02-01-2 ぶらアイサッタ
3人の従者をともない市中へ繰りだしたアイサッタ。
使い手を自負する槍は持たない。平和な市井でなにがおこるというのか。万が一のときは頼れる従者がいる。
平和だった。このときも帝国は、ラム・ナハラ全域を支配すべき、戦をしかけてるのだが。少なくともセントメディウム王都については、平和だった。ぬるま湯だと自覚してる。
露店の活況な大通りでは、ありとあらゆる店が、道行く人を阻むように、ジグザグに居並ぶ。どの店にも買い物客があふれ押しのけないと進めない。食料は、さばいたばかりの肉や採れたて野菜のほか新鮮な魚介類実があった。ヒツジやヤギの肉は帝都でも新鮮だが、干物以外で海産物はみたことない。
「らっしゃーい! 獲れたてばかりだよ」
タラ、マス、ヒメジ、タイ、カレイ……。水揚げされたばかりの鮮魚があるのは、内海に隣接するセントメディウムならでわだが。セントメディウムでは、食べてはいけない海産物がある。
カニやエビや。ウロコがなかったり、ヒレがない海の生物は食べてはないけない規律だ。ウロコがない理由で貝も禁止。そこらの川でも採れる食材なのだが。豚や馬など、陸上の肉にも規律はおよぶ。食に頑固な神である。
ふとおもいついて、従者に問いかけた。
「タコをみてみたい。どれがタコがわかるか」
「あの、干物タコですか。さあ?」
帝都でぶらりとはいった飲み屋で食べた干物の美味さに驚いた。足だらけで骨のない海の化け物だとか。リーディア産という。海に近い王都なら売ってるだろう。
「おやじ、タコはどれだ」
「タコぉ?」
露店のオヤジが、ひかえめに睨む。
「おっと、帝国のかたですかい。失礼ながら、人の食うものじゃありませんぜ」
口にだすのも汚らわしいと、厳つい肩を震わせる。だめということは、ヒレとウロコがないのだな。ますます姿かたちが気になってくる。
「売ってる店を知らないか」
「へ。西の田舎ならあるんじゃねぇっすか。たまに獲れたやつを買っていく物好きがいるんで。どうしてもっ欲しいってんならリーディアだ。生魚喰いなら間違いねぇ」
セントメディウム人は、リーディアを生魚喰いとさげすむ。生でも食べられるくらい鮮魚なのだろうが。禁じられた物を食べる異国の民が不気味なようだ。
「ないならいい。そのマスをもらう。切り身にできるか?」
「まいど。もちろんっす。塩をもむかい?」
「頼む」
店主は慣れた手つきでマスを3枚におろしていく。食事は料理自慢の妾たちが作るが、最近はラム肉と野菜のシチューばかりだ。帝国の家庭料理を教えると気に入り、連日作って出すのだ。工夫して毎日違う味だ。美味いのだが、さすがに飽きてくる。
従者が、代金を支払ってマスをうけとる。
アイサッタが鼻歌を口ずさむ。ビロローン人なら誰もが知ってる子守歌だ。
「上機嫌ですねアイサッタさま」
「今夜はマス料理だ」
「拒否されやしませんか。制限だらけ国民ですよ」
「規律か。子羊肉と親の乳を一緒にするなという。魚は乳を出さんから拒否しないだろ」
独特な匂いが鼻をくすぐった。先の露店からだ。
「香しい、この薫りは」
人の波を押しのけ、その屋台へ近づいた。やはりスパイスだ。屋台の飾りは派手な金銀。ここまで金をかけて装えるのは、帝国の商人だ。粉末のもの、木の根にしかみえないもの、粒や豆状のもの。アイサッタは黄色いスパイスを指さした。
「このカルクムはいくらだ」
「小さじが金貨1枚でございます。旦那さまは帝国幹部でございますね、特別に半額でお譲りしますよ」
露天商の激しいもみ手。いまにも煙がでそうだ。
故郷でもスパイスは高額だが、大匙一杯なら銀貨2枚。異常な高値だ。
「ぼりすぎだ。帝国なら指一本で買えるぞ。銀貨1枚」
とりあえず告げてみた。あり言えない安値で。
「いつの値段でしょう幹部さま。いまは帝都でも高騰しております。銀貨7枚」
「強情なヤツめ」
「幹部様ほどでは」
商人の目が光り、アイサッタを好敵手と認識した。アイサッタまた闘争心に火がつく。
交渉の火蓋が切って落とされた。
「見ての通り、従者のめんどうも見なきゃいけない。幹部も大変なんだ。銀貨2枚」
「サハランなら金貨3枚はしますぞ。従者をお連れする裕福なら、商人を助けてくださいよ。銀貨6枚」
「自分は家族が多くてな、育ち盛りの子どもが、たくさん食うんだ。銀貨3枚」
「養う家族ならわたしにもいます。首を吊れというんですか。銀貨5枚と銅貨5枚」
「自分に恩と売るといいことがあるぞ。銀貨5枚で手をうとう」
露天商はふぅーっと、天を仰いだ。
「幹部様には負けました。仕方ありませんな。ご入要はいかほどで?」
「大瓶でふたつ。サーイェ通りの3番地まで届けてくれ。代金は王家の財務にツケ。アイサッタといえばわかる」
大瓶なら大匙が30杯はいるので、金貨75枚だ。2本なので150枚にもなる。商人はもみ手を加速した。
「おおっ 次席将校のアイサッタさまでしたか。失礼いたしました先の戦いでのご活躍、かねがね伺っております」
「兵の損耗を減らしただけだ。浪費が嫌いな質でな。配達よろしくな」
「ははっ。今後ともごひいいきに。あとこれを」
そっと2枚、金貨を握らされた。
それから、露店を冷やかしながら、何を買うてもなくぶらぶら歩く。しばらくして腹が鳴ったので、人数分のイチジクを買い食い。そのまま市中をねり歩いてると、今度は喉が渇いて水売りから水を買って飲んだ。
「スパイスはいいですね。故郷に帰りたくなります」
「お前たちにも分けてやる」
「いいのですか。ありがとうございます」
我がビロロン帝国が、セントメディウム王国を支配して3年あまり。戦場となった王都メディウムの復興が、すこしづつだが進んだ。落ちぶれた街並からみすぼらしさが減り、散策の目をなごませるくらいには、マシになった。
まだまだモノの値は高いが、あふれる人で通りはにぎわい、露店が活気づいてる。
こうした散策は無駄なようだが、いまの市中を知るのに必要だ。それに、気分が良いと、神のご加護を受けやすくなり、運も上がる気がする。そういうときは、楽しい出会いがあるものだ。
「あっちは神殿だな」
人の流れは、都の中心、神殿へもむかってる。セントメディウムは|ラシャイ<天の神>、|マバック<戦いの神>、|シャムカ<幸福の神>の3柱。民や奴隷は神殿に祈りを欠かさない。信心深さは帝国以上かもしれない。
セントメディウムで死者は|ゲヘノム<地獄>に落ちるとされる。|ゲヘノム<地獄>は不届き者は特別な番人に送られる。犯した悪事ごとの苦しみで穢れが落とされ、更生するという。ある意味、公平な神といえる。
戦いに敗れた神を癒す神でもあるという。ならば、付きそう信者は地獄の住人か。
|ラシャイ<天の神>以外の神への祈りを、現王は禁じた。|ゲヘノム<地獄>ほか3柱の神はすたれつつあるが、供物を捧げる民はいまもいる。
「帝国の神にまさる神はいないのに、ご苦労なことだ」
天界の力関係は下界におよぶ。脆弱な神の地に生まれたことが不運。|帝国<うち>の重税によく耐えていると感心する。死ぬまで働いて納めるがいい。
「帝都。皇帝のお気がかわらないかぎり、帰れないな」
皇帝の気が変わることは、まず起こらない。この地に一生、とどまるのは決まったようなものだ。悲観に暮れる部下もいるが。アイサッタは悪くないと考える。
帝都じゃ下っ端参謀だが、ここではナンバー2だ。気ままに権力をふるまえる。酒や女に不自由しない地上の楽園。いま甲斐性でも、あとひとり妾を増やせる。
「私は国に帰りたいですね。女房が待ってるんで」
こいつモテるんだな。
「忘れてこっちで作ればいい。セントメディウム女も悪くないぞ」
「いい子なんでもったいなくて」
「ならば呼び寄せろ。路銀くらいはだしてやるぞ。王家の金庫からな」
「いいのですか。本当に呼びますよ」
「いいぞかまわない。だが期待するな、良い子なら、新しい相手がいるかもしれん」
「いえ、ぜったいきますよ。彼は、私にぞっこんですので」
「彼……?」
「ええ! 毛深い胸板が最高なんです」
男好きだったのか。
「……がんばれ」
足が裏地へとむいた。食堂や酒場や、娼館が並ぶ繁華街だ。サービスの甲乙はあるものの、その全部を兼ねた店もある。時間が早いせいか、女と遊べる宿はまだ開いてない。
騒ぎがおこった。
「へ、兵士様。飲み食いしたお代を……」
「負け犬の不味い酒を飲んでやってんだ。せこくせびってんじゃねぇ! おれらは帝国へいだぜぇぃ。ヒック」
「せこいのはどちらですか。お戯れを」
店の前えで怒鳴り散らす男たちは、泥酔した帝国兵。店主らしい小男が、お代をください、とすがりつく。兵のひとりがその顔を蹴った。のけぞった店主の鼻が折れた。鈍い音。しつこく殴るけるを繰り返す。建物の窓や戸が閉じられていく。通行人が途絶えた。
見物の野次馬は、はじめからいない。民は暴力に関わりあいたくない。兵と目があって、因縁をつけられてもたまらない。敗戦の民は理不尽を飲み込むことしかできない。
「これだから教養のない荒くれは」
所業が分かりやすいバカどもに、アイサッタは、あくびをかみしめる。
大好きな英雄とは真逆の存在。他文化への畏敬も、経済の仕組みも理解せず、ただただ、その時を刹那にいきている連中。
戦場にありふれたタイプといえば素敵である。命を張った向う見ずの武勇は、ときに膠着を打開するが、逆に言うと、戦い意外では用途が少ない。早死にタイプは散るほかに価値はない。
「アイサッタさま。殺しますか」
「元気をもてあますからああなる。戦場に送って、死ぬまで突撃させる」
「取り押さえます」
次席の従者が、腰に巻いたショールをベルトで押さえなおして、一歩ふみだした。荒くれ兵士の5人程度、従者ひとりでじゅうぶんだ。そのとき。
「弱い者いじめはすておけないなっ!」
「まて。愉快なヤツがでてきたようだ」
アイサッタは従者を止めた。
颯爽と現れたフードをかぶった人物。顔をかくしてるが女だ。鼻息をふんすと吐いて、兵士たちを指さした。
「強さにおごり悪事を働くとは、帝国の神がなくぞ」
「あん? だれだてめぇは」
「誰って? ……えーと……そう、通りすがりの平民だ!」
小さな女が胸を張った。ホントに小さい。子供かもしれない。酔った兵につっかかるとは。命知らずな兵。そのさらに命知らずだ。
「……通りすがりの市民だそうです。アイサッタさま」
「締まらないな。口上を極めるなら、通り名くらい考えておけ」
「メスガキめ。イタイ目を見て泣きわめけ」
格好つけてとびだした『通りすがりの平民』。煽ったのはいいが、動く気配がない。足がすくんで動けないのか。義憤にかられて飛び込んだけれど、強そうな兵に囲まれてひるんだようだ。
市井のケンカをオモシロく見物したかったが。後味悪くなりそうだ。早く逃げないとやられるぞ。
「かなりやりますね、あれは」
だが従者がうなった。
「あれが? 女だぞ。まさか」
「視線と手の動きだけで、酔っ払いをけん制してますよ」
「視線か。なるほど」
囲んでる酔っ払いが、襲のをためらってる。全員が反撃を予期して、軽々とは手が出せくなってるのだ。
「て、てめっ」
一番若い兵が剣を抜いた。そこからは、従者が言ったとおり、少女が活躍した。
空中殺法とでもいうのか。みたこともない軽業で胸を蹴って倒し、股下をかいくぐって金的に拳骨。つぎの瞬間には、べつの兵の頭部を足に挟んでひねって気絶させる。腕をひねりあげて投げると、その足を最期の兵のみぞおちにあてる。
「あれは噂にきいた短髪女兵かもしれません」
「短髪女兵? 先の戦で活躍したという弓隊の英雄か」
みるみるうちに兵たち鎮圧された。「これではぼくが弱い者いじめだな」兵の懐に手をいれて、もっていた金品をひきぬいて店主に渡した「ではこれで」と行こうとしたが、とまって振り向いた。
「セントメディウムから世界へ」
指を天に掲げて言った。
「?」
意味するところがわからない。
征服または遠征のことか。それなら、ビビローン歴代最強で皇帝となられた王が成そうとしてる。小娘が掲げていいスローガンではない。冒険のことか。世界の未踏の地を尋ねる旅を。裏町の片隅で、叫ぶのは何故だ。
アイサッタや従者、蹴られて鼻の折れた店主が、砂漠で踊る魚を見るような目で、不思議な少女のを、みつめた。少女が今度こそ去ってしまっても、ぼーっと考え込んだ。
速い足での走り去りに気づいたのは、路地を曲がってからのことだ。
「面白いやつがいるな。居所をつきとめろ」
「え……はっ」
兵たちは折り重なってうめいてる。派手にぶちめされたようにみえて、怪我を負ってない。戦場を生きた兵が負けた理由は泥酔だけではない。本当に手練れだ。
店主から貴重な水を買って、気絶してる兵の頭に、ぶっかけた。
「ぶっはぁ、なにしやがる」
「おはよう。起きたか」
「だれら、てめ……無……いやアイサッタ・ナハナン副長!」
兵たちは、アイサッタに驚いて立ち上がった。
「無慈悲と言いたかったか」
「あ、いえ」
「広場へむかえ。駆け足」
「ぜ、全員整列! 一列渋滞! 駆け足!」
整列すると、ふらつきながらも駆け足で、広場へ向かった。
「材木店で杭を買ってこい。それと大槌も」
アイサッタは、身近な木材屋から2mの太杭を5本、1mの短杭を10本買ってこさせた。大槌で太杭一本を地面に打ち込ませると、それに2本の短杭を斜め、×状に打ち込む。3本を縄で強固に縛った。びくともしなくなった。
「はぁはぁ……ふ、副長、できました」
「うむ。自分はひまを弄ぶ貴様たちを、南部戦線へ送還するつもりでいた――」
「ぜ、前線ですかい? そりゃ願ったりでさ。暴れたくてむしゃくしゃしてたんです」
「――つもりでいたのだが、気が変わった。5人とも、杭に背中をつけろ」
「え、はい……」
兵は素直に従った。
従者は兵の剣を取り上げると、杭に密着した体と腕を、杭にしばりつけた。
「これで、どうするんで?」
「通達したはずだ。働く民から奪うのは禁止。飲み代を踏み倒そうとした理由を言え」
「そ、それは、その……そうだ。飲み屋のヤツ、やたら高い料金でして」
物の価格はあがってる。高額な税のせいで物が不足し、品物の価値があがったせい――なのだが、それは数年前の一時的な現象。いまは、帝国も王都も安定してる。インフラ中心に金を落としてるので、当初よりも低い価格て落ち着いていた。
料金が高いというなら、価格転嫁が遅れてるのだろう。あの店は、酒と料理がうまいと評判の、兵たちに人気の居酒屋だ。高いとしても、せいぜい3割増しがせいぜいだろう。想定できない金額ではない。
「たかが飲み屋が高いというお前たち。軍の賃金に不満なようだな。そこらの店で飲み食いができないほど、帝国の賃金は安いらしい」
払う銀貨に不足はない。民ならば家族が2月暮らせる。足りないのは博打にスってオケらだからだ。
「そんなことは……、あの、そうだ。メスガキが、おれらの金を奪って」
兵はほかの言い訳を考えた。
「盗まれた金を奪い返そうとした? 盗んだようにはみえなかったがな」
「……ちがう、盗まれたんです」
「うんざりする言い訳だな」
兵はだまってしまった。
「貴様がたちは帝王に恥をかかせた。軍令を破ったうえに、帝国は貧乏だと吹聴した。ウソにウソを重ね、なすりつけた丸腰の少女に、手も足もでない。武で鳴る帝国兵が、剣を抜いて惨めに負けるとはな。皇帝陛下も鼻が高かろう」
通達違反。喰い逃げ。無抵抗な店主に暴行。帝王の侮辱。貧乏宣言。子供に惨敗。指を折って数えれば、罪とふがいなさが、5つを数える。尋常ならざる罰を与えるしかない。
「そんなつもりぁなかったんす! 弁償しろっていうなら金はあります」
アイサッタは、あるのは祖国の石柱を脳裏に浮かべ、刻まれる282条の法典碑のうちのいくつかを諳んじる。
・平民の眼を傷害しまたは平民の骨を折傷したるときは、銀10枚を支払う
・平民を殴りしときは銀2枚を支払う
ただ殴っただけなら、済んだのだが。
・盗賊は死刑
もちろん兵らも、法典碑を知ってる。だからこそ震えてるのだ。
「他国につき温情をやろう。恥は身体をもって雪げ。ほかの兵への見せしめと皇帝への謝罪。身をもって償え。5人だから5日」
「い、5日ですか。しょんべんや飯は」
5日と言われて安堵がひろがる。いますぐの極刑か、最低でも一か月か、杭に縛れるかと、うなだれたのだ。5日なら飲まず食わずでも、死にはしない。
「垂れながし排泄は罪に問わない。優しき民が捧げるのであれば、何であろうとあえてとめたりない」
「……寛大な措置、ありがとうございます」
明らかに、ほっとした兵たち。差し入れを所望するつもりのようだが。
こいつらが王国の民にしでかした|何か<・・>が、利子をつけて帰ってくる。良いことをしていれば良いことを。何もしてなければ慈悲深い情けを。
「目には目を、か」
アイサッタが目くばせする。従者はうなづくと、5人のふくらはぎを短剣で切った。
「あぐっ……副長、なにすんすか」
傷は深くはないが、かといって浅いとはいえない。止血しなければ、5日ほど止まらない程度の傷だった。どくどくと流れた赤い血が、砂にしみ込んでいく。
「神に祈れ。ご加護があれば生きながらえるだろう」
「ふ副長ぉ」
「まてよ副長。悪かった」
「た助けてくれ。死にたくねぇ!」
アイサッタたちは、広場をあとにした。
「すこしは、暮らす民の溜飲がさがる」
これをみた他の兵どもは腰布を絞めなおすだろう。希望的にはそうなればいいが、バカな連中はいくらでもいる。現場で軍紀を取り締まるなど、上級将校代理の仕事ではない。特別手当を振りださないとな。
「アイサッタさま。申し訳ございません見失いました」
「気に病むことはない」
戻ってきた従者は、大きな体を小さくしてうなだれた。うちの手練れをまくとは、どういう少女だ。しかたがない。王都は狭い。出くわすことがあるだろう。
「弓隊の隊長に興味がわいた。探してみるか」
「アイサッタさまは本当に英雄がお好きですね。またつぶすのでしょう」
「人聞きの悪いことを言うな。自分は人材をあたってるだけだ」
人物に合い、人となりをみて話を聞き、従者に記録させる。覇業の障害になりそうなら排除することもあるが。それはついでだ。
夜がきた。杭にくくりつけたれた兵たちに、王都の住人は容赦なかった。衣服をはぎとられた。裸になった体に、頭や体を狙って石が飛んでくる。棒でめったうちされる。誰も声を発しない。人の気配がたくさんあるが、誰が誰かわからない。
やがて広場から住民がいなくなった。太陽が昇りはじめたころ、血の匂いをかぎつけた野犬が集っていた。血のしたたった肉を、牙を剥きだして奪い合う。食べる部分がなくなると、ハゲタカが掃除にやってくる。神のつくった自然の理は美しく完璧。
「5日後と命じたろうが」
アイサッタは肉片ひとつない骸骨に、かじりかけの干物を置いた。




