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11万人いる! ー セントメディウムの捕囚民   作者: キタボン


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2ー02 穏やかな暮らし




 ひと仕事を終えてユディより早く家にいると、入り組んだ家々の狭い道を、町長の息子とその仲間たちが荷車をひいてきた。


「ムズクム! 小麦かナツメヤシはないか」

「あげられるほどはないですよ。なんですかアッガさん」


 どの家も暮らしはきつい。お金があっても食い物が手に入らないこともあるので、お互い分け合うことが習慣となっていた。町長の家は裕福なのに珍しい。


「町内徴税だ。金銭ならばっちりだ」

「また?」


 王が変わってから税が増えた。あれこれと細かくみつけては徴かに取り上げられる。帝国への貢物が大きいだろうけど、神殿の修復にも金がかかる。神に貢ぐのはしかたないが、戦に勝てなかったのは王なのだから、自分でどうか工面しろと言いたい。言えないけど。


「今度はなんです」


 王家の園遊会や、コロシアムの運営費用に注ぎこまれてるという。理不尽だ。


「土木労務の給金だ。亜麻布でもサポーでもなんでもいい、数を集めんとならない。ないとなれば……」

「布なんて……。レンガ片くらいしかないですが」


 麻袋で2つ分くらいある。欠けた壁の修復に使おうと、道端に転がってる破片を拾い集めたのだ。


「レンガだと? 布でも食材でもないぞ」

「それくらいしか」


 石灰と火山灰もある。混ぜて少量の水で固めれば『こんくりーと』という健在ができるとシロウに教えらえれたので試そうと集めたのだ。ややこしくなるので言わない。


「うーむ。建築資材とでも言ってみるか」


 税は、いくつかの中から選べた。金や銀や鉄などの貨幣。作物、絹や布、羊などの物品。一定期間、労働で奉仕する労務。女や子供などの人を差し出す奴隷がある。

 金も物もない貧乏人には選択肢がない。人を出すしかないが、働き手が減るのは困るから、子供で支払われる。僕に子供はいないから、奴隷に落ちるしかなくなる。


 兵役を解除されて奴隷から市民に戻ったのだ。矢や槍の恐怖から解放されたかわり、保証されてた衣食がなくなり、税に苦むのは皮肉か。とはいえ奴隷に戻りたくはない。


「ばかめ。奴隷なら妻に決まってる」

「殴られたいですか」

「おお怖っ。冗談だよ」


 税は町長や、祭司の屋敷に集められ、徴税官がチェックしてから王家に運ばれる。徴税官の取り立ては厳しくて、不足すると、みぐるみはがれる。大槌で家を壊していくこともある。払わないとこうなるってみせしめだ。


 レンガ片を積み込んでアッガたちは、隣の家の戸を叩いた。


「おーい、ゲリィ! シアミム! いないのか」


 戦に負け、属する大国がサハランからビロロンになった。王も変わった。根本のところは変わらない。暮らしはきつくなるばかりだ。昔はよかったと年寄りはぼやくが、どれだ昔のことを言ってるんだ。


 生きていれば腹が減る。食うために仕事をする。僕の仕事は、荷車を使った荷物運びだ。一度の取り分は少ないので数をこなす。飯のタネの荷車の車輪。折れたスポークをみつけて直す。馬かせめてロバが欲しい。老ロバでいいのだが高くて買えないでいた。


「かえったぞムズクム」

「おかえりユディ」


 仕事から帰ってきたユディが抱きついてくる。健康的な腕がチュニックの半袖から伸びる。僕たちは数か月の婚約期間のあと、隊長のごり押しで結婚した。


 結婚の儀式は、花婿が贈物を持って花嫁の両親の家に来て、婚姻を結ぶならいだ。親類縁者をあつめてる宴を行い、そこでみんなから夫婦とみとめられる。


 僕の家族は殺された。ユディは、父が殺され母は行方知れず。住んだ家は王族に接収された。行ってみたユディの家の前には、壊れた箱が、放り出されていた。中身はユディの服や、子供のころに遊んだおもちゃたち。それが輿入れ道具になった。儀礼も宴はしなかった。


 結婚はたいてい18くらいまでだけど、僕は16でユディが14歳。早いんだけど、戦で人の数が激減したせいで、早い結婚が流行してる。王族や職人など、主要な人が8000人も帝国の捕囚だ。再建に人が欲しい。産めよ育てよの風潮が巻き起こって、年頃になった若者は、周りに急き立てられる。2つ上の知り合いが苦笑い。生産家畜かよって。


 ますますキレイなっていくユディ。キレイすぎて目立つのが悩ましい。結婚した女性は髪をそる。かつらかショールで頭を隠す。魅力的な髪を切るのは、慎ましくする、誘惑を跳ねつねる意味がある。


 ユディは髪を剃らない。わざわざ剃ってかつらを着ける意味がわからないそう。戦場にいた習慣で邪魔になるからとショールもつけない。キレイむき出し。視線に疎すぎる。帝国のやつに浚われやしないかも、心配だ。


「誘惑にひとさらい? なにをいう。こんなわたしを好むのはムズクムくらいだ。もしさわれても撃退してみせる」


 頼もしい妻をもって嬉しいが。どれだけ男の目を引き付けているか。魅力的な女性だと、自分でわかってない。


 日干し煉瓦の古い家。力をあわせて生きてる。なにもないが、2人きりの暮らしは暖かかった。税や神や、他所の男なんかに、壊させやしない。父が母を守ったように。


 ユディの仕事はお手伝い。頼まれごとを細々とこなして稼いでる。お届け物と買い物代行が多い。羊の世話や、乳しぼり、畑だって手伝う。男とくらべて女は安く働かされけど、わずかでもありがたい。


 常識にとらわれない。パワフルな腕っぷしもあてにされる。ケンカの仲裁や泥棒を捕まえるのは、|まとも<・・・>なほう。『見境なく請け負う方針だ』と、口を引き締めるが、それは方針っていわない。


 抗争に加担したことさえある。


 日照りがつづいて一部の川が干上がったときのこと。隣同士の村が水を争ってもめて抗争へと発展。そこに一時雇いの兵士に、男だと偽って志願したのだ。


 国の治安は、帝国兵が警吏を務めてるが、これがかなりいい加減。彼らは、安全を守ることもあるが、乱す場合も多かった。騒動を大きくしたり、事態を納めた報酬を要求したりする。

 でもそのときの介入は正当だった。なんとかいう、エライ副官の命令で、新しい水路をつくると約束して抗争は収まった。


 ユディは「賃金をもらえなかった」とうなだれてもどってきたが、無事でほっとしたものだ。


「危ないことはしてないだろうな」


 だきしめ返してやったら、『それは夜だけ』とつっぱねられた。





 夜の事情について。


 経済的にも肉体的にも未熟な僕たちは、子供をさずかる行為―― どの夫婦もするらしい何か ――はしてない。毎晩、同じベッドで手をつないで寝てる。何をするっていうんだ。教えてくれそうな大人も、友だちも、みんな死んでいない。


 シロウに話したところ、『それでも夫婦かよ』と、呆れられたとか。


『師匠がこっそり教えてくれたんだが。こんなことを、するらしいぞ』


 ある晩。彼女はそういって――


『え、ユディそこは……』


 ――手でなぐさめはじめたのだ!


 驚いたのなんの。

 あそこをうにゅうにゅされて……なにかが、気持ちよく噴出した。


『なななな、なんだこれ』

『…………子の元だって、師匠が』

『え。なんの?』


『こんなことは序の口……だ、そうだぞ』

『ええええ?』


 まだこの先があるという。


 次の日からしばらく、僕たちは目を合わせることができなかった。世の夫婦はなんで普通にいられるのか不思議だ。


 それからというもの、『今夜はいいのか』とたびたび聞いてくるので、お願いしてる。彼女なり嬉しい行為らしい。これが性のとりこってやつか。僕はユディの奴隷になった。


 頬が染める理由は、恥ずかしいのか|腕の運動<・・・・>かは不明。彼女自身は、欲求が湧いてこないという。まあ。幸せなので満足してる。むしろ、変態夫婦な気がしてるが。知恵を授けたシロウに感謝だ。






「隊長はどうだった。寄ったんだろ。シロウは?」

「隊長はますます老け込んだ。酒と女が足りないせいだって、自分で葡萄酒をつくって飲んでる」

「年金が減って酒場に通えないか」


 功労軍人が王国からもらえる年金は、半分に減らされた。食うには十分だが、遊び歩けるほどではない。それでも、もらえるだけましだ。下級兵などはわずかな一時金で厄介払いだし。僕なんかゼロで放り出された。隊長は足を負傷した。歩行困難者が就ける仕事はないに等しいんだから、不平をいわず細く老いろといいたい。


「師匠は楽しそうだったな。最近は文字と数字をならってる」


 いろいろ教えてくれるシロウを、ユディは師匠呼びする。戦術にしらなかった常識や、これからおこりうる世界の流れまでも、ウソかホントかしゃべるというなぞな奴隷だ。


 最近の予想は、もうじき戦がおこるとか。すぐ鎮圧されるが歴史的事件がおこるとも。そこまで断言しておいて、具体的なことはなにもだ。ホラだな。


 こんどは文字と数字。うん。歴史的事件の予想よりは実用的。


「でも文字ならユディは読めたよな」

「くさび文字じゃなく北西国から伝わった文字。主流になるから覚えておけって」


 嬉しそうに地面に書いたのは、丸みと直線を組み合わせた26の柄だ。1字には意味がないかわり、長いつづりでなんでも伝えられるという。わけわからん。

 数字のほうは、なんとたったの10コしかない。


「あっはは。からかわれたな。数ってのは60で繰り上がるんだ」


 数字は右手の指の関節で数えるもの。1本で3つ。ひとさし指しゆびから小指まで、12になれば、左手の指を1本折る。これを5回で60だ。


「そんなことはないぞ」


 ユディが指を折って数えてみせた。


「繰り上がりは10。これは10進法というんだ」

「じゅっしんほう??」


 10で桁があがるから、10こで足りるんだと。指を折って5までいったら立てて戻していく。片手で10になったら、左手の指を一本折る。


 僕らの計算は60進法っていうらしい。わからなかいので、何度も聞き返すと。


「もういいっ。ムズクム覚える気ないよな」

「ごめんごめん。いやすげー合理的なのはわかるから」


 とうとうスねてしまったので、わかったつもりでなだめた。でも50までしか数えれないなら、『60しんすう?』 のほう上等だよな。


 ところで、いまのシロウの|主<あるじ>は隊長だ。所有物である奴隷は売り買いされる。犯罪者や戦争でまけた国の虜囚は奴隷市場で。借金で見落ちした者は金をかりた家。僕のように国に売られるケースでは、軍や王家に使われる。


 奴隷の値段はピンキリだけど、ひと財産だ。捨値でもボロ家くらいはする。財産のない年金生活者に買えるわけないのだが、隊長は主となった。イーツァ・ゼツァイムがんばったおかげだ。


 もとの主が捕囚されたそのどさくさに、手をまわし、シロウを隊長に譲渡すると記した粘土板の書類を作った。それってふつう、偽造っていわないか。


 イーツァ・ゼツァイムは王家の血を引く子供。監視役という名目で戦場に送られた。人身御供といえるが、人身御供になれるくらい身分が高い。

 たたき上げの隊長とイーツァは、祭司が言い渡した命令を、都合よく解釈。シロウの奇策が用いることで生き延びられた。

 自分を小司とよぶ、手クセが悪い祭司を思い出す。譲渡の書類はあいつなりの感謝なのかもしれない偽造という手段がいかにもヤツらしくて笑える。


 夕食をたべる。乾燥させたナツメヤシをまぶした大麦のパンと野菜の煮込み。たまには羊肉をたべたいが贅沢は敵。


「ムズクムたまには外で食べないか。明日は安息日だ。神殿で礼拝したあと朝市をみてまわろう」


 安息日は、ユディが決めた休む日のこと。神は休まないのだから、決まった休日というのはない。6日働いて1日休む。大地の日をそこにあてている。指が5本だからわかりにくいけど、太陽の日、月の日と7日周期にあてがわれてるので間違いようがない。僕も付き合って仕事をしない。


「いいな。屋台で羊肉をたべよう」




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