の解除の後、私へ使われる予定の公費を割いて構いませんので、王子の庇護下で保護して頂けませんでしょうか」


 こう、涙ながらに訴えたら、おとーちゃん、号泣して了解してくれた、チョロい。


 さて、そんなことがあって更に3年が過ぎ、隠しキャラでもあるヨルバスくんは16歳、眉目秀麗にして、線は細いが長身で、何と言うか銀狼という言葉がピッタリのイケメンになっている。


 ゲーム内での優秀さそのままに、俺直属の暗部筆頭として活躍してくれている。部下は総勢23名の元孤児暗殺者たちだ。宣言通り、俺の公費からその身を庇護されていることを知っているため、忠誠心の塊みたいな集団な上にとんでもなく有能。いやー、ありがたい。

 まぁ、ゲームを通して世界観や、様々な文化や関係性を知っているため、王家直属の暗部と、俺直属の銀狼隊(安直だけれど、俺命名)の齎す情報を合わせて、アレコレと小銭稼ぎに知恵を出しては献策しているため、報奨という形でお小遣いが入るので、王子としての体面を維持するための出費に困ることもない。


 流石にそろそろやり過ぎていて、じわじわと麒麟児何ていうような噂は出始めているが、まぁ、仕方ない。


 で、どうしてもヨルバスくんを手に入れたかった理由、ヒロインと悪役令嬢の情報を手に入れて貰うことも成功した。


 いやね、忠誠心高くて、口外せずに、二人のことを調べてくれる部下なんて都合良いもの、そう手に入らないからね。そもそも、対象の二人が転生者かどうかなんて、自分が転生者だと打ち明けた上で信用されて、かつ、チェンジリングで自分が処刑されない保障が必要な訳でさ。


 という訳で、俺を盲信してくれている銀狼隊のメンバーにお願いした訳だ。


 結果はなんと、両方黒。不可解な言動や、ある年齢から人が変わったような行動が見られることが報告として上がった。

 決定打は監視していた者からの報告に二人ともに「ヒロイン」「ゲーム」「キラ恋」のワードを口にしていたとの情報があったことだ。



 その上で、言動を整理するに、ヒロイン、レントルフ男爵令嬢カタリナ、悪役令嬢こと、ザクスラント侯爵家令嬢アリスローザ、それぞれの推しもわかった。

 なんと、双方ともに隣国からの留学生、隠しキャラ筆頭のアレクシス・オーウェンらしいとわかって爆笑した。


 「バーガフ共和国の上級理事の子息とはな」


 思わず漏れた言葉にヨルバスは苦笑気味に反応した。


 「我が国の貴族としてはどうかと思いますよね」


 ヨルバスの意見は全うで、正鵠を射すぎているために、ヨルバス自身は困惑を隠せないようだ。


 バーガフ共和国は共和制というよりは社会主義共和制の国だ。前世なら崩壊したソ連や、中国に近い。


 社会主義や共産主義を標榜するだけに、国家元首として、王や皇帝はおらず、貴族などの身分制度もない。選挙による国民参加の議会もある。あるが、議会の立場は恐ろしく弱い。


 13人いる上級理事、このたった13人が国の中枢をしきっており、白葉会と呼ばれる上級理事と彼等に選任された各2名の常任理事、計39名による独裁体制が敷かれた国であり、バーガフ国会議員による、二院、上級院と下級院は総じて白葉会の補佐的な諮問機関の側面が強い組織だ。


 我が国とバーガフ共和国は敵対する関係では無いが、身分制度を持つ我が国と、社会主義を標榜するバーガフ共和国では思想的な対立はある。

 表向き良好な関係は結んではいるが、経済的な繋がりによる利害関係から、相互に協力しているだけで、実のところは、そこまで仲がいい訳ではない。


 アレクシス・オーウェンは上級理事の息子であり、世襲される上級理事のひとつオーウェン家の嫡男として生を受けた人物だ。

 さらにいえば、アレクシス・オーウェンの父親、フェルナンド・オーウェンは上級理事のみで行われる選定にて選ばれた白葉会のトップであり、バーガフ共和国書記長の肩書を持つ、実質的な国家元首でもある。


 ようは共産貴族のトップ、独裁者だ。本来なら平等を掲げ、国民に上も下もなく、国営にて全てが等しく運営され、福祉、医療、教育の行き届きた国家を目指す筈が、一部の特権階級に富が集中し、人権侵害と破綻した国営企業を抱え、覇権主義で周辺を併呑して国家財政をまかなっている、実質的には覇道を行く帝国主義国家であり、フェルナンド・オーウェンはその軍拡を推し進める危険人物でもある。


 その息子と結ばれたいという妄想を吐露する言動を、隠れてしているというのは、そりゃこの国の貴族に仕える身としては信じられない思いだろう。


 「主にこんな事を言うのは憚れますが、(やつかれ)めとしては転生というのは信じがたい思いでしたが、あの二人の言動を聞くに、主の言う転生という事象でしか説明しようがないなと」


 ヨルバスは申し訳無さそうに言うのだが。


 「まぁ、信じろと言う方が無理な話だからな。それは良いんだが、それにしてもなー」


 ゲームと違い、現実として生まれ変わって生活している訳で、ゲームでは語られないリアルな現状を鑑みれば、まず狙わない相手だと思うんだけどなと。


 「まぁ、来年にはゲーム設定通りならザクスラント侯爵家との政略による婚約が結ばれる筈だし、2年後にはゲームスタートの学園生活が始まる訳で、それがどうなるかだな」


 もしかすれば、そもそもザクスラント侯爵家との婚約自体が結ばれない可能性も視野に入れ、更には他の転生者が居ないか、銀狼隊には頑張って調べて貰わないといけない。


 そんなことを考えながらも、時は過ぎていくんだった。



 〜〜〜〜〜




 結果としてザクスラント侯爵家との婚約は父王陛下とザクスラント侯爵閣下との間で恙無く結ばれた。

 初の顔合わせでは俺の後ろで護衛兼従者として控えるヨルバスを見て、取り繕う事も出来ない程に驚いているアリスローザ嬢には思わず吹き出しそうになって堪えるのに必死だった。


 因みにヒロインのカタリナ嬢も、学園で護衛として付き従うヨルバスを見て、やっぱり驚いていたので、改めて二人が転生者であると確信したりした。


 婚約者であるアリスローザ嬢とは良好な関係だ。といって、向こうは終始困惑している様子なのがわかる。俺に転生者なのかと訊きたいのだろうが、言い出せないようだと報告も上がっている。


 カタリナ嬢とは適度に距離を置きつつも、学園の同学年として交流はしている。

 こちらもアリスローザ嬢同様に俺を疑っている。


 アレクシス・オーウェンはと言えば、留学生として、優秀な成績をおさめて、我が国の王侯貴族との交流で人脈作りに励んでいるようだ。

 今のところは婚約者アリスローザ嬢は接点を持ってはいないが、カタリナ嬢はそれとなく近づいて、ゲーム内でのイベントのようなことを再現しようとしているようだ。


 だが、報告として上がる二人の発言は問題で、だからこそ面白くもある。


 「婚約者殿は、このままじゃ婚約破棄イベントがおきないと嘆いておいでで、カタリナ嬢もまた、ヨルバスによる襲撃が無ければ、決定打となる好感度アップが出来ないと嘆いていると」


 報告を見ながら、シナリオを考えていく。


 折角、ゲーム世界に転生したのだ、推しの生の姿が見たいとか、仲良くなりたいという程度なら、咎め立てる必要も無いし、婚約者殿については、俺が婚約関係で特に問題を起こしていない以上は、俺と結婚することを前提にして考えているのであれば、問題無いのだが。

 二人ともがアレクシス・オーウェンと結ばれる事を願うだけでなく、行動を起こしてしまっている。


 「将来、軍拡を進める父に任命され、アルティア方面軍司令として我が国に戦を仕掛け、攻め滅ぼすことを知った上でも、アレクシスと結ばれることを望むなら、彼女たちは今世の故国の民や兵士がどうなろうと関係ないと思っているということだ」


 悪役令嬢の断罪後に我が国の情報と引き換えに助けられて保護され、その過程で恋に発展する設定だが、つまりはただのスパイに成り下がるということだ。

 ヒロインにはアレクシスルートは無かったが、それでも敢えて彼をと考えるのなら。

 それを望むというならば、彼女たちはただの悪女だ。


 

 〜〜〜〜


 「マルドク様、お話したいことがあって」


 そう切り出したのは婚約者殿だ。処刑回避のために立ち回る転生者なのは間違いないと考えている彼女は、それでも俺との結婚は回避したいらしい。

 報告によれば、「中身はどうせ気持ち悪いオタクでしょ、見た目が良くても、そんなのムリだし、やっぱりアレクじゃないとイヤだよね」といった類のことを呟いていたらしい。


 何となくは想像出来るが、相談に乗ることにする。


 「何だろう? アリス。大切な婚約者の話だ。何でも聞くよ」


 優しく微笑んで答えるが、躊躇しているようで、中々に言葉が出てこない。それはそうだろう。十中八九、あなた、転生者? とどストレートに訊くつもりだろうが、罷り間違って、もし転生者でなければ大惨事だし、そもそも転生者だとして正直に答えるとも限らない。

 

 「遠慮することは無い。何でも話して」


 もう一度促してみる。

 引き攣った表情の中に若干の嫌悪が見える。どうせ、優しいフリしてもキモいんだよ、オタク野郎とか思ってるんだろうなーと、少し凹むと同時に面白い。


 「……あの、キラ恋という言葉はご存知でしょうか? 」


 そう来たか。まぁ、無難と言えば無難だが、といって上手いかと言われると、正直に下手こいてると思う。


 「……申し訳ないね。浅学ゆえに聞いたことも無い。後学のために何か訊いてもいいかい? それが話したいことだとすれば、私たちの関係に何か関わることなのだろう? 」


 当然だが、この切り返しは予想出来るはず、そして、こう返されてしまえば、正解の返しなど存在し得ない。何せ、転生者しか知りようのないことなんだから。


 「本当に知らないんですか! ヨルバスを護衛にしているのも、キラ恋を知っているからなのでは」


 あー、キラ恋と言えば、言い逃れ出来ずに素直に白状一択と決め打ちしていたようだ。まさかの知らない発言で嘘をついていると感情的になって、思わず思っていることをぶち撒けてしまったかな。


 「ヨルバスは私が慈善事業のために慰問に訪れた孤児院で出会ったのだ。当時から優秀で私の側周り候補に引き取ったのだが、それがキラ……こいとやらとなんの関係が? 」


 やらかしてくれて嬉しいのだが、若干苛立ち気味に返す。まぁ、よく働いてくれるヨルバスはお気に入りであり、信頼できる従者だ。そこに疑義を突き付けるような話題に聞こえても可怪しくない訳で、ならば怒りを買っても当然。実際、ちょっとはイラッとしたしな。


 

自分の発言をミスったと感じ取ったのだろう。青褪めるが、どう繕ったら良いのか、わからないらしい。あまり追い詰めても良い事もない。


 「婚約者殿はお疲れのようだな。また、今度詳しく聞くとして、今日はゆっくり休まれよ」


 

 退場を促して、その日はお開きとする。ヒロイン、悪役令嬢ともに、俺が婚約破棄を申し出て破滅し、その後にアレクシスとくっついて、復讐と言う名の国家蹂躙&俺処刑を願っているのなら、そして、二人共に俺が転生者である可能性に気付きながら、どうにかその道筋を実現しようとしているなら、自分さえ良ければ良いらしい。


 俺はシナリオを決めた。ヒロインと悪役令嬢、共に同等程度に絡んでいく。

 その上で、側近候補の令息たちには彼女たちの情報を虚実織り交ぜて伝えておく。ちなみにアレクシスにもだ。次期王と、場合によっては父親の影響力で2代続けて共和国書記長の座に就くかもしれないアレクシスは、次代の国家元首だ。水面下での面会をもとめた上で、友好関係の強化のために友誼を結びつつ、自分が(銀狼隊が)共和国やオーウェン家の秘密を握っていることを暗に仄めかし脅す。

 

 二人については身分制度の解体とコミュリズムに嵌り込み、共和国との融和と称した実質的な支配下に入り、我が国を属国にして王侯貴族の権威を貶めようと考える危険思想の持ち主であると、側近候補には伝え、アレクシスには何故か我が国の貴族子女の一部に共産主義や身分制度解体を訴え、秘密裏に組織を作っている者がいるのだが、困ったものだと、暗にスパイ活動で絡んでないよなと釘を刺す。

 俺が彼等の組織の一つを幼少期に潰していることも、相俟って、かなり警戒すると共に敵に回すことを避けてくれたようで、表面上は友好な関係を築けている。まぁ、表立っての交流は今のところは控えているが。



 悪役令嬢、ヒロインの二人は俺のどっち付かずの態度に判断が出来ないまま、メインイベントである卒業パーティーがやって来る。


 学園での俺は表立っては善良で文武両道、国内の財政改革や経済促進に多くの献策を成し遂げた若き傑物として、期待を受けているし、ヒロイン、悪役令嬢共に同程度に関わっているといって、反対に言えば、どちらとも、色恋的な接触は皆無で、下級貴族とも男女の隔てなく、気さくに接して下さると好評で、婚約者に対しては礼を失することなく、適度な距離を保ち、学園の風紀を尊重されていると、こちらも良いように解釈されている。

 勿論、全ては情報操作、印象操作の裏工作の賜物だ。


 現時点で敵対していないと言え、そこまで友好国という訳でないバーガフ共和国から留学生を受け入れている理由も判明した。

 まぁ、情けない話だがハニートラップやら、贈賄やら、利権やらで共和国に与している貴族家と、その後援組織がねじ込んでいるようだ。

 俺が最初に潰した孤児院もその一つで、国内のスパイ組織は調べ上げた上で、裏から手を回して人員の懐柔と入れ替えを行い、二重スパイとして活動してもらっている。


 アレクシス・オーウェン本人にもそのあたりは伝えて、人の国で何やっとんじゃ、ワレと優しく恫喝しておいた。

 彼が送り込まれた目的は貴族子女の思想的な洗脳と、それによる混乱、そして後々の戦争のための布石としての大義名分の獲得と、子供にやらせるか、ソレといったものだが、ゲーム下では成功もする訳だから、突出した能力とカリスマがあるのは間違いない。

 ただ、現状では俺に怯えて、父親に「諦めて、あそこの次代、ヤベー奴だから」と密書を送っているようだ。父親が満を持して作り上げた諜報のための諸々を数年で全て逆に利用するような奴を敵に回したくは無いだろう。


 ただ、まだ利敵行為をしている貴族家も、すでに派閥が出来ている学園内の共産主義者たちも放置で泳がしている。ヒロインは集会に積極的に参加しているようだし、婚約者殿はバレないように代理を出して支援しているようだ。

 二人ともに、というか、参加者全員に国家転覆を企む者はいない、ただ、よくあるリベラル思考に傾倒する若者というだけだ。ただ、本来であれば、それを利用して共和国は我が国を瓦解させようとしていた訳で、監視はつけている。


 証拠は十分に揃っている。関係者には父も含めて説明済み、事の始末は全て一任される形で了解も得ている。


 という訳で、行きますか、いざ卒業パーティー、婚約破棄イベントへ、悪役王子の一世一代の晴れ舞台へと。


 〜〜〜〜〜



 飾り付けられた講堂には卒業生全てが揃っている。祝辞を述べるために父王陛下も会場入りする予定だが、その前、階級順に入場を果たした卒業生の大トリに俺は会場へと入る。

 両手に婚約者殿とヒロインの手を取って、まさしく両手に華状態でのエスコート、前代未聞だ。


 会場の中は騒然とする。そりゃそうだろうな。因みに、婚約者殿、ヒロイン双方に個別に当日のエスコートは申し込んである。当人たちもまさか、二人同時にエスコートされるとは想像だにしてなかっただろう。

 ヒロインなんて、これまで色恋のかけらも無かったのにエスコートを申し込まれて困惑した筈だ。

 それでも乗ってきたのは、婚約破棄イベントのゲームの強制力のなせる技とでも思ったのだろう。単なる俺の悪意だけどな。


 その後、先触れの者による国王陛下来場の宣言があり、ざわめく会場は一旦静けさを取り戻し平伏する。


 おとーちゃんの有り難い御言葉を貰って、俺は一部の者たちだけが共有する予定の通りに、二人の女性を伴って壇上へと上がる。


 「まず、諸君らの卒業を私を含めて祝おうと思う。今日のこの良き日に学び舎を巣立つ全ての生徒に祝福を」


 そう声も高らかに言えば、会場からは拍手が巻き起こる。


 だが、両手に華状態なのだ。異常事態に困惑する聴衆はソワソワと説明を求めている様子だ。勿論だが、脇の二人も、発言の許可が無いために黙して立っているが、そうでなければ矢継ぎ早な問答が展開して可怪しくない状況で、俺は何食わぬ顔で卒業のスピーチを繰り広げる。


 「あー、そう言えば説明がまだであった」


 スピーチの最後、今思い出したという風情で話し始める俺に、スピーチ以上の注目が集まり、笑いそうになる。


 「まずはアリスローザ・ランドクリフ嬢との婚約であるが、これは正式に王家により解消と相成った」


 聴衆が固唾を飲み、押し黙るが、その表情は驚愕に満ちている。表情を繕うことも出来ない程の衝撃のようだ。婚約者殿も驚いているが、隠している喜色が漏れ出ている。ヒロインは不安そうな顔をしている。


 「次にカタリナ・レントルフ嬢であるが、この場を借りて言うことでは無いのだが」


 ここで言葉を切った俺に、もしや婚約の申し出なのかと静かなざわめきが広がり、ヒロインは絶望の色が隠せないようだ。安心して欲しい、ヒロインにはもっと酷い絶望が待っている。


 「国名は明かせないが、他国の諜報組織に与する派閥へと参加し、積極的に活動していたようだ。我が国への侵攻作戦も進められていた形跡がある。王家ではすでにこれらの組織の粛清の準備が整っている。晴れの日に言うことでは無いのだが、この機を持って事を清算することを国王陛下も理解してくださった。階級制度に異を唱え、秩序の破壊を目論む者がいることは知っている。会場は国王陛下直下の部隊に出入り口を固められている。下級生たちや、その家族はすでに収監済みだ。王太子マルドク・ティ・ドゥ・アルティアの名において、罪人の捕縛を命ずる」


 その瞬間、会場に雪崩込んだ兵士たちにより、コミュリズムに啓蒙された若者たちが次々と捕縛され、会場から連れ出される。

 その数は全体の四分の一程に及んでいたのだから驚きだ。


 「婚約の解消については、ランドクリフ嬢、貴女もこの集会に支援を行っていることが判明していたからだ。集会の代表として、釈明があるのなら、双方に伺おう」


 突然の出来事に呆気に取られていた二人は、俺の顔を無言で見ていたが。


 「どーいうことよ! こんな展開ないっ、アンタ何がしたいのよ。国のために皆で話してただけなのに、なんで犯罪者あつかいなのっ! 」


 堪えきれないといった様子でヒロインが叫んだ。

 衆目には意味不明な言葉の羅列だが、父王含めて、「二人の令嬢が何者かに精神を乗っ取られている」との説明をしてあるため、一部には俺の言葉の裏付けになったろう。


 「何を言ってるのか、わからんな。階級の秩序を、特権を得ている者が進んで破壊しようというのも解せなかったが、やはり外法により精神を乗っ取られているようだ。外患誘致と言えばわかるか。そなたらはこの国に害を齎そうとする者たちの伏兵となっていたのだ。外法が解けるまでの間、拘束し治療にあたらせるよりないようだ」


 その一言で元婚約者とヒロインは脇に控えた兵士に拘束され、連れ出された。

 何やら喚いていたが、関係ない。


 俺が悪役王子というのなら、この悪意あるゲームを尽く破壊する悪役として、お前たちを断罪するだけだ。

 先に俺を陥れ、破滅することを良しとした自分を恨んでくれ。




 〜〜〜〜


 

 卒業パーティーのあとの混乱はすぐに収束した。するように計らっていたから当然だが、スパイ容疑のある者は全て捕縛され、関係の如何で法に照らして処罰した。

 お家が断絶になった者もいたが、仕方ないだろう。


 王家の直轄地がかなり増えてしまったが、手に負えるものでも無いため、遠縁を辿って新たに家を興して爵位を与え移譲することになる。


 学園で共産思想に染まった者については、お家そのものがスパイに関わっていた者を除けば、再教育の上で敢えて登用することにした。優秀な者が多かったからと、あくまでも父王の政策として行うが、改革により人手が足りなくなるためだ。


 結局のところ、他国に介入されたことも、それに多くの貴族家が関わったことも、長い封建制度の社会が緩やかに崩壊しつつある事に他ならない。

 近代化と工業化で、旧来の貴族の荘園統治は莫大な赤字を生み出し、多くの貴族を困窮させ、没落させている。

 王都を中心に王家がモデルケースとして、都市改革、政治改革を断行する。王宮に集中していた権限を緩やかに移行し、民主的な市民議会を立ち上げる。

 貴族院、市民院の二院制は当初は王家の諮問機関として、権限の小さなものとして始めるが、それでも議会と王家を支える官僚機構の構築は身分関係なく多くの人材の登用と、大きな政府の構築、行く行くの中央集権化に役立つ筈だ。


 アレクシスとは友になった。


 「なんで俺は野放しなんだ。スパイを根絶やしにするなら、先ずは俺だろう」


 こう言われたが、まぁ、現状では利用された子供であるし、バーガフ共和国側の書記長と現時点でやり合うのは得策でもない。

 

 「首輪もつけた。格付けも終わった。なら、友好的な関係をつくって、隣国を強化し、のちのちは同盟を結んで強固な軍事的援助を得る方が助かる。第一に俺の治世で戦争仕掛けて勝てるとは、お前は思ってないだろ」


 そう笑ってやれば。


 「当たり前だ、誰がお前みたいなヤベー奴と戦うか、親父に懇々とムリムダと、あんなのとやり合うなんてアホと説教したわ」


 思わず大爆笑した俺に呆れるアレクシスだったが、共和国が強大な軍事力を持っているのは事実だ。

 だが、戦略物資としての鉱物資源もエネルギー資源も食料も不足している。継戦能力には疑問しか無い。

 だからこそ、調略による混乱で一気に決める予定だったのだ。我が国の潤沢な資源と広大な農地を狙って。


 だが、もう共和国は我が国に勝てない。

 社会主義構造が限界を迎える中で、アレクシスにも改革の旗頭になってもらう。経済特区での限定的な資本主義の導入やら、腐敗した上級理事による独裁の解体やら、そして、議会の権利を強化し、その上で民主化と共に初代大統領に担ぎ上げる目論見だ。

 実質的な我が国の属国として、同盟関係を結び、アレクシスとの間で不均衡な条約で我が国の利益を確保する。勿論、共和国側も栄えさせ、問題解決のために尽力はするが、全ては我が国のためだ。


 「ホントにおっかねー奴だよ。あの2人なんて、別に恋愛脳で悪いことなんて考えて無かったろ。他の生徒は家絡みじゃなきゃ許してたってのに、なんで処刑なんだ」


 アレクシスが俺に訊いてくるが。


 「元婚約者は仕方ないだろ。少なくとも王太子妃となる予定の人間が、他国に与していた疑惑を持たれた時点で毒杯呷るのはそういうもんさ。男爵令嬢は見せしめだけどな」


 そう言って笑う俺に、両腕を抱いて身震いするフリで大袈裟に怖がるアレクシス。


 「おーコワコワ」


 そんなことを言って巫山戯るコイツも十分怖いんだけどな。

 


 「仕方ないだろ、俺は悪役王子だからな」


 なんだよそれ、と爆笑するアレクシスを見ながら、俺は今世の責務の重さを跳ね除けて、国を良くすることに邁進すると、こんな男を転生させた意地悪で性悪なナニカに向け、笑いかけるんだった。



 

 


 

 

感想お待ちしておりますm(_ _)m

щ(゜д゜щ)カモーン


素直に普通なテンプレストーリーを書けない捻くれ者で申し訳ありません(笑)

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― 新着の感想 ―
 両プレイヤー共にバッドエンド。  普通の現実はこんなものでしょう。ああいうのは物語やゲームとしての補整というかシナリオの強制的があるから成立するわけですから。  というか、メタを語るならこの作品の主…
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